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プロローグ 友達以上、恋人未満
第5話 学校でのオカンな彼女
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その夜。不意に、僕のスマホに着信があった。相手を見ると、『杉原朋美(すぎはらともみ)』とある。
朋美は、正樹たちと同じく、小学校の頃の付き合いだ。今は真澄と同じ高校に通っている。朋美には、時々相談に乗ってもらってたり、近況報告をしあったりしているけど、彼女からの電話は珍しい。
スマホを手に取ると、
『やっほー。コウ君』
元気な声だ。小柄で活発、ストレートに下した髪、くりくりした大きな瞳、年齢相応に発達した胸が特徴の彼女は、真澄と同じく昔から人気者だった。
『久しぶり。今日はどうかしたの?』
『どうっていうわけじゃないんだけどね。ますみんと何かあった?』
ますみん、というのは、朋美が真澄のことを呼ぶときのあだ名だ。どこかの芸能人を想像してしまいそうなあだ名だが深くは考えないようにしよう。
それにしても、何か、か。確かに、色々あったのだけど。どこまで言って良いものやら。
『あったといえば色々あったね。そっちで真澄が何かした?』
『いつもより浮かれてたよ。スマホの画面を眺めてニヤニヤしてたりしたし』
スマホの画面というと、お昼休みのメッセージのやり取りだろうか。そこまで楽しみにしていたとは。
『……まあ、なんていうか、登下校を一緒にしたり、あいつが弁当を作ってきたり。色々あったね』
『……きゃー。それってどう見ても、ますみんがコウ君に気があるってことだよ。いつも、よく恋愛相談してきたけど、両想いだったってことじゃん!』
そう興奮気味にまくし立てる朋美。
『いや、ことはそう単純じゃないなくて。真澄なりに色々寂しかったみたい』
『寂しい?』
怪訝そうに聞き返す声。
『うん。考えてみると、中学に上がってからは、あいつと一緒に登下校することもなかったし。それで思うところがあったみたい』
あんまり細かいことを話すのはどうかと思うけど、相談に乗ってもらっている身だ。これくらいはいいだろう。
『そっかー。でも、寂しい、か……』
何か真澄が孤立している、とか、そういうことでもあるのだろうか。
『ひょっとして、真澄、そっちで何かあった?』
『ううん。そういうんじゃないんだけど。ますみんの昔のあだ名が「おかん」っての覚えてる?』
『そりゃもう』
何かトラブルがあると面倒を見に行くのがあいつの日課みたいなものだったから、そういった扱いが当たり前になっていった。
『でさ。ますみんは誰彼構わず、世話焼くじゃない?』
『それはよくわかるよ。昔からそうだったし。それが?』
そういう奴だったから、小学校の頃は、何かあると皆は真澄に頼っていたし、本人も満足そうだった。
『そっちは男子校だからわからないかもだけどさ。ますみんってさ、可愛いし、性格も良いし、誰彼構わず世話を焼くじゃない?』
『それと男子校と何の関係が?』
中学に上がってからも真澄がそうしていたのは本人からも聞いているし。
『男子共はさ。ちょっと助けてもらうと、すぐ、ますみんが気が有るのかって思っちゃうみたいでさ……』
『……』
確かに、日頃接点の無い可愛い子から世話を焼いてもらえたら、もしかして、という気持ちになるのはわからなくもない。
『だからさ、事あるごとに、ますみんに告白する男子が出るんだよねえ』
『わからなくもないけど』
僕は真澄が近くにいるのが当たり前だから、世話を焼くのに他意がないことを知っているけど、それを知らないと無理もない。
『ますみんも、真面目に毎回丁重にお断りすんだけどさ。「うちは、皆に幸せになって欲しいだけなんやけどなあ。どうして、すぐに気があるとかいう風になるんやろ」ってよくこぼしてるよ』
『それは初めて聞いた』
真澄は中学高校とうまくやっていたと思うけど、そんな苦労があったのか。
『女子人気のある男子を振ったこともしばしばだから、女子にも反発する子はいるみたい。味方も多いんだけど』
『そっか。今も昔も、あいつは「オカン」だったんだなあ』
中学に入ってからも、一回も彼氏の話を聞いたことがなかったけど、ほんとにあいつらしいというかなんというか。
『だからさ』
真剣な声色で朋美が言った。
『ますみんのこと大事にしてあげて。一番分かってあげられるのはコウだと思うから』
電話を終えて、少し物思いにふける。
僕と遊ぶときはいつも明るく楽しそうな真澄にそんなことがあったなんて。
そんなことも知らなかった自分がますます恥ずかしくなる。
僕だけでも、真澄が安心していられる場になれれば。そう決心した夜だった。
朋美は、正樹たちと同じく、小学校の頃の付き合いだ。今は真澄と同じ高校に通っている。朋美には、時々相談に乗ってもらってたり、近況報告をしあったりしているけど、彼女からの電話は珍しい。
スマホを手に取ると、
『やっほー。コウ君』
元気な声だ。小柄で活発、ストレートに下した髪、くりくりした大きな瞳、年齢相応に発達した胸が特徴の彼女は、真澄と同じく昔から人気者だった。
『久しぶり。今日はどうかしたの?』
『どうっていうわけじゃないんだけどね。ますみんと何かあった?』
ますみん、というのは、朋美が真澄のことを呼ぶときのあだ名だ。どこかの芸能人を想像してしまいそうなあだ名だが深くは考えないようにしよう。
それにしても、何か、か。確かに、色々あったのだけど。どこまで言って良いものやら。
『あったといえば色々あったね。そっちで真澄が何かした?』
『いつもより浮かれてたよ。スマホの画面を眺めてニヤニヤしてたりしたし』
スマホの画面というと、お昼休みのメッセージのやり取りだろうか。そこまで楽しみにしていたとは。
『……まあ、なんていうか、登下校を一緒にしたり、あいつが弁当を作ってきたり。色々あったね』
『……きゃー。それってどう見ても、ますみんがコウ君に気があるってことだよ。いつも、よく恋愛相談してきたけど、両想いだったってことじゃん!』
そう興奮気味にまくし立てる朋美。
『いや、ことはそう単純じゃないなくて。真澄なりに色々寂しかったみたい』
『寂しい?』
怪訝そうに聞き返す声。
『うん。考えてみると、中学に上がってからは、あいつと一緒に登下校することもなかったし。それで思うところがあったみたい』
あんまり細かいことを話すのはどうかと思うけど、相談に乗ってもらっている身だ。これくらいはいいだろう。
『そっかー。でも、寂しい、か……』
何か真澄が孤立している、とか、そういうことでもあるのだろうか。
『ひょっとして、真澄、そっちで何かあった?』
『ううん。そういうんじゃないんだけど。ますみんの昔のあだ名が「おかん」っての覚えてる?』
『そりゃもう』
何かトラブルがあると面倒を見に行くのがあいつの日課みたいなものだったから、そういった扱いが当たり前になっていった。
『でさ。ますみんは誰彼構わず、世話焼くじゃない?』
『それはよくわかるよ。昔からそうだったし。それが?』
そういう奴だったから、小学校の頃は、何かあると皆は真澄に頼っていたし、本人も満足そうだった。
『そっちは男子校だからわからないかもだけどさ。ますみんってさ、可愛いし、性格も良いし、誰彼構わず世話を焼くじゃない?』
『それと男子校と何の関係が?』
中学に上がってからも真澄がそうしていたのは本人からも聞いているし。
『男子共はさ。ちょっと助けてもらうと、すぐ、ますみんが気が有るのかって思っちゃうみたいでさ……』
『……』
確かに、日頃接点の無い可愛い子から世話を焼いてもらえたら、もしかして、という気持ちになるのはわからなくもない。
『だからさ、事あるごとに、ますみんに告白する男子が出るんだよねえ』
『わからなくもないけど』
僕は真澄が近くにいるのが当たり前だから、世話を焼くのに他意がないことを知っているけど、それを知らないと無理もない。
『ますみんも、真面目に毎回丁重にお断りすんだけどさ。「うちは、皆に幸せになって欲しいだけなんやけどなあ。どうして、すぐに気があるとかいう風になるんやろ」ってよくこぼしてるよ』
『それは初めて聞いた』
真澄は中学高校とうまくやっていたと思うけど、そんな苦労があったのか。
『女子人気のある男子を振ったこともしばしばだから、女子にも反発する子はいるみたい。味方も多いんだけど』
『そっか。今も昔も、あいつは「オカン」だったんだなあ』
中学に入ってからも、一回も彼氏の話を聞いたことがなかったけど、ほんとにあいつらしいというかなんというか。
『だからさ』
真剣な声色で朋美が言った。
『ますみんのこと大事にしてあげて。一番分かってあげられるのはコウだと思うから』
電話を終えて、少し物思いにふける。
僕と遊ぶときはいつも明るく楽しそうな真澄にそんなことがあったなんて。
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