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春の箱庭
出会いたくなかった男
しおりを挟む「それって……」
「ああ、ごめん。別に不幸自慢ってわけじゃないんだけど」
「そ、そうなの……?」
「うん。世の中、子どもだろうが大人だろうが、平気で搾取する人間が多いから。オレの場合は、それがたまたま身近にいただけ」
理玖が育った環境では考えられないことだった。
貧乏で、満腹に食べることも出来なかったけれど、それでも温かい家庭だった。
だからこそ、苦悩しているのだ。もしここから逃げ出すことへの、足枷になっているのだから。
家族に迷惑をかけたくない。
「なんかしんみりしちゃったな。それじゃ、お先に。また夜に」
ひらりと手を振って、双葉は共有スペースから出ていった。
その背を見送りながら、理玖はあれ、と思った。
「夜に、ってなんだろう……?」
夜は、またあの時間が待っている。
昨晩と同じく、他の特待生達は一般生の欲の捌け口となるのだ。
理玖はゾッとした。あんな風に、快楽に溺れたくない。怖い。
授業時間を見計らって、こっそり寮を出た。
皆が出歩かない間に、保健室へ行って、香山と相談しなければ。そう考えて、校舎内に入ったところで、理玖の肩を叩く手があった。ビクリと体を震わせながら振り返れば、そこには見覚えのある顔あった。
今、一番会いたくないと言っても過言ではない相手だ。
「よぉ、特待生がサボリとは悪い子だ」
「ひっ」
そこにいたのは、あの夜理玖を抱いた男達のうちの一人……特待風紀委員の栗栖だった。
同時に、あの時の苦痛と快楽が一気に思い起こされて、身を竦めて後退った。
「あー、そんな怖がんないでくれよ。でも、気持ちよさそうだったぜ」
「そんなわけっ、あんなことされて」
「あの映像も大好評だったよ。嫌だ嫌だと泣きながら、感じまくってメスイキまでするんだから、逸材だって沸き立ったもんだ」
あまりにも卑猥で屈辱的な言葉をかけられて、カッと頭に血が上った。
こんなやつに屈服してたまるか。歯を食い縛って睨みつけるが、それはかえって相手を喜ばせる結果になったようだった。
「そんな可愛い顔で睨んでも、相手を興奮させるだけだ。ここでは、お前を性的な目で見ているヤツだけだって覚えておいた方がいい」
「……っ」
「まぁ、そう簡単には堕ちてくれないか。身体は素直なのにな」
「うっ、うるさい!」
「おいおい、授業中にそんなに大きい声を出したら聞こえるぜ」
ハッとして辺りを見回せば、幸いにも人の姿はなかった。
ホッとしていると、クツクツという笑い声が耳に入る。
「香山センセイに用があるみたいだが、残念ながら今日は出張でいない」
「な……っ」
「わざとだよ。香山センセイも色々頑張ってはいるが、学園の上層部は一人だって特待生を逃がしたくない。だから、このタイミングでお偉い方の接待旅行をセッティングさせて、同行させる。今頃、温泉でハメられてんじゃないか」
厭らしい笑みを浮かべる来栖に、心底吐き気がした。
香山が、どんな気持ちでこの学園い戻ってきたのか。
本来特待生に宛がわれる仕事を、学園の出資者である資産家達を相手に身体を開いている。それを想像すると、胸の奥が軋むように痛んだ。
「さて、特待生さん。俺と一緒に来てくれないか?」
「な、何するつもり、ですか……?」
「ん? そりゃもちろん、楽しいコトに決まってるだろ」
「やだ!離してくださいっ」
「おー、元気いいねぇ。だけど、俺にはお前達特待生を教育する権利がある。来てもらおうか」
「ひぅ……っ」
腰を引き寄せられ、耳元で囁かれる。
ゾクリとしたものが背筋を駆け抜けて、理玖は小さく悲鳴を上げた。
そのまま無理やり引っ張られて、風紀室②と書かれた部屋の前に連れてこられた。
ポケットから鍵を取り出すと、理玖の腰をがっしり掴んで離さないままに鍵を開けて中に押し込んだ。
無常に響く鍵をかける音と共に、理玖は壁際に追い詰められた。
「さて、理玖クンはどうやって楽しむのが好きかな?」
「やめ……っ、触らないでくださ……んんっ」
顎を掴まれると、強引に口付けられた。
舌を差し入れられ、口内を蹂躙される。息苦しさと嫌悪感で涙が出るが、それすらも舐められてしまった。
歯を立てて逃げようとするが、その瞬間背中から入り込んできた手が尻を撫でた。
「ひ……っ」
「栄養は足りてないようだが、ここでちゃんと飯を食ってればじきにいい塩梅の体つきになる」
「離してくださいっ、決められた時以外でのこういったことは、禁止だって」
「ああ、ただの一般生はな」
「……?」
意味ありげに言う栗栖に、理玖は眉を顰めた。
「俺達風紀委員は、特待生の教育という名目であればこの部屋に限り許される」
「な……、そんなこと」
「久木からは聞いてないって? あいつも、本当にお前さんを逃がすつもりがあるのかねぇ」
「どう、いう」
「まぁまぁ、そんなことより今は……」
ぐっと肩を押し付けられ、机の上に仰向けに押し倒された。
咄嵯に身を捩って抵抗しようとするが、栗栖の方が力が勝っていてビクともしない。
「仮病で授業や、昨晩の仕事も休んだ理玖クンへのお仕置きだ」
「やめて、ください……。お願いします、それだけは」
「安心しろ、すぐにそんなこと考えられなくなるくらい、可愛がってやる」
「いや……っ」
「くっく、そんな顔しても無駄だよ。ほら、足を開け」
「やだ……っ」
必死に抵抗するが、無情にもベルトを外されて下着ごと下ろされた。
応援ありがとうございます!
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みんなの感想(5件)
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コメントは初ですが、繰り返し読んでいます。
お忙しいと思いますが、更新心待ちにしています!
最高です!!!!
シチュエーションが好みすぎます!
今年見たBLでトップレベルに入るぐらい面白かったです!
もしよろしければ続きをお願いします!
アルファポリスやめちゃってないですよね〜😭続きが気になる〜
感想ありがとうございます。
めちゃくちゃ身に余るお言葉をいただけて、性癖にダイレクトアタックできたようで嬉しいです。
仕事が激ヤバで全然更新をできていなかったのですが、この度転職しまして、ぜひまた仕切り直して続きを書きたいと思います。よろしくお願いします。
こちらこそ、感想ありがとうございます!励みになります。
理玖は初めての友達だったということもあって、かなりフィルターかかってたところもあるんですよね。
身内に卒業生がいる場合はたいてい色々聞いてるので、腹の中はお察しくださいという感じです。たまにカルチャーショック受ける純情一般生もいますが、だんだん慣れてきます…
久木と篠原に関しては、ここまでの間に色々ありすぎて、何があってもラブラブです笑
理玖の話が区切りついたら、久木の過去編とかも書きたいですね。
この学園のアレなところは、最低限のラインは引いて、そこは絶対守らせるんですよ(ゴム着用必須、授業は絶対参加などなど)でも、敢えて隙を使ってルール内で上手く好き勝手するのも容認してます(クズの極み)
なので、卒業後も捕まるようなヘマをする人はほぼいないという裏設定です。
まだまだ始まったばかりなので、よろしくお願いします!