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◇ 二章一話 切望の春 * 元治二年 一月
明るい助太刀
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助けてくれとのたまいながら、その相手の刀を持つ手を封じるとは、どういった了見か。
いや、了見も何も、女は恐怖によって混乱をきたしているだけなのだろう。が、斎藤からすれば端的に言ってさらに面倒で邪魔になっている事実は否めない。
はあ、と再び白いため息を吐いてから、斎藤は仕方なく鯉口を切った刀を左腕一本で鞘から抜き払った。
幸い、道幅は大して広くない。お陰で三人一斉に飛び掛かられる、ということはなかった。が、二人同時に来た時は、斎藤を掴んでいる女の身体がさらに強張って、攻撃を避けることもできなかった。
斎藤は、片側の男が上段から振り下ろしてきた一刀を刀で受け止めた。同時に、もう片方の男には足を振り上げて鍔を蹴り、体をぐらつかせたところへ太ももを蹴り飛ばして後ろに押し返す。
しかし、残っていたもう一人がそこへ間髪容れず突きを繰り出してくるものだから、再び足で刀身を蹴り払うも、さすがにこれはまずそうだと背筋がうすら寒くなった。
……死なない程度に女を突き飛ばして囮にしてみようか。
などと考えてしまうほどには、状況を苦しく感じた時、
「おやおや、随分と面白いことになっているじゃ――ありませんか!」
敵の背後から駆け込んできた人影が、どうにか斎藤が片腕で鍔迫り合いをしていた男に刀を振り抜き、後退させてくれる。
現れた男の頭に揺れるぼんぼり髪を目の端で捉え、斎藤は半ば無意識に、強張っていた己の肩からわずかに力を抜いた。
「沖田さん、恩に着る――」
「オレもいる――よっ、と!」
斎藤の言葉を食うように、もう一人の気配が奥から飛び込んでくる。敵の死角をくぐるような低姿勢から放たれた居合い一刀に、改めてこちらへ飛び掛かろうとしていた敵がたたらを踏み、後ろへよろめいた。
「斎藤さん、愁介さん、これで三三ですから、一人頭一人ということで!」
沖田が明るく言うと、今しがた飛び込んできた愁介はその濡れ羽色の髪と紅鬱金の結い紐を風に遊ばせながらうなずき、舌なめずりをして目の前の敵へ向かっていった。
明らかに変わった形勢にようやく女も平静さを取り戻しかけてきたのか、右腕にかい付いていた力がわずかにゆるむのを感じた。瞬間、斎藤は少々乱暴になるのを承知で改めてそれを振り払い、女を後ろに下がらせて目の前に残った一人と対峙する。
他の二人を従えていたように見えた一番年かさのその男は、苦々しく眉根を寄せて舌打ちすると、やはり他の二人に酒焼けした濁声を飛ばして鋭く言った。
「おい、退け! これ以上は無駄だ!」
言うが早いか、男は手にしていた刀を鞘に納める間も惜しむように、即座に踵を返して駆け出した。ある意味潔いその素早さに、他の二人も慌てた様子で背を向けて逃げていく。
「おお……速いな」
愁介が呆気に取られたように呟いた。
沖田も目を丸くして「追います?」と小首をかしげながら、遠ざかっていく三つの背を指差す。
「いや……いいんじゃないか?」
斎藤は酷く疲れた気分で、気だるく答えるしかなかった。
いや、了見も何も、女は恐怖によって混乱をきたしているだけなのだろう。が、斎藤からすれば端的に言ってさらに面倒で邪魔になっている事実は否めない。
はあ、と再び白いため息を吐いてから、斎藤は仕方なく鯉口を切った刀を左腕一本で鞘から抜き払った。
幸い、道幅は大して広くない。お陰で三人一斉に飛び掛かられる、ということはなかった。が、二人同時に来た時は、斎藤を掴んでいる女の身体がさらに強張って、攻撃を避けることもできなかった。
斎藤は、片側の男が上段から振り下ろしてきた一刀を刀で受け止めた。同時に、もう片方の男には足を振り上げて鍔を蹴り、体をぐらつかせたところへ太ももを蹴り飛ばして後ろに押し返す。
しかし、残っていたもう一人がそこへ間髪容れず突きを繰り出してくるものだから、再び足で刀身を蹴り払うも、さすがにこれはまずそうだと背筋がうすら寒くなった。
……死なない程度に女を突き飛ばして囮にしてみようか。
などと考えてしまうほどには、状況を苦しく感じた時、
「おやおや、随分と面白いことになっているじゃ――ありませんか!」
敵の背後から駆け込んできた人影が、どうにか斎藤が片腕で鍔迫り合いをしていた男に刀を振り抜き、後退させてくれる。
現れた男の頭に揺れるぼんぼり髪を目の端で捉え、斎藤は半ば無意識に、強張っていた己の肩からわずかに力を抜いた。
「沖田さん、恩に着る――」
「オレもいる――よっ、と!」
斎藤の言葉を食うように、もう一人の気配が奥から飛び込んでくる。敵の死角をくぐるような低姿勢から放たれた居合い一刀に、改めてこちらへ飛び掛かろうとしていた敵がたたらを踏み、後ろへよろめいた。
「斎藤さん、愁介さん、これで三三ですから、一人頭一人ということで!」
沖田が明るく言うと、今しがた飛び込んできた愁介はその濡れ羽色の髪と紅鬱金の結い紐を風に遊ばせながらうなずき、舌なめずりをして目の前の敵へ向かっていった。
明らかに変わった形勢にようやく女も平静さを取り戻しかけてきたのか、右腕にかい付いていた力がわずかにゆるむのを感じた。瞬間、斎藤は少々乱暴になるのを承知で改めてそれを振り払い、女を後ろに下がらせて目の前に残った一人と対峙する。
他の二人を従えていたように見えた一番年かさのその男は、苦々しく眉根を寄せて舌打ちすると、やはり他の二人に酒焼けした濁声を飛ばして鋭く言った。
「おい、退け! これ以上は無駄だ!」
言うが早いか、男は手にしていた刀を鞘に納める間も惜しむように、即座に踵を返して駆け出した。ある意味潔いその素早さに、他の二人も慌てた様子で背を向けて逃げていく。
「おお……速いな」
愁介が呆気に取られたように呟いた。
沖田も目を丸くして「追います?」と小首をかしげながら、遠ざかっていく三つの背を指差す。
「いや……いいんじゃないか?」
斎藤は酷く疲れた気分で、気だるく答えるしかなかった。
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