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◇ 二章一話 切望の春 * 元治二年 一月
文の宛先
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改めて沖田と愁介に声をかけて部屋へ向かえば、永倉と原田が心得た様子で出迎えてくれた。
「松平、明けましておめでと~」
「よう、おめでとさん!」
「永倉さん、原田さん、明けましておめでとうございます! 昨年に続き、本年も何卒よろしくお願い申し上げます」
膝をついてきびきび丁寧に頭を下げた愁介に、永倉は「ひえ、堅っ苦しい」と苦笑いをこぼした。愁介はそれにニヤリと笑み返し、しかし変わらず慇懃な低姿勢のまま答える。
「いやあ、礼儀は大事かなと思いまして」
「あっ、じゃあ今年も無礼講で」
「ありがとうございまーす!」
愁介は爛漫な笑みで顔を上げ、手のひらを返すようにすたたと永倉の傍らへ歩み寄り、原田と三人で互いの手を叩き合わせた。ぱん、と小気味良い音が鳴り、見守っていた沖田が斎藤の傍らでくすくす肩を揺らして笑う。
「あれ、藤堂さんからの文を読み合う会って聞いてたんだけど、山南さんは?」
愁介が、ふと気づいたように室内を見回す。
「ああ、平助の奴ね。近藤さんと土方さんに一通、山南さんに一通、他はまとめて俺達に一通、っていう素晴らしく依怙贔屓な寄越し方をしてきやがったのよ」
「ま、平助らしいけどな!」
永倉が悪戯っぽく目を細め、原田も然もありなんと笑い飛ばす。
「あっはは、なるほど。じゃあオレはこのまま局長さん達に挨拶行ってくるよ」
「えっ、愁介さん、藤堂さんの文は読まれないんですか?」
明るく頷いて踵を返そうとした愁介に、沖田が驚いたように目を丸くした。
「いやいや、さすがにオレが読んでいいものじゃないでしょ。新選組の仲間に宛てた文なんだし」
「んー、それがね。俺と左之は先に読み終えたんだけどさ、ちょっと松平に話したいこともあるから、一緒に読んじゃってくれない?」
永倉が、思案げに眉尻を下げた薄い笑みで言葉を挟んだ。
どことなく神妙なその様子に斎藤がわずかに片眉を上げると、目ざとく気づいた永倉は、まるで助けでも乞うように斎藤を見ながら指先でちょいちょいと文を指し示す。
「……まあ、藤堂さんが愁介殿に見られて困るものを書き寄越すとは思えませんから、いいんじゃないでしょうか」
『話したいこと』が何かは知れないが、永倉が無意味なことを言うとは思えず、斎藤はひとまず誘いに乗って言葉を継ぐ。
と、首をかしげていた愁介は構えを解くように息を吐いて「そう? じゃあ、お言葉に甘えて」と、外に向けかけていた身をその場に落ち着かせた。
「じゃあ、はい。これ」と永倉から差し出された文を沖田が受け取り、斎藤と愁介がその両脇から沖田の手元を覗き込む。
開かれた文には、実に藤堂らしいと感じられる、丁寧ながらも伸び伸びとした字が並んでいた。
「松平、明けましておめでと~」
「よう、おめでとさん!」
「永倉さん、原田さん、明けましておめでとうございます! 昨年に続き、本年も何卒よろしくお願い申し上げます」
膝をついてきびきび丁寧に頭を下げた愁介に、永倉は「ひえ、堅っ苦しい」と苦笑いをこぼした。愁介はそれにニヤリと笑み返し、しかし変わらず慇懃な低姿勢のまま答える。
「いやあ、礼儀は大事かなと思いまして」
「あっ、じゃあ今年も無礼講で」
「ありがとうございまーす!」
愁介は爛漫な笑みで顔を上げ、手のひらを返すようにすたたと永倉の傍らへ歩み寄り、原田と三人で互いの手を叩き合わせた。ぱん、と小気味良い音が鳴り、見守っていた沖田が斎藤の傍らでくすくす肩を揺らして笑う。
「あれ、藤堂さんからの文を読み合う会って聞いてたんだけど、山南さんは?」
愁介が、ふと気づいたように室内を見回す。
「ああ、平助の奴ね。近藤さんと土方さんに一通、山南さんに一通、他はまとめて俺達に一通、っていう素晴らしく依怙贔屓な寄越し方をしてきやがったのよ」
「ま、平助らしいけどな!」
永倉が悪戯っぽく目を細め、原田も然もありなんと笑い飛ばす。
「あっはは、なるほど。じゃあオレはこのまま局長さん達に挨拶行ってくるよ」
「えっ、愁介さん、藤堂さんの文は読まれないんですか?」
明るく頷いて踵を返そうとした愁介に、沖田が驚いたように目を丸くした。
「いやいや、さすがにオレが読んでいいものじゃないでしょ。新選組の仲間に宛てた文なんだし」
「んー、それがね。俺と左之は先に読み終えたんだけどさ、ちょっと松平に話したいこともあるから、一緒に読んじゃってくれない?」
永倉が、思案げに眉尻を下げた薄い笑みで言葉を挟んだ。
どことなく神妙なその様子に斎藤がわずかに片眉を上げると、目ざとく気づいた永倉は、まるで助けでも乞うように斎藤を見ながら指先でちょいちょいと文を指し示す。
「……まあ、藤堂さんが愁介殿に見られて困るものを書き寄越すとは思えませんから、いいんじゃないでしょうか」
『話したいこと』が何かは知れないが、永倉が無意味なことを言うとは思えず、斎藤はひとまず誘いに乗って言葉を継ぐ。
と、首をかしげていた愁介は構えを解くように息を吐いて「そう? じゃあ、お言葉に甘えて」と、外に向けかけていた身をその場に落ち着かせた。
「じゃあ、はい。これ」と永倉から差し出された文を沖田が受け取り、斎藤と愁介がその両脇から沖田の手元を覗き込む。
開かれた文には、実に藤堂らしいと感じられる、丁寧ながらも伸び伸びとした字が並んでいた。
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