上 下
71 / 80

第71話:フランベルジュ

しおりを挟む

 魔王の復活により魔物は活性化・大量発生し、冒険者ギルドにも討伐の依頼がひっきりなしにもたらされることになっていた。
 そんな中、女冒険者のクイナは自らの力不足を痛感していた。
 クイナは長剣を使う冒険者である。しかし、今の普通の長剣では凶暴化する魔物たちに立ち向かうのに不足である、と言わざるを得なかった。
 悩んでいると声がかけられる。

「クイナ、何をそんな難しい顔をしているの?」
「アスカ……!」

 同じく女冒険者のアスカだ。噂の赤髪の店主の店でパワー・ガントレットを買い、拳を武器に戦う身であった。
 アスカはパワー・ガントレットの恩恵で凶暴化した魔物たちにも負けず依頼をこなしている。
 そんなアスカにクイナが相談するとアスカは噂の赤髪の店主の店に行けばいい、と言った。

「あのお店? 眉唾物って聞いたけど……」
「あのお店の商品は確かよ。きっとクイナにも相応しい商品を売ってくれるわ」

 友人のアスカがこう太鼓判を押すのなら信頼してもいいのかもしれない。
 クイナはそう思い、アスカと後に一緒に依頼を受けることを約束し、噂の店に行った。
 コーラル王国王都の少し外れ、森に踏み入った所にその店はある。クイナは半信半疑ながら店の中に足を踏み入れた。

「いらっしゃい」

 赤髪を肩まで垂らした店主がクイナを出迎えてくれる。
 胡散臭い店主だな、と思ったことは否定できないが、アスカの言葉によれば信頼に値する店主だ。
 クイナはいい剣が欲しいと要件を言った。

「そうだな。この剣、フランベルジュなんかどうだ?」

 それは以前、魔族の少女リィルがこの店を訪れた際、スネーク・ソードの対価として置いていった剣だ。
 扱いに困っていたが、いい剣を求める者がいるのなら譲り渡すのも悪くはない。
 クイナはフランベルジュを見て、その剣に炎属性の魔法が宿っていることを感じ取った。
 これなら確かに。魔物の討伐で力になりそうだ。そう思いクイナは値段を訊ねる。

「金貨3枚に銀貨20枚って所かな」

 店主は値段を言う。払えない金額ではない。クイナは代金を払うとフランベルジュを受け取った。

「毎度あり」

 その店主の言葉を背中で聞きながら、店を出る。
 この剣はいい剣だ。そのくらいは分かる程度にはクイナは冒険者稼業をしている。

 冒険者ギルドに戻るとアスカがクイナを出迎えた。

「クイナ。いい剣は買えたの?」
「まぁ、買えたわ。これで魔物の討伐に行きましょう」

 アスカの言葉に応え二人して依頼を受けるべく受け付けに行く。

 ロック・リザードが大量発生しているとのことだったのでその討伐の依頼を受けてアスカと二人、現地に赴く。
 なるほど。いるやいる。ロック・リザードの大群を前にクイナとアスカは警戒を強める。

「行くわよ、クイナ」
「ああ、アスカ」

 アスカがまずロック・リザードに攻撃を仕掛けた。
 パワー・ガントレットで強化された拳がロック・リザードの肌を打ち、ダメージを与える。
 そのまま連続して拳を叩き込みアスカはロック・リザードの一匹を仕留めた。

 あのガントレットも赤髪の店主の店で買った品物だと聞く。
 本当にいい物を売ってくれるのだな、と思いつつクイナも炎の魔剣フランベルジュを振るい、ロック・リザードに斬りかかる。

 炎属性を帯びた剣はロック・リザードの肌を斬り裂き、その身を倒す。
 文句ない。この剣ならどんな魔物にも対抗できる気がする。
 そう思いつつアスカは拳でロック・リザードを倒し、クイナはフランベルジュを振るい、ロック・リザードを斬り捨てていく。
 最初は大勢いたロック・リザードも徐々にその数を減らしつつある。

「この剣なら……!」

 フランベルジュを振るうクイナはロック・リザードごときに後れは取らない。
 炎の魔剣は次々にロック・リザードをその餌食として、斬り倒していく。

 パワー・ガントレットを装備したアスカもロック・リザードたちを殴り倒していく。
 この勢いでロック・リザードは次々に討ち取られ、ついに全滅した。

「やったわね、クイナ!」
「ええ! この剣のおかげよ!」

 あの赤髪の店主の店。最初は信用していなかったが、これだけの商品を取り扱っているとなると信用せざるを得ない。
 あの店は本物だ。その確信を抱き、ロック・リザード討伐をクイナはアスカと共に祝い合う。

「あのお店は本物だったのね」
「だから言ったでしょう?」
「ええ。アスカの言う通りだったわ」

 この剣ならこれから凶暴化している魔物にも対抗できるというものだ。
 クイナは満足感を覚えて、王都の冒険者ギルドにアスカと共に戻る。この剣で魔物たちを斬り倒すことを思い描きながら。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

処理中です...