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第二章 後輩少女が出来ました

第31話 彼女の部屋と想い出

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「ただいま」
「お邪魔します」

 そう言って、真澄の家に入る。

「おかえりなさい。ってあら?」
「あ、どうも。お邪魔してます」

 おばさんが出てきたので、挨拶する。

「……なるほどね。ごゆっくり」

 僕と真澄を交互に見つめて、何かに気づいたらしいおばさん。
 どうしたんだろうか。

「あのな。かーさん。邪魔せんといてな」

 何やら微妙な表情でおばさんを見つめる真澄。

「それはもちろん。仲が良いのはいいことだものね」

 そんなことを言って、奥に去って行く。

「どうしたの?」
「気にせんといて」

 少し気にはなったけど、特に不機嫌そうでもないので、
 スルーすることにした。

「はい。どーぞ」
「っていっても、こないだと同じでしょ」

 先日、真澄を起こしに行ったときに既に部屋は見ている。小学校の頃からあんまり変わっていないなあ、というのが正直な感想だった。

 そんな軽口を叩きながら、入ってみると。え?

 フローリングの床がピンク色の絨毯に。
 部屋の中央には、少し背の低いテーブル。
 他にも、ちょっとお洒落な小物がちょくちょく。
 見事なまでに、僕が想像する「女の子のお部屋」になっていたのだった。
 先日の旅行の時に見たハリセンも置かれているのが面白い。

「……」
「どや?」

 うかがうような表情。

「びっくりした。なんか、凄い可愛い感じになってて」
「ちょっと頑張ってみたんやけど。似おうとる?」

 頑張ってくれたのが嬉しいのもそうだけど。
 それ以上に、僕と一緒に過ごすために裏で色々してくれてたんだろうな、と。
 そんな様子を想像すると、とても愛おしく思えてくる。

 思わず、ぎゅっと彼女を抱きしめていた。
 
「え、えーと。いきなりは、ちょっと恥ずかしいんやけど」
「だって、真澄がこんなことをするから」
「ウチは、コウが喜んでくれたらな、と思っただけで、別に……」
 
 抱きしめているから表情は見えないけど、照れくさそうなのが
 声色から伝わってくる。

「ねえ。キスしてもいい?」
「そ、そりゃええけど」

 少し腕をゆるめて、見つめ合う。
 落ち着かない様子で目線をきょろきょろさせているところとか、
 艶やかな唇も。
 なんだか、とても可愛く見える。
 そして、ゆっくりとキスをしたのだった。

 それから、しばらくして。

「なんか、予想してたのと違うんやけど」

 なんだか、納得がいかないという表情の真澄。

「だって、僕のためにあそこまでしてくれたんだって思うと、色々嬉しくて」
「別にコウと一緒に過ごすために、ちょっと模様替えしてみようかなと思うただけで、別に……」

 謙遜しているわけではなくて、本心から言っているのが分かる。
 だからこそ、余計に嬉しい。

「ひょっとして、さっき、おばさんと話してたのも?」
「かーさんは、注文したものとか知っとるからな」

 それもそうか。

 ふと、部屋を見ていると、本棚の隅に、アルバムがあるのを発見した。

「そこのやつ。アルバム?」
「見る?」
「うん」

 ということで、アルバムを鑑賞し始める僕たち。

 まず、最初の方に目に入るのは入学式のときの写真。
 家にも、同じころのはあったけど、少し視点が違うな。おばさんが撮ったのだろうか?
 ちっちゃい真澄の表情が、少し緊張してるように見える。

「なんか、少し、緊張してない?」
「それはな。大阪から引っ越して来たばっかりやったし」
「言われてみれば。視点の違いだね」

 こないだは流してしまっていたけど。
 僕にとっては、地元での入学式だったけど、
 真澄にとっては、引っ越した先での初めての入学式だったんだ。

「そういえば、このちょっと前に引っ越して来たんだったよね」

 今になってしまうと、もう朧気だけど。そのときのことをなんとなく思い出す。

――

「これから、お世話になります。お向かいさん同士、よろしくお願いします」
「いえいえ。こちらこそ、よろしくお願いします」

 知らないおばさんとお母さんが挨拶をしている。
 誰か、引っ越して来たらしく、こういうときには、お互い挨拶をするものらしい。

 知らないおばさんの横には、ちっちゃな子。

「ほら、宏貴も。ご挨拶なさい」
「どうも。まつしまこうきといいます。よろしくお願いします」
「まあ。まだ小さいのに礼儀正しいのね」

 おばさんにそう褒められる。
 僕にとっては、普通に挨拶をしたつもりだったので、
 どうしてそんな風に褒められるのかよくわからなかった。

「それじゃ、真澄も。ほら」

 おばさんがさっきの小さい子を少し前に押し出す。
 その子と目が合う。

「ウチは、なかどますみ、ていうんや。その、よろしう」
「あら」
「あ、すいません。関西から引っ越して来たばかりなので」
「いえいえ。お気になさらず」

 そんなやり取りが交わされる。
 そのやり取りの意味は、僕にはよくわからなかったけど。

「関西弁って初めて聞いたよ。面白いね!」

 本で読んだことのある「関西弁」が初めて聞けて、とても興奮していたのだった。

「かんさいべん?」

 その女の子がどこかきょとんとしている。

「ますみちゃんがしゃべっている言葉の事だよ」
「そうなんや」
「「関西弁」って初めて聞いたから、もっと色々聞かせて」
「う、うん」

 ちょっとその子が戸惑っていた意味はよくわからなかったけど。
 そうして、「ますみちゃん」と僕は、一緒に遊ぶようになったのだった。 
 
――

「でも、なんで、「関西弁」って言っただけで、そんなにびっくりしてたんだろう」

 今思い出しても、よくわからない。

「あー。コウにとってみれば、そうなんやろね」

 なんだか、納得した様子の、ますみちゃん、じゃなかった、真澄がそう言う。

「どういうこと?」
「あのな。あの歳で「標準語」とか「関西弁」ってはっきり区別がついてる子って珍しいんやで」
「あ、そうか!」

 そういえば、なんで、こども向けの絵本って、なんであんなにわかりやすいことを難しく書いてあるんだろう、と幼い頃から、常々疑問に思っていたけど。
 あの歳頃だと、そっちが「普通」なんだ。
 唐突に納得がいった。

「そう言われると、昔の自分がちょっと恥ずかしくなってくるな」
「それがコウなんやから。それにな、おかげでウチは随分救われたんよ」
「それ、前も言ってたよね。どういうこと?」

 気になったので聞いてみる。

「コウは覚えてないかもしれんけどな。「なんや」とか、語尾に付くだけで、はじめの頃は、随分からかわれたもんよ」
「そういえば、そんなこともあったような」

 からかわれたのは僕じゃないから、当然かもしれないけど。

「でも、それが?僕が庇ったとか、そんなかっこいいエピソードでもあったっけ?」

 ちょっと冗談めかしてたずねてみる。

「庇ったっていうかな。「関西弁がそんなに不思議なの?」って、からかってきたやつらに言うたんよ」
「あー、そうか。同い年の子にしてみれば、「変わった言葉を使う変な子」に見えてたけど、僕にとっては、「関西弁を使う普通の子」だったんだ」
「そういうことや。からかって来た奴ら、何が言われたかわからない、って顔をしてて、面白かったわあ」

 僕にとってみれば、普通のことを言ったつもりだったんだけど。
 
「それで、真澄と仲が良くなれたのか。納得」
「それだけやないんやけど。ま、それはそのうち」
「そういう風に焦らすのはどうかと思うな」

 そんな風にして話に花を咲かせたのだった。
 あれ?なんか、肝心な目的を忘れてるような。
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