男子校の悪役令嬢

冴島

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高二ノ秋1

悪役令嬢の朝は遅い

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 11月1日、月曜日。
 これほど憂鬱な月曜の朝は、未だかつてなかった。
 一度目を覚ましてから、華麗に二度寝をキメ、我孫子に叩き起こされて漸くベッドから出た。

「もー、司くん遅刻するよ?」
「悪役令嬢は重役出勤していいんだよ」
「そういうところは悪役令嬢使ってくんだね……」

 鏡の前に椅子を置くと、我孫子は座ってとばかりにこちらを見て椅子の背もたれを叩いた。え、時間やばいからちょっとボサボサでもでようと思っていたんだが。

「悪役令嬢たるもの、身支度に気をつけなきゃ駄目だよ」
「そういうもん?」
「はい、黙って鏡見てて」

 いつの間にかコードに繋がれたヘアアイロンを出してきて、髪の毛に当てられた。おお、サラサラになっていく。
 世の中のオシャレ系女子は、毎朝これでヘアスタイリングしてるのかと思うと、素直にすごいな。
 しかもどこから入手してきたのか、ヘアオイルがつけられてツヤツヤになった。
 同室の我孫子から、侍女の我孫子と二つ名を与えた方がいいくらいだ。さらにどこから入手してきたのか、リップを塗られて唇もぷっくりツヤツヤになった。

「よし、準備完了」
「リップクリームとか塗るの初めてなんだけど……飯食う時つけちゃいそう」
「淑女たるもの!食器にリップをつけて食べてはいけません」

 やっぱ教育係の我孫子に変えたほうがいいかもしれない。


 そんなこんなで急ぎ足で学食に向かうと、廊下ですれ違う人達に挨拶をされた。しかもなんか優雅な雰囲気。
 いや、ここ男子校の寮だぞ。挨拶なんて体育会系の連中が、部活の先輩にするくらいだろう。
 スルーしようとした俺の足を、我孫子が笑顔で踏んだ。地味に痛い。

「司くんは、良家の御令嬢なんだよ?優雅に返さないとダメだよね」
「ご、ご機嫌よう?」
「そうそう、その調子」

 やっぱお前、教育係だろ。
 その後も何人もの生徒に挨拶をされ、内心げっそりしながら挨拶を返す。その度に「美しい……」「いい香りする……」とかヒソヒソ聞こえてきた。皆さんご苦労なことだ。
 自分で朝飯を取りに行こうとすると、再び我孫子が待ったをかけた。

「ダメだよ。お嬢様なんだから、そこで待ってて」
「えー……じゃあ、焼き魚定食で」
「流石司くん切り替え早い!行ってくるね」

 ニコニコ手を振って、我孫子は列に並んだ。パシらせるのは総長時代も子分共が率先してパシられたがっていたので、マァ慣れている。
 椅子に座ってふんぞり帰っていれば、目当てのものがやってくるのは、総長も悪役令嬢も同じだ。うん、我ながら堂に入っているかもしれない。

「おはよー、マジで悪役令嬢やってんだね?ウケる」

 笑いながら目の前にどかっと座ってきたのは、五十嵐光いがらしひかる。同じクラスのチャラ男ーーーを演じている、この度生徒会会計に選ばれた元爽やか系、現在チャラ男だった。なんでも、生徒会の会計というのは、チャラ男にならなくてはならないらしい。それが王道学園のキャラ設定だった。
 ピギャー!と女子のよりも低い、裏声の悲鳴が響く。

「なんでこっち来るんだよ五十嵐」
「そう言わないでよ、司チャン」
「うわ、今鳥肌立った」
「さっすが悪役令嬢~塩対応のプロじゃん」

 こいつほんとに昨日まで爽やか系だったのか?と首を傾げたくなるほどの見事のチャラ男っぷりだ。
 ヒソヒソ、会計の五十嵐様と御令嬢の東條様が微笑み合ってるわ、ヒソヒソ、と囁き声が聞こえてくる。いや御令嬢ってのは肩書きとしてどうなの?

「お前、アカデミー賞目指せるんじゃない?」
「あはは、司チャンこそもうちょっとキャラ作りなよ」
「五月蝿い。最低限のリソースでしか動きたくない」

 ああ、でも。と五十嵐の声が一段低くなる。

「平和に悪役令嬢、させるつもりないから」
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