男子校の悪役令嬢

冴島

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高二ノ秋1

昔噺をしよう

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 東條司とうじょうつかさは、家柄としては「悪役令嬢」の名乗るのに遜色のない名家出身だった。
 実家は三代続く上場企業の御曹司。次男なので、家を継ぐのは優秀な兄に決まっている自由気ままな身の上。
 そんな俺がなんでこんな窮屈な全寮制男子校にぶち込まれたかと言われれば、中学時代にヤンチャをしすぎてしまったせいだ。
 厨二病を変な方向に拗らせた俺は、暴走族の総長になって好き放題していた。いわゆる元ヤンって奴だ。
「その綺麗なツラをボコボコにしてやるよ」なーんて言ってきた奴を片っ端から病院送りにしてやった。噂が噂を呼んで、地元じゃ負け知らずの有名ヤンキーになっていた。

 七歳年上の兄貴が、某有名私立大学の経済学部を卒業。武者修行と称して実家と別の企業に就職したのを皮切りに、もうすぐ中学卒業を控えても荒れに荒れていた俺も、遂に年貢の納め時となった。
 父親の命令でひっ捕らえられて、縛り上げられて親父の前に引き摺り出された。
 腕を組んで無表情な父親の隣には、昔からの執事の瀬馬がシクシクと涙をハンカチで拭う。
 幼い頃に病気で母を亡くして以来、俺達兄弟は、瀬馬に育てられたようなものだ。

「司、いい加減遊びはおしまいだ」
「うっせぇよクソ親父。ウチは優秀な兄貴がいれば、俺なんてどーでもいいだろ」
「長い反抗期の原因はそれか?」
「ンなわけねーだろ。楽しくてやってるだけだっての」
「……全く、その方が困る」

 暴走族に入る奴なんて、大抵家に不満がある奴ばっかりだ。満たされないものを、バイクでかっ飛ばしたり喧嘩して発散する。
 女顔を揶揄ってくる馬鹿どもを返り討ちにしているところを、前の総長におもしれー奴ってことで誘われて、いい暇つぶしになりそうだと軽い気持ちで入ったわけだが、一年半も経っているうちに家族みたいな感覚になっていた。
 上の世代がパクられたり引退したりで、後任を選ぶところで、喧嘩の腕と包容力(?)を買われて次期総長に選ばれたのだった。

「いいから、悪い仲間とは縁を切りなさい。いいね?」
「ハァ!?絶対嫌だからな」
「……もう高校の願書を出す頃だろう。地元の進学校に行かせるつもりだったが……今の成績では、とてもじゃないが合格できない」
「司坊ちゃんは地頭は良いのですが、如何せん最近全く勉強しておりませんから……」

 おいおい、とまた瀬馬が涙を拭った。
 授業もサボりまくっているし、テスト自体フケているので、俺の内申点は見るも無惨なことだろう。ザマーミロ。
 腕を組み、黙り込んだ親父は、不意に俺の前にパンフレットを投げつけた。

「お前には、この高校に行かせる。寄付さえすれば、試験は名前を書くだけで受かる」

 そこには、全寮制の男子高校と書いてあった。しかも東京じゃない、山奥のど田舎だ。有り得ない。

「ハ、俺が大人しく名前書くわけねェだろ」
「無免許運転に、バイクの窃盗。廃工場への不法侵入、その上傷害。何と言ったか、山本ーーー」

 親父がつらつらと名前を読み上げる。それは、全て仲間の名前だった。

「調べ上げたのかよ」
「ああ。お前のせいで、可哀想に。前科がついてしまう子もいるだろうな」
「クソ、野郎……っ!」
「実の父親に、随分な口を利くじゃないか」

 悔しげな顔をする俺に対して、親父は勝ち誇った顔で告げた。

「この学園で三年間、大人しく過ごせ。ここをきっちり卒業して、一流の大学に合格すれば、昔の仲間に会ってもいい」

 そうして俺は、別れも告げられぬままに試験を受けさせられ、合格。
 春まで長野の別荘に閉じ込められて、そのまま秀嶺高校へと放り込まれた。
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