Ω〜本能で縛る愛縛〜

天海 真白

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episode 1

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六月に入って最初の土曜日空は雲ひとつない綺麗な青空。
 モスグリーンに胸下に黒の太めリボンが印象的なAラインのパーティドレス。膝下なのが綺麗めだ。黒のピンヒールでまとめて…。
 髪はカールし、緩めのアップ…アクセサリーも…
「よしっ!」
 冴島さえじま玲奈れな二三歳。
 今日は友人の結婚式。都心を少し離れた海辺にある挙式場は、「RISEライズResort Hotel」今年出来たばかりの話題のホテルだ。
 地上五〇階建ての二〇階に位置した式場で執り行う。
 大きなガラス張りのチャペルは太陽の光を集め眼前には海と空、まるで天空にいるかのよう…。
「素敵ね…私もαと結婚したぁいッ」
 そう言ったのは高校からの友人の佐藤 葵だ。
「そう?恋愛結婚は憧れるけど、私は無理。」   

  
( 子供は欲しいけど……無理だから…。)


「ホント玲奈は思考が地味ね…。見た目とのギャップが凄いわ…」「どうゆう意味よッ‼︎」
「玲奈はαと結婚したぁい‼︎って思わない?」

「思わない…。」


 この世界は生まれた時から人間的地位がある…。
 一般的なのがβ…。葵もβだ。人口の殆どが当てはまる。Ωのフェロモンに左右されず、男女間で結婚するのが一般的。子供はやはりβが多い。αもΩも産まれるが、圧倒的に少ない。

 そしてα…。人口の割合は少ないが、生まれつき優秀な者が多く、頭脳明晰…容姿端麗…会社では絶対的地位を誇る。
 αの中でも優劣がある。α+とα-…。α-が一般的。α+は稀血で、αの中でも一握りにも満たない。


 そして、Ωの発情期ヒートと呼ばれる妊娠可能期がある。この期間はαに強烈なフェロモンを発して、誘惑する。
 なので、αはΩのフェロモンに反応しないよう、抗フェロモン薬を使う。

 βと違うのは、Ωのフェロモンにあてられると、女性でも妊娠させられる事。

 同性同士の結婚が可能だ。

 そして、結婚も法的に自由だ。αもβやΩと結婚出来るが、αの出生率は異なる。α同士、Ωと結婚した場合は出生率は上がる。が絶対はない。βもΩも産まれる。
 βと結婚した場合はαの出生率はグンと下がる。


 最後はΩ…。

 割合はαよりも少ない。
 一定の年齢になるとヒート…と呼ばれる発情期が始まる。
 社会的地位も低い。
 発情期がある為仕事に支障をきたしやすく、定職につきにくい。

 男女共に妊娠可能。つまり、子供を産む為だけの存在である。と言っても露骨に差別されることも現代では少ない。
 仕事もΩ性であるが故のペナルティと思えば然程思い悩むような事はなく、仕事もあるし、番つがいのいる人は役職に就いているΩもいる。それに抑制剤など、薬も進化していて、自分に合った薬でコントロールする。要するに自己管理が大切だという事。

 αともきちんとした距離感で接すれば会社でも接することも容易だ。勿論、友人としても…。


 一般的な認識であるΩ…。男女共に庇護欲を掻き立てるような雰囲気をもってる。私はそうではないが………。

 Ωが妊娠出来るのは当たり前……ではない。
 ごくごく稀に妊娠不適合者がいる。
 妊娠しないΩなんて聞いた事がない。
 でも、Ωである私はその妊娠不適合者だ。卵子が作られていない。子宮はちゃんとあるが、卵が作られない。 
 原因不明の病気だ。
 私は……発情しない。ヒートはあるが微弱で、αにフェロモンを当てることがない。



 Ωはヒートが始まる前から抑制剤を服用し、コントロールする。
 私の場合、種類は違うが抑制剤を毎日服用する。また、半年に一度は婦人科で診察するのを推奨されている。 私のようはケースは稀で、何故フェロモンが出ないか、卵子が排卵できないは解明されてない。子宮は健康そのものだから、何かの拍子に排卵されるかもしれない……。よってヒートがいつ爆発するかわからないのだ。 
 私的には、無闇にヒートと発症させ周りに迷惑をかける事の無い現状は好ましい。
 ヒートによって、発情し、妊娠、出産が普通だが、ヒートがあっても発情しない。微熱っぽい症状や、倦怠感がある。
 社会では、普通のΩよりも働きやすいが、働く事しか自分の存在価値を見出せない。


 そして私は………。Ωの劣化版…みたいなモノ…
 βでもない…Ωでもない…愛する人の子供が産めない…

 ………………………………………………………………………

「お疲れ様です。楓様…予定通り十九時よりACTアクトの会食があります。会長と綾香様も同席されます。」

「綾香も来るのか?」
 専属秘書の世那が遠慮気味に答える。
「どうしても同席したいとの事で、申し訳ありません。」
 仕事の話じゃないな…鬱陶しい…
「それと津田マネージャーがお話があるそうで、
 二〇階のラウンジに来て欲しいそうです。」

「ラウンジにいるのか?」
「はい。本日は挙式を執り行っておりまして、二次会も任されているそうです。」
「時間は?」
「十八時ぐらいには落ち着くそうです。」

「津田の所に寄ってそのまま店に行く。」
「承知致しました。」

「ちなみに明日の予定は?」
「はい。明日は十三時から本社で会合があります。」
「分かった。」
「では後程…」

 ライズリゾートホテルのエントランスで別れオーナーズスウィート直通のエレベーターで最上階を目指す。

 RISEカンパニー株式会社 取締役専務 獅堂しどう楓かえで二九歳(α) 獅堂財閥の嫡子である。
 一八〇㎝の長身に長い手足…黒髪を後ろに軽く撫であげキリッとした眉 綺麗な鼻筋 唇は薄めである。そして彼の目… 切れ長の奥二重でその双眸で見つめられると男でも立ち尽くしてしまう程。彼を墜としたい人は数多い。姿だけでなく頭脳明晰まさに神レベルとは彼の事だ。

 そしてこのエレベーターは、楓専用で専用のカードキーが無ければ乗ることは出来ない。故に誰にも会うこともなく部屋に行ける。



 エレベーターが二〇階に近づいた時、楓の身体に変化が…
  ……ドクンッ……
 身体中の血液が心臓に集まるような……
  ……ドクン…ドクンッ………
 なんだ⁉︎……カラダが熱い⁉︎……
「動悸か…」
 初めての感覚に動揺するが……疲れているのか…そう言い聞かせて最上階でエレベーターを降りた………


 同じ時……
 玲奈は披露宴も終わり友人達と二〇階のロビーにいた。
 二次会もこのフロアのBARを貸し切って行われる。
 今日はこのホテルに宿泊する。
「玲奈この後どうする?」
「十八時からだよね?まだ時間あるし、ちょっと部屋で休む。洋服も着替えたいし…葵は?」
「じぁ私も着替える。休むのは何か勿体無いから色々見てくる。一緒に行かない?」
「私は良いよ。行ってきて。」
「分かった。じゃぁ後でね。」
「うん」
 玲奈はエレベーターを待つ間、結婚式を振り返りながらボーッとしていた。
 ふと我にかえった瞬間……背中に電気のようなものが走った。……えっ…なに……⁉︎
 身体に力が入らない。咄嗟に壁にもたれ掛かる。
 ……熱い……心臓が全身に血液を送る音が聞こえてしまうくらい鼓膜が音を拾う。
「はっ……はぁ…ッ」
 まさか…ヒート……⁈
 そんなはずはない。こんな症状になった事もない。
 薬もちゃんと飲んだし、ホテルの受付での簡易検査もパスした。Ωは人の集まるような所では簡易検査が必ず行われる。人が集まる場所でヒートを起こすと大変なことになる。だからヒートの前兆があればどのような状況においても立ち入り不可だ。ヒートじゃない……。今までこんな事は無かった。
 現に周りを見てもフェロモンにあてられた様子はない……。

 ………大丈夫、ヒートじゃない…アルコールのせいかも…
 玲奈もそう自分に言い聞かせてエレベーターに乗った。

 ………………………………………………………………………

  十八時過ぎ…楓はラウンジのバッグヤードに来ていた。
 先程のような動悸は治まったものの、トクトクトクッ…とまだ治らない動悸に訝しみながら男を探す。
「おっ!来たか。」
「久しぶりだな、忙しそうで何よりだ。」

「お陰様で…人手が足りなくて駆り出された。」
「総支配人も大変だな。」
「大変なのはこの後でしょ?綾香も今日来るんだってね。俺にもお呼びがかかったよ…。給仕しろだって。本当お嬢様の相手は骨が折れる。でも今日は目の保養も出来た事だし頑張るよ。めっちゃ美人だった~。あれは間違いなくαだね…。理知的で色気が半端なかったなぁ。イロイロだだ漏れだった…周りの奴も目を奪われてたし。もう少しこのホールにいたいぐらいだ。」
「目の保養?くだらない。客を見てやる気が出るならそれは良い。会社の為に働け。」


 津田は幼少期からの友人で、彼もαだ。色素の薄い髪を全て後ろに軽く流してまとめ、パッチリ二重で顔も小さい。物腰の柔らかな感じて容姿端麗…異性からの人気も高い。

 いわゆる癒し系だ。見た目は……。

 そんな津田が楓を見てニヤニヤしながら話す。
「よく言うねぇ。頑張らないといけないのはお前でしょ?
 自称 綾香様の婚約者サマ?どうせ今日も楓のご機嫌とりでしょ?綾香も性格サバサバしてるのに、お前には、やけに粘着質だよな。近づき過ぎず、遠過ぎず…。隙を狙ってる。」
 上品な笑顔を見せながら津田が楓を見る。
「綾香と結婚しない。そもそも結婚するつもりもない。」

「そんなにΩ嫌い?」
 ………………。
「運命の番……いると良いね~。」
「…………そんなものは迷信だ。くだらない。もうこんな時間だ。そろそろ行くか。」
 部屋を出ようとした時

「ってゆうか楓顔赤くない?大丈夫か?」
「あぁ、さっきから動悸が治らない。酷くはないんだが。」
「疲れか?最近も忙殺されてるもんなぁ。まだ時間はあるから此処で少し休んでから行けば?スタッフに伝えておくから少し休んでから来い。間は持たせておく。」

 楓は少し考え…
「大丈夫だ。時間通りに行く。悪いな。」
「了解」
 そう言って二人は部屋をあとにして別れた。


 ……………………………

 二次会に出席した玲奈は葵と二人でブュッフェを楽しんでいた。今着ている服は黒のレースのワンピース。一目惚れして購入した物だ。少しラフな格好たが、二次会だし問題ない。お気に入りの服に気分も上がる。


 でも葵はご機嫌斜めだ。
「葵この苺のタルト美味しいよ。食べる?」
「食べないッ‼︎」
 はぁ…始まった…プクプク頬を膨らせてフォークをくわえてる。
「どぅしたの?。かわいい顔が台無しよ。ほら食べて。」

「いらない。私は今日、ケーキを食べに来たんじゃないの!
 出逢いを求めて来たの‼︎ ………。なのに玲奈ばっかりィ~ッッ‼︎ ずるいわよ~ッ‼︎」

「もぅッ!葵落ち着いてッ!あれは皆私がαだと思って声を掛けてきた人達だよ。Ωだって言ったらヤラシイ目で見てたし…そんな男なんて駄目でしょ?興味もないよ。」
 玲奈は昔からΩっぽい容姿をしていない。背も一六三㎝あり、庇護欲を掻き立てるよりも妖艶な雰囲気だ。見た目だけではなく、性格もサッパリしていて、人懐っこい性格だが、人を簡単に近づかせない雰囲気もαに近い。

「それに葵はちゃんと彼氏いるでしょ‼︎ 怒られても助けてあげなよ~?私は今日、葵の騎士ナイトなんだから。」
 ニヤニヤしながら話すと、


「それでも声掛けてもらえて羨まし過ぎるんですけど~ッ‼︎」
 そんな事をブツブツ言ってる佐藤 葵は高校時代からの親友だ。バース性はβ(ベータ)だ。一五六㎝の小さめの身体に小さな顔。大きな目が印象的だ。まさに守ってあげたくなるような可愛い女性だ。

 見た目によらずハキハキと思った事を口にするが、優しく正義感の強い女性だ。

 私の身体の秘密も知っているし、隠し事もない。
 勿論、今まで彼氏がいない理由も…。
 普通のΩじゃないからとかではなくて、異性だと意識すると、身体が拒絶反応を起こす。
 例えば、キスしたいと思っても、思った瞬間、吐き気や悪寒の症状が出る。
 思春期の頃は凄く不安で病院にも通った。診断は〚異性拒絶症〛だそうだ。

 このような症状の人は少なからずいる。何かのきっかけで、克服する事もあるそうだか、今の段階では私に克服できる症状は見当たらない。 すごく悩んだ時期もあったが、自分がΩなのもあって今は煩わしさもなくて平和だ。

「さすが高嶺の花ね…そんな事ばっか言ってたら玲奈、花の化石になるわょ……。ダメ元でチャレンジしなきゃッ‼︎」

「チャレンジする前から、いつも砕けてるわぁ…。あぁ~ッ!悲しい⁈日々修行よッ‼︎頑張るわッ‼︎」
「頑張る気ないくせに、よく言うねぇ。」

 二人で笑いながら過ごした。

 少し時間が経つにつれ玲奈の身体に異変が……。
 あれ…また動悸が…
 アルコール控えてたのに、どうしたんだろ?

 そっと胸元を押さえる。嫌な感じではなく身体がポカポカするような…不思議な感覚だ。
「玲奈どうしたの?少し顔が赤いよ。」
「うん、ちょっと体調が良くないみたい。動悸がするの。」
「酷くならないうちに休んだほうが良いんじゃない?新郎新婦に挨拶もしたし、早めに抜けても大丈夫よ。」

「でも葵の保護者の私が、先に帰るなんて暁人に怒られる~。」
「もぅ‼︎大丈夫よ‼︎心配しなくても優子達と一緒に居るから。
 早く部屋で休んでおいで。明日は休みなんでしょ?また連絡するから。」

「本当にいいの?大丈夫?」 
「大丈夫だってば‼︎ 玲奈を泣かせる事は絶対しないッ‼︎」
「ふふッ。分かった。じゃぁ、お言葉に甘えて先に部屋に戻るね。何かあったら連絡してね。」
「オッケー‼︎」

 本当に酷くならないうちに休んでおこう。ラウンジから出てエレベーターに向かう。
 トク…トク…トク……。

 あぁ、本当にどうしたんだろ……知らずのうちに呼吸も浅くなってきた。
「……はっ」足元がぐらついて、床にに蹲み込んでしまった。 立ち上がりたいのに、力が入らない……。
 誰か呼ばなきゃ……。

「おい、大丈夫か?」

 …………………………………………

 身体に触れられた瞬間、ドクリと血液が反応したかのような…甘く…重い衝撃が身体中を駆け巡った。
 身体を支えてくれる綺麗な男性から目が離せない。
 彼もこちらを見つめたまま目を逸らさない。
「……あ…」声が出ない。甘く痺れたような感覚が襲う。

 何……⁉︎分かんないッ‼︎どうしちゃったの⁉︎ 身体が凄く熱い………クラクラする……。

「大丈夫か?」
「は…はぃ…だぃ…じょ…ぶ…で……」
「どう見ても大丈夫じゃないだろ。宿泊客か?部屋まで案内できるか?私はホテルの者だ。怪しい者ではない。…くっ…。」

 大丈夫かと、彼女に問いかけてはいたが、自分の身体もおかしい……。彼女に触れた途端…香水の瓶が割れたような濃くて甘い匂いが広がる。鼻腔に匂いが掠めた時…ドクンッ‼︎……下肢に血が集まっている。
 なんだ?どうなっている⁉︎ 彼女はΩなのか? Ωの簡易検査は、ヒートの前兆も判別出来たはず……何故か嫌な予感がするが、嫌悪感は抱かない。欲求が増す。不思議だ……。


 ここに居ても良い事はない……。彼女も話せる様子ではない。 質問は無駄だったか…。仕方ない……。
「取り敢えずここから移動する。抱き抱えるから、暴れないでくれ……。」
「あっ…やっ…」

 楓は彼女の言葉を無視して専用のエレベーターに乗った。


 部屋に着くとソファに寝かせられた。
「はぁ…はぁ…っ」
 何が起きているのか自分でも分からない…。
 とにかく身体が熱い…。熱くて…どうにかなってしまいそう……。
 朦朧とした意識の中でここが自分の部屋ではないということ。そして目の前にいるとても綺麗な男性……。
 男性も体調が良くないんじゃ……。肩で息をしてる………。

 声を掛けたいが思うように声が出せない……。

 すると徐におもむろ男性が電話を手にして何処かにかけている。
「世那か…あぁ、すまない。……つッ…今日の会食キャンセルしてくれ。 やっぱり体調が優れない……。あぁ…大丈夫だ。来なくていい。何かあれば連絡してくれ……会長にも丁寧に詫びといてくれ。近いうちに食事の席も…あぁ分かった。よろしく頼む……。」

 電話を切ったあと、彼と目が合った…。息が荒い。
 やっぱり綺麗な人だ……あぁ……熱い……初めての感覚に戸惑うが確信する…。

 ……ヒートだ……
 今まで一度もこんなにも熱が身体に籠ったことがなかった。
 これがヒート……なの?肌に触れて欲しい欲求が増す。
「……んッ…はッ…はぁ…」小さく声を漏らすように息を吐く。止まらない…。

「君はΩなのか?」
 震える身体を握りしめてゆっくりと頷く。

 男の喉がゴクリと上下した。

 目元がうっすらと赤くなっている。
「で…も…わ…たし…いちど…も…んッ…こん…なふうに…なっッ…たこと…ない…んで…す…」

「薬は…常備してるんだろ?……どこだ?」
「…抑制…剤は……持って…ませ…ん。」

 Ωなのに、抑制剤を常備してないとはどういう事だ。
 常備薬は当たり前で、持っていないとは非常識にも程がある。 世那に薬を持って来させるか……。


 …………………………。

 今…俺は何を考えたんだ…コクリと唾を飲む……
 楓も初めての高揚感と爆発的な欲情を持て余していた。

 初めての感情にゾクリと身体を震わせる。
 この女を抱いたら俺はどうなるんだ?抱いてみたい…… 抱きたい……。

 底無しのように湧き上がる欲求を声に乗せる。
 ………「君は…どうしたい?」………
 何を言ってるんだ俺は……でも…止められない…。
 崩れかけた理性で問いかける…。
「薬を…下さ…い。ご迷惑を、お掛け…して…申し訳…ありま…せん…。…あッ…」

 彼女の控えめな声に身体が反応する…
  女の声に充てられた事などない。
「いやらしいな…」
「えっ……んッ‼︎」

 玲奈は唇をペロリと舐められて身体が跳ねる。
 気持ちいい…全身が溶けそうだ…舐めらめただけなのに…

 ………………
  ………えっ…今…キスされた……⁉︎…嫌じゃなぃ…。
 身体が拒絶していなかった……ウソッ……⁉︎

 玲奈が考える間もなく問いかける。
「キスしてもいいか?」
 頬に手を寄せ…まっすぐ私を見つめてる….欲情の孕んだ眼で…

 本当に、身体は拒んでいない?怖い……でもキスしたい…
 もっと触れて欲しい……ダメなのに……
 そっと彼の手に自分の手を重ねる…。ピリッと電気が走る…
 お互い小さく身動いだ…その瞬間目が合って…

 唇が重なった…ちゅっ、ちゅっと小さな音たてながら下唇を食まれる。彼の舌が小さく私の唇の割れ目をノックする。
 口元を緩めた瞬間彼の熱い舌が入ってきた。
 根元からゆっくり舐めあげられる。
 くちゅッ…くちゅッ…
(すごく…気持ちいい…キスって甘いんだ……)

 初めて感じる快感に羞恥を覚えた舌を彼の舌が執拗においかけてくる。舌同士を大きく擦り付けられ、根元から触れた…
「……ふ……ぁ…んっ……」
 下半身が甘い衝撃を受け、じわ~っと熱い蜜が溢れるのを感じる。
 恥ずかしいッ!でもどうしたらいいの?やめたくない……
  秘所が快感を拾いジンジンする……キスだけでこんな……
  無意識に玲奈は腿を擦り合わせていた。
 飲み干しきれないお互いの混ざり合った蜜が口の端から溢れ落ちる……。それを彼の舌が優しく舐め上げまた口を塞ぐ。

「身体が熱いな…感じているのか?」
 楓は指先で玲奈の身体をなぞる…
「ぁんッ…やッ………ッ…」
 全身が性感帯のようだ……ダメなのに意志とは反対に彼の動きを身体が快感に変換してしまう。

 すると楓はいきなり彼女を抱き上げた。向かった先は寝室だ。少し乱暴な仕草だったがベッドの上に乗せられ、私の足を跨いで顔の横に手をついた。
「俺がお前を鎮めてやる……」
 そう言った彼は壮絶な色香を放って射止めるような眼で私を見下ろした。
 ………ゾクゾクッ………
 触れられてもいないのに身体が反応する……
 ……どうしよぅ…彼が欲しい……欲しくてたまらない…初めて欲しいと思った本能に……委ねてみたい………。

「今ここに薬はない。お前を鎮めてやれるのは俺しかいない。」

「ぁ…あの…私……初めて、なんです……。だから……ぁッんッ‼︎」
 楓は玲奈が話し終わる前に唇を貪った。
 楓も肩で息をしながら夢中で唇に吸いつく。はぁ…はぁッ…
 
「怖いか?」 コクリと玲奈が潤んだ瞳で頷くと、ふと目元を和らげ
「優しくは出来ないかもしれないが…。俺は…君を抱きたい…ダメか?」
 口元に優しいキスを落とす。
 玲奈はゆっくり楓の首に自分の両手を伸ばして絡める。
 合図のような仕草に楓が動き出す……。
 背中に手を差し入れワンピースのファスナーを下ろして素早く脱がせる。ワンピースを脱いだ玲奈の身体を舐めるように見つめる。黒の下着にガーターベルト……そして透き通るような白い肌…欲情的な姿に喉を上下させる。

「無理だ…」 静かにそう呟くと、楓は玲奈に覆いかぶさった。
 キスで口を塞ぎながら、ブラのホックを外した。まろみでた
 双丘を掌で覆う。大きいとは言えないが、楓の手に収まる形のいい胸だ。
 楓は胸の頂にある淡い蕾を指で弾いた。
「あぁッ…はっ…んっ…‼︎」
 痺れるよう快感に腰が揺れる。指の動きが止まらない。時折人差し指と親指でキュッと摘まれる。硬くなった蕾を弄りながら、もう片方の手は乳房を根元から揉み上げ顔を近づける。玲奈があっ!っと思った時には蕾に赤い舌が絡みながら口の中に吸い込まれていった……。舌と歯ですり潰すように舐めまわされ玲奈の意識が軽く飛んだ……。
「あぁッ‼︎……」

「軽くイッたか?」
 胸で大きく息をしながら玲奈は楓を見つめる。
「私……イッたの………?分からな……んっ……」
 キスで口を塞がれ楓の手が下に降りていく。
「あッ…やぁッ……‼︎」
 恥ずかしい…嫌だと思うのに…拒みきれない…もっと先にある快感を望んでしまう。

 ………あぁ…墜ちてしまう………
 楓の指先がクロッチ部分に触れると、秘裂に沿って上下になぞる。
 ちく、くちゅ、っと卑猥な音がする。時折、硬くなった花芯を下着の上から爪先でカリカリッと転がす。
「やだッ…あッ……んふッ…っ……」
「嫌じゃない…全身トロトロだ…身体中から甘い香りが溢れてる。頭がクラクラする。君の中に入ったら俺が溶けそうだ…。」
 そう言いながら、玲奈の下着を引き剥がし、指を蜜壺にゆっくり沈める……ぐちゅッ、ぐちゅッ、淫靡な音を出しながらかき混ぜていく。
「凄いな………グズグズだ…溢れてくる……。止まらない…」
 人差し指と中指を蜜壺に沈め密壁を擦る。大きく出し入れしたり、パラパラと指を動かし玲奈の良いところを探す。腹側の壁を引っ掻く様に擦ると、一際大きな声が漏れた……
「あぁぁぁッ‼︎……あッ…んッ……やだッ!怖いッ!!……」
「大丈夫だ…怖くない…素直に快感に溺れろ……け…」
 耳元で囁かれた瞬間…指の動きが激しくなった。ぐちゅ、ぐちゅ、と淫靡な音をたて蜜壺を乱暴な仕草でかき混ぜる。痛くなぃ…甘くて強い快感の波が押し寄せるッ……‼︎
「もぅやだッ……ぁッ…ぁッ…あぁぁぁッ……‼︎」

 ……何も考えられない…気持ちいい……

「上手にイけたな……。可愛いな。もっと虐めてやりたいが…悪いが俺も限界だ…」
「えっ……ぁッ!待って……待っ…きぁッ‼︎」
 まだ身体がビクビクと痙攣している。息もまともに出来ないのにッ…‼︎
「待てない……ッ」
 楓は玲奈の両脚を掴むと左右に割った。その脚の間に身体を寄せた。いつの間に準備したのか被膜を覆った彼の楔が秘裂を上下し玲奈の花芯を擦る。そして、ゆっくり蜜口に沈めていく……。
「くっ…」
 額にうっすら汗が滲み眉間を寄せて吐息を零す姿は壮絶な色気を放っている。

 無意識に身体に力が入る。
「んっ…‼︎」

「大丈夫だ。…ゆっくり息をしろ…。ほら…」

 玲奈はゆっくり息を吐いた…
「あぁッ……ッん……あッ…」

 玲奈の怯えるような……甘い吐息が零れる……

 甘い吐息を奪うように唇を貪る。その間も楓は蜜路に分身を埋め込む…。
 玲奈の身体から力が抜けた瞬間一気に最奥まで沈めた。
「ぁあっ……あッ、あんっ‼︎」

「はぁ、はぁ、はぁッ…くる…しッ…‼︎」
「…全部……入った…ぞ…」

 くち、くちゅ…
 お互いの重なり合った場所から卑猥な音がする。小さな音なのに…凄く耳に響く……。耳まで犯されてる…。

 深く繋がったままキスを交わす。とても優しいキスだ。心身共に絆され夢中でキスに応える。

「まだ、動いてないのに…もうイきそうだ…っ!」

 楓はそう呟きながら優しく玲奈の最奥をノックする。
 ………ぬち…ぬちゅッ………
「あぁッ!ぁんッ…あっ…んっ…」
 お互い小刻みに腰が揺れてる…。
「気持ちいいか?」
「分かんないッ!あっ!ぁんッ」
 段々と挿入が激しくなる。
 あぁ…なに…この感覚ッ⁉︎…気持ちいいッ…
  ……もっと欲しいっ………‼︎
 蜜路が馴染んできたところで楓は分身をギリギリまでゆっくり引き抜き勢いよく腰を打ちつけた。
「あぁぁぁッ‼︎んあぁッ!あッ…あッ‼︎」

 激しい抽送にぐじゅッ、ぐちゅッと音をたてながら蜜口から快液が飛び散る。
「顔が蕩けてる…ここも…気持ちいい?」
 楓は愛液でベトベトの花芯を根元から摘んで扱く。
「あっ、あッ…んくッ…!」
「ヌルヌルして上手くつかめないな。ほら…」
 その間も激しい抽送は止まらない。声の鳴る場所を執拗に攻めてくる。角度を変えて何度も…。
 途切れる事のない快感を、全身で受け続け…溶けてなくなってしまいそう……。
 ……あぁ…何かくる……ッ‼︎
「あぁッ…もぅ…やっ…だめぇ…ッ‼︎あぁぁぁッ‼︎」
 得体の知れない大きな衝撃に玲奈は背中を仰け反らせて達した…。
「くっ!あぁ…っ!」
 同時に楓も玲奈を強く抱きしめながらドクドクと被膜の中に精を吐き出した…。

 玲奈は意識を手放す直前、無意識に男の顔を見つめ微笑んでいた。
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