上 下
5 / 37
プロローグ 友達以上、恋人未満

第5話 学校でのオカンな彼女

しおりを挟む
 その夜。不意に、僕のスマホに着信があった。相手を見ると、『杉原朋美(すぎはらともみ)』とある。
 朋美は、正樹たちと同じく、小学校の頃の付き合いだ。今は真澄と同じ高校に通っている。朋美には、時々相談に乗ってもらってたり、近況報告をしあったりしているけど、彼女からの電話は珍しい。
 スマホを手に取ると、

『やっほー。コウ君』

 元気な声だ。小柄で活発、ストレートに下した髪、くりくりした大きな瞳、年齢相応に発達した胸が特徴の彼女は、真澄と同じく昔から人気者だった。

『久しぶり。今日はどうかしたの?』
『どうっていうわけじゃないんだけどね。ますみんと何かあった?』

 ますみん、というのは、朋美が真澄のことを呼ぶときのあだ名だ。どこかの芸能人を想像してしまいそうなあだ名だが深くは考えないようにしよう。
 それにしても、何か、か。確かに、色々あったのだけど。どこまで言って良いものやら。

『あったといえば色々あったね。そっちで真澄が何かした?』
『いつもより浮かれてたよ。スマホの画面を眺めてニヤニヤしてたりしたし』

 スマホの画面というと、お昼休みのメッセージのやり取りだろうか。そこまで楽しみにしていたとは。

『……まあ、なんていうか、登下校を一緒にしたり、あいつが弁当を作ってきたり。色々あったね』
『……きゃー。それってどう見ても、ますみんがコウ君に気があるってことだよ。いつも、よく恋愛相談してきたけど、両想いだったってことじゃん!』

 そう興奮気味にまくし立てる朋美。

『いや、ことはそう単純じゃないなくて。真澄なりに色々寂しかったみたい』
『寂しい?』

 怪訝そうに聞き返す声。

『うん。考えてみると、中学に上がってからは、あいつと一緒に登下校することもなかったし。それで思うところがあったみたい』

 あんまり細かいことを話すのはどうかと思うけど、相談に乗ってもらっている身だ。これくらいはいいだろう。

『そっかー。でも、寂しい、か……』

 何か真澄が孤立している、とか、そういうことでもあるのだろうか。

『ひょっとして、真澄、そっちで何かあった?』
『ううん。そういうんじゃないんだけど。ますみんの昔のあだ名が「おかん」っての覚えてる?』
『そりゃもう』

 何かトラブルがあると面倒を見に行くのがあいつの日課みたいなものだったから、そういった扱いが当たり前になっていった。

『でさ。ますみんは誰彼構わず、世話焼くじゃない?』
『それはよくわかるよ。昔からそうだったし。それが?』

 そういう奴だったから、小学校の頃は、何かあると皆は真澄に頼っていたし、本人も満足そうだった。

『そっちは男子校だからわからないかもだけどさ。ますみんってさ、可愛いし、性格も良いし、誰彼構わず世話を焼くじゃない?』
『それと男子校と何の関係が?』

 中学に上がってからも真澄がそうしていたのは本人からも聞いているし。

『男子共はさ。ちょっと助けてもらうと、すぐ、ますみんが気が有るのかって思っちゃうみたいでさ……』
『……』

 確かに、日頃接点の無い可愛い子から世話を焼いてもらえたら、もしかして、という気持ちになるのはわからなくもない。

『だからさ、事あるごとに、ますみんに告白する男子が出るんだよねえ』
『わからなくもないけど』

 僕は真澄が近くにいるのが当たり前だから、世話を焼くのに他意がないことを知っているけど、それを知らないと無理もない。

『ますみんも、真面目に毎回丁重にお断りすんだけどさ。「うちは、皆に幸せになって欲しいだけなんやけどなあ。どうして、すぐに気があるとかいう風になるんやろ」ってよくこぼしてるよ』
『それは初めて聞いた』

 真澄は中学高校とうまくやっていたと思うけど、そんな苦労があったのか。

『女子人気のある男子を振ったこともしばしばだから、女子にも反発する子はいるみたい。味方も多いんだけど』
『そっか。今も昔も、あいつは「オカン」だったんだなあ』

 中学に入ってからも、一回も彼氏の話を聞いたことがなかったけど、ほんとにあいつらしいというかなんというか。

『だからさ』

 真剣な声色で朋美が言った。

『ますみんのこと大事にしてあげて。一番分かってあげられるのはコウだと思うから』

 電話を終えて、少し物思いにふける。

 僕と遊ぶときはいつも明るく楽しそうな真澄にそんなことがあったなんて。
 そんなことも知らなかった自分がますます恥ずかしくなる。

 僕だけでも、真澄が安心していられる場になれれば。そう決心した夜だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

同僚くすぐりマッサージ

セナ
大衆娯楽
これは自分の実体験です

指先で描く恋模様

三神 凜緒
恋愛
光も闇もない、正義も悪もなく…ただその熱い想いのままに描くもの…それが恋… 例えそこにどんな障害があろうと、ただ笑みを浮かべて彼の隣を歩いていこう… ただ、一秒一秒、静かに、刻むその刻(とき)を、ボクは、楽しむのだ…、 その先には、きっと、楽しい未来が、待っているのだから…

My Doctor

west forest
恋愛
#病気#医者#喘息#心臓病#高校生 病気系ですので、苦手な方は引き返してください。 初めて書くので読みにくい部分、誤字脱字等あると思いますが、ささやかな目で見ていただけると嬉しいです! 主人公:篠崎 奈々 (しのざき なな) 妹:篠崎 夏愛(しのざき なつめ) 医者:斎藤 拓海 (さいとう たくみ)

皇帝陛下は身ごもった寵姫を再愛する

真木
恋愛
燐砂宮が雪景色に覆われる頃、佳南は紫貴帝の御子を身ごもった。子の未来に不安を抱く佳南だったが、皇帝の溺愛は日に日に増して……。※「燐砂宮の秘めごと」のエピローグですが、単体でも読めます。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...