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1.異世界召喚と言えばチートじゃないの!?
しおりを挟むふと眩しさを感じて目を開けた。
そこは真っ白な空間で何も無い。
あれ、俺、たしか……会社で残業してて……寝落ちしちゃったかな……にしても、この空間は一体……?
寝ぼけたまま辺りを見渡していると、ふと頭上から清廉な女性の声が降ってきた。
「火之浦竜也、貴方は死にました」
「は、はあ?」
突然の死の宣告に素っ頓狂な声が出てしまう。
しかし女性の声は俺を無視して話を続けようとする。
「貴方にはこれから別の世界へ行っていただきます。そこで」
「ちょっ、ちょっと待て!
いきなりそんな言われても訳わかんねぇよ。
てか死んだって? マジ? てかなんで?
つーか、ここどこだよ? てかお前誰? どこにいるんだ?」
「質問が多いですね……面倒臭い。
まあ、仕方のない事ですから、いいでしょう、答えて差し上げます。
貴方は過労で残業中の会社で亡くなりました。死亡時刻は2:44:29です」
過労? マジか……まあでもあの会社ブラックだったしな……いつか死ぬとは思ってた。
でも俺、まだ25歳なのに……早過ぎだろ。まあ仕事ばっかで思えば思い残した事はないけど。
てか秒刻みで死亡時刻教えてくれるんだ……。
「ここは世界と世界を繋ぐ、謂わば世界の狭間です。
そして私はここの橋渡し役を務めます、渡守のリンクと申します。
低次元の貴方の目には私は映らないでしょうが、目の前に立っています。
…………これで満足ですか?」
あたかも面倒臭そうに長い息を吐くリンクとか言う渡守。
一応、俺の質問には全部答えてくれたようだが、いまいち理解できない事がある。
「なんで俺はここに連れてこられたんだ?」
「それを今から説明しようとした所で、貴方が口を挟んだのですよ。
少しは黙って話を聞けませんか?」
かなりキツめに口止めされた。
いや、たしかに俺が遮ったかもだけどさぁ……同じ立場になったらとやかく言いたくなると思うけど。
俺が静かになったのを確認してリンクは話し始めた。
「貴方はこれから今までとは違う世界へ転移します。
そこで貴方は──ドラゴンの生贄として大人しく食べられてください」
「は、はあああああああああ!?」
二度目の死の宣告に先程よりも大きな声が飛び出す。
「な、なんだそれ!?
異世界召喚っつったら、ほら、あれだろ?
チートスキルとかもらって、世界を救ったり、スローライフ送る展開じゃないの!?」
「何を仰っているのか分かりかねますが、ただ食べられる為だけの生贄の貴方に与えられるスキルはありません」
「ええええええ!!!
それはさすがに鬼畜過ぎない!?」
「そのように神が定めたので異論は認められません。
それに貴方も望んだ事ではないですか?」
「はぁ? んな訳」
「誰でもいいから俺を必要として欲しい、そう願いましたよね?」
心当たりが無いわけではなかった。
毎日つまらない辛い仕事の繰り返し。
泣き言を言えば「お前の代わりはいくらでもいる」と脅されて逃げ場のない職場。
もちろん、恋愛なんてしてる余裕はなかった。
家族も自分の事ばっかで、いつの間にか疎遠になってたし。
精神を蝕んでいく環境で、たしかにそんな事を望んだかもしれない。
けれども、だ。
「いやいやいや! いくらなんでも、そういう事じゃないことくらいわかるだろ!」
「数多のドラゴンから必要とされ、奪い合いになります。良かったですね」
「良くねぇよ!!」
嫌味なのか本気なのか、リンクの声のトーンはずっと一定なのでよく分からない。
少なくとも話が通じる相手ではなさそうだ……。
ならせめて悪あがきをしよう。
「な、なぁ、リンク?
本当に一つもスキルもらえないの?
簡単なやつでいいからさ、少しくらい異世界ライフ満喫したいんだよ」
「ふむ、そうですね──あるにはあるようです、が……」
含みを持たせたリンクの言い方に俺は引っかかる。
「……あんまり使えない感じ?」
この際使えなくてもいい、とも思うが、どうせあるならできれば便利なスキルがいいに決まっている。
リンクは暫く黙っていたが、漸く重い口を開いた。
「すぐには使えません。使えたとしてもかなり先の事となるでしょう」
「えぇ~なんだよ……それじゃ無いも同然じゃん」
「ですが、もし本当に貴方がその《███》を使いこなせたなら……死なずに済むかもしれません」
「え? なんだって?
大事な所が聞き取れなかったんですけど?」
「……どうやら伝える事もできないようですね。
神も酷な事をなさる。しかしそれも運命なのでしょう」
リンクは一人納得している。
おーい、俺の命がかかっているのに俺だけ置いてけぼりにしないで?
しかし、そんな心の声など届くはずもなく。
「これ以上、話す事はありません。
火之浦竜也、貴方をこれからディラジオン国に送ります。
神の御加護はございませんが、貴方の第二の人生が良きものになるようお祈りいたします。
そしてドラゴンの生贄として、精々大人しく食べられてください」
矛盾を内包した別れの言葉に俺は苦笑するしかない。
「精々生き抜いてやるよ!」
せめてもの仕返しに俺は虚勢を張ってみた。
一瞬だけ、儚げに微笑む暗黒色のローブの少女──まるで死神のよう──が見えた気がした。
それをしっかり確かめる間もなく、俺はまた光に包まれた。
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