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episode.16 海中の友達
しおりを挟むサトにここまで何で来たか聞かれ、カヤックと答えたらとても驚いていた。
「船はないと思ったけど、カヤックか……よく漕いできたね、大変だったでしょ?」
「いや、そうでもなかったけど」
「いやー、若さってすごいね! 私じゃ絶対無理」
サトは感心しながら冗談めかして破顔してみせる。私はそれを笑っていいものか分からず、愛想笑いで返した。
サトはそれを気にする様子はなく会話を続ける。
「カヤックどこに停めてる?」
「えーと……こっち」
私はサトを引き連れて自分のカヤックを停めた場所へ向かった。
まさかシャワーを浴びる事になるとは思ってもみなかったから、図らずもミベロをかなり待たせてしまった罪悪感が歩調を速める。
しかし数歩行った所で、サトがついてきているか心配になり振り返る。
彼女はゆったり大股でついてきていた。私はもう少し速く歩いて欲しいな、ともどかしく思いつつで再度歩み始める。
船着場の隅のカヤック置き場で立ち止まると、サトは品定めするようにうんうんと頷きながらカヤックを眺めた。
そして腕を組み考え事をするように唸る。何か不味い事でもあったかな、私は不安になりその顔を覗き込んだ。
ばちっとサトと目が合う。彼女はおもむろに口を開いた。
「直さ、どこで寝泊まりするつもりだったの?」
「……そこまで考えてなかったや」
考えていなかった事をサトに指摘され、もはや苦笑いで肩を落とすしかない。そんな私の様子に彼女も呆れ顔でため息をついた。
肩身の狭い思いになる私を見てかサトは仕方ないなと表情を緩めた。
「あてがないなら今夜は私の船で泊まりなよ」
「えっ、いいの?」
「まあ、ここまできたら、ね。旅は道連れ世は情けってね」
「なんかいろいろお世話になっちゃってごめん、でも助かる。ありがとう」
私は深々と頭を下げた。それにサトは少し困ったように笑った。
「それじゃあ、とりあえず直のカヤックはそのままそこに置いといて。私の船、結構奥の方に停めちゃってるんだよね。案内するわ」
「あ、その前に、友達呼んでいい?」
「そういえばそんな事言ってたね。本当にいたんだ……で、どこにいるの? 見当たらないけど」
彼女は怪訝な顔で周りを見渡した。私もカヤック周囲の水面を眺め回してみたけど、ミベロの姿は見当たらない。
「ちょっと呼んでみるね。おーい! ミベロー! 待たせてごめん! 出てこれるー?」
私は桟橋から乗り出して、すっかり暗くなり静まった海面に向かって声を張り上げた。
すぐに返事はなく、あれ、と首を傾げていると足元から泡が弾ける音が聞こえた。
すぐ下の水面に目を移すと、波紋を広げながらミベロが姿を現した。再会できたことに安堵し笑みが零れる。
「ナオ!」
「ミベロ! 良かったぁ、いなくなっちゃったかと思った。ごめん、待ったよね?」
「ダイジョブ、ヨ」
桟橋の影に隠れて表情は見えないが、怒ってはなさそうだ。ほっと胸を撫で下ろす。
その時、背後から面食らった声が聞こえた。
「えっえっえぇっ!? も、もしかして、ぎょ、魚人?」
「あっ、えっと」
サトの声に慌てて振り返るもすぐに言葉が出ずどもってしまう。
そうしてる間にもサトは驚きを隠せないといった様子で、私の横に乗り出してミベロと向き合った。ミベロはきょとんとした顔だ。
「誰?」
「へぇ! 話せるんだ! あ、私の事はサトって呼んで。直とさっきそこで知り合ったの」
サトはそう言って後方の建物を指し示した。
ミベロがそれを見ようと首を伸ばしたが、遮るようにサトが身を乗り出す。
「あんたの名前は?」
「私、ミベロ」
「ミベロ、ね。よろしく、ミベロ!」
サトは思いのほか早く魚人の存在を受け入れて、もう既にミベロと普通に話している。
彼女の適応力には感心していると、一通り話し終わったサトがこちらを振り返った。
「まさか友達ってのが魚人だとは思わなかった。いろいろ聞きたいけど、とりあえずこんな所で話もなんだし私の船に行こうか」
そんなサトの提案で私達は彼女の船へ向かう事となった。
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