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高二ノ秋1
昔噺をしよう2
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何度も脱走して、仲間に会いにいこうと思った。
でも、あのクソ親父は、やると言ったらやる男だ。一方的に押し付けられた約束だが、反故にすれば大義名分を得たとばかりに実行に移す。血も涙もない。そういうところが、大嫌いだ。
監視役である瀬馬の目を盗んで、どうにか手紙を送ることに成功した。
副総長で、同じ中学の後輩の皆月朔都。連絡が途絶えたと同時に、欠席が続いていることから、俺の身に何かしら怒っていることは気づいているだろう。
クソ親父のせいで、全寮制の監獄みたいな高校に放り込まれることになったこと。三年間は会えないこと。高校にさえ入ってしまえば電話はできるだろうけど、族に戻ることはできないから、朔都を次期総長に指名すること。
お前等を守るため、だなんてあまりにもダサくて書けなかった。ヤンキーにはメンツが大事なのだ。
親の言う事を逆らわずに聞くなんて、と愛想尽かされたかもしれない。それでも、俺にはこうするしかなかった。
三年後、大手を振ってあいつ等に会いに行くために、俺は苦汁を飲むことに決めた。
脱色していた髪は黒染めさせられ、切り揃えられた。
ブレザーの制服を規定通りに着せられ、入学初日は瀬馬の運転する車に、クソ親父と並んで後部座席に座らされた。
早朝、日も出てない時間に軽井沢を発進した車は、高速道路を走り、再び山道に入って、やがて木々が開けて校舎が見えてきた。
「あれが、お前を三年間閉じ込める檻だ。夏も冬も、帰ってくることは許さん。学園側には、私の許可のない外出を禁じるように手を回している」
「……クソ野郎」
「何とでも言え」
勝ち誇ったその顔を、殴り倒したくてたまらない。だが、一度親父に殴りかかって返り討ちにされたので、今更負け戦を仕掛ける気はしなかった。
このクソ親父、大学時代はボクシングで体を鍛えていて、今もジム通いに精を出していた。
しかし、盆も正月も帰らせないとか。
「ご安心ください、司坊ちゃん。秀嶺高校は、それはもう設備が整っておりますので、買い物は勿論、アミューズメント施設も揃っております」
「箱庭にはうってつけってことかよ」
「そういうことだ。三年後、卒業式まで大人しく過ごせば約束は守ってやる」
「……その言葉、忘れるなよ」
こうして、東條司は秀嶺学園に放り込まれた。
自家用車か、学園のチャーターバス以外でここを出てまともに人里に辿り着けない立地で、文字通り檻である学園の中で、俺は悔しいが三年間大人しく過ごすことに決めた。
あまり会話すると素がバレるので、出来るだけ口数を少なくし、同室の我孫子くらいしかまともに喋らない。
ミーハーな我孫子相手だと、マシンガントークに相槌を打つくらいで会話が成り立つので気が楽だ。
時折アンニュイな表情で窓の外を眺め、ため息をつく、美しい新入生。
深窓の御令嬢。
知らぬうちに、そんな渾名をつけられていることに、全く気づいていなかった。
でも、あのクソ親父は、やると言ったらやる男だ。一方的に押し付けられた約束だが、反故にすれば大義名分を得たとばかりに実行に移す。血も涙もない。そういうところが、大嫌いだ。
監視役である瀬馬の目を盗んで、どうにか手紙を送ることに成功した。
副総長で、同じ中学の後輩の皆月朔都。連絡が途絶えたと同時に、欠席が続いていることから、俺の身に何かしら怒っていることは気づいているだろう。
クソ親父のせいで、全寮制の監獄みたいな高校に放り込まれることになったこと。三年間は会えないこと。高校にさえ入ってしまえば電話はできるだろうけど、族に戻ることはできないから、朔都を次期総長に指名すること。
お前等を守るため、だなんてあまりにもダサくて書けなかった。ヤンキーにはメンツが大事なのだ。
親の言う事を逆らわずに聞くなんて、と愛想尽かされたかもしれない。それでも、俺にはこうするしかなかった。
三年後、大手を振ってあいつ等に会いに行くために、俺は苦汁を飲むことに決めた。
脱色していた髪は黒染めさせられ、切り揃えられた。
ブレザーの制服を規定通りに着せられ、入学初日は瀬馬の運転する車に、クソ親父と並んで後部座席に座らされた。
早朝、日も出てない時間に軽井沢を発進した車は、高速道路を走り、再び山道に入って、やがて木々が開けて校舎が見えてきた。
「あれが、お前を三年間閉じ込める檻だ。夏も冬も、帰ってくることは許さん。学園側には、私の許可のない外出を禁じるように手を回している」
「……クソ野郎」
「何とでも言え」
勝ち誇ったその顔を、殴り倒したくてたまらない。だが、一度親父に殴りかかって返り討ちにされたので、今更負け戦を仕掛ける気はしなかった。
このクソ親父、大学時代はボクシングで体を鍛えていて、今もジム通いに精を出していた。
しかし、盆も正月も帰らせないとか。
「ご安心ください、司坊ちゃん。秀嶺高校は、それはもう設備が整っておりますので、買い物は勿論、アミューズメント施設も揃っております」
「箱庭にはうってつけってことかよ」
「そういうことだ。三年後、卒業式まで大人しく過ごせば約束は守ってやる」
「……その言葉、忘れるなよ」
こうして、東條司は秀嶺学園に放り込まれた。
自家用車か、学園のチャーターバス以外でここを出てまともに人里に辿り着けない立地で、文字通り檻である学園の中で、俺は悔しいが三年間大人しく過ごすことに決めた。
あまり会話すると素がバレるので、出来るだけ口数を少なくし、同室の我孫子くらいしかまともに喋らない。
ミーハーな我孫子相手だと、マシンガントークに相槌を打つくらいで会話が成り立つので気が楽だ。
時折アンニュイな表情で窓の外を眺め、ため息をつく、美しい新入生。
深窓の御令嬢。
知らぬうちに、そんな渾名をつけられていることに、全く気づいていなかった。
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