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宴
しおりを挟むなんとか拘束を解いてもらった俺は、彼らが用意した机と椅子のセットに移った。まだ本調子じゃないから、移動はここまで許して貰えなかった。そのため、机の上には彼らが用意した料理が所せましと並べられている。
いまいる小屋が小さいから、扉を開けて、各々小屋の中か外で酒を呑んだり、料理を食べたりしている。
ルフは屈強な男たちに囲まれながら、グビグビと男に負けない吞みっぷりを披露している。
「すまないな、貴重な食料をわけてもらって」
俺は、近くにいた男に話かけた。村長は、俺を置いて外で村の連中と酒を吞んでいる。
「いやぁ、俺たちの風習でね、恩人には腹いっぱい食ってもらわないといけないんだわ」
男は、酒が入ったグラスを片手に赤い顔でにこやかに答えてくれた。
「そういうことなら、ご馳走になるよ」
俺は黒色のパンをちぎり、口に運んだ。炭の風味がしたが、これがうまい。そして、全然固くなく食べ易い。次に、山盛りの焼かれた肉の一角に手を伸ばすが
「お客さん、すいやせん。これ使ってくだせえ」
さっきの男が未使用のフォークをくれた。ここは、手で食べるのが習慣だと思ったが、違うようだ。
「あぁ。悪いな。」
俺は貰ったフォークで、肉を一枚丸々口に持って行った。肉はそこそこ堅かったが、許容範囲だ。
噛めば噛むほど、肉汁があふれ出し、口の中が満たされていく。
「うまいな」
俺のフォークの持つ手は止まらなかった。野菜の盛り付け、スープ、魚料理どれも美味しい。
「すごい食べっぷりだな」
「もう、皿が全部空になっちゃうわ」
「なんせ3日も寝てたからな」
急に喉が詰まった。3日も寝ていただと!?てっきり、一晩だけかと思っていたが、そんなにも寝ていたか、我ながら情けない話だな。
「あの、お兄さん」
喉を詰まらせた俺を見かねて水瓶とコップを女性が持ってきてくれた。
「あぁ、すまないな」
俺は、水を流しこむ。
「ところで、旅人さん」
「なんだ」
「名前を聞いてもよろしいですか?」
再び喉がつまりそうになった。
「俺の名前はない」
「ナイさん?」
「違う、名無しだ」
「じゃ、村長といっしょですね」
「なにっ?」
あの外で踊っている村長も俺と同じで名前がないのか。
「すまないが、村長を呼んできてくれないか?話がしたい」
女性は小屋から出ていき、村長を呼びに行った。
******
「どした、あんちゃん?」
村長は酒が溢れんばかりにつがれたジョッキを持ってやってきた。
「あぁ、聞きたいことがあってな?」
「なんだ?村一番の美人についてか?」
「違う、名前とこの集落についてだ」
「名前か?生き残るために交換しちまったよ。それと、この村は、もと居た街の連中を連れてきただけだ」
村長はジョッキを傾け、酒を半分まで減らし、ドンっと勢いよく置いた。。
「誰と交換したのか。あと、街ってなんだ?」
「えぇとだな……そいつは、なんかピエロみたいなお面をしてたな。あとは、街か。龍がやってきて滅ぼされた。
「龍か。厄介な獣だな。ピエロの仮面……どっかで見覚えが……」
「うぅ……」
村長が急にうめき声を出した。
「おい、大丈夫かっ?」
「おっ」
村長はズボンのぽっけから、キューブを慌てて取り出し、
「おええええええ」
キューブに向かって吐き出した。キューブを袋替わりに使うのか。一つ学ぶことができた。
「悪ぃ、続きは明日にしてくれ。今日は宴を楽しんでくれ」
村長はそう言うと俺が今まで寝ていたベッドまで千鳥足で歩み、ダイブした。
「はぁ……」
俺は深い深いため息をついた。
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