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第60話:ファイアー・ボウ

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「火矢だ! 火矢を使え!」

 森の奥深くに生息するプラント・モンスターたちには炎が効果的な攻撃である。
 それに対して冒険者クルーベルを中心とした討伐隊は火矢を放ち、プラント・モンスターと戦っていた。
 それにしても数が多い。一々、矢に炎を付けて放つのにも手間がかかる。
 もっと効率的な物はないだろうか。クルーベルはそう思いながらもなんとか今回のプラント・モンスター討伐を終えて冒険者ギルドに戻ってきていた。
 そこで旧知の冒険者の少女と顔を合わせた。

「これはクルーベル殿」
「ああ、リアッカちゃん。久しぶり」
「『ちゃん』付けはよせと何度言ったら」

 小柄な少女冒険者のリアッカであった。

「クルーベル殿は依頼の帰りか?」
「ああ。プラント・モンスター討伐のね。一々火矢を用意するのも一苦労さ。始めから炎の矢でも撃てる弓があればいいんだけどね」

 その言葉にリアッカは考え込む。あの店ならそんな弓があるかもしれない。いや、確実にある。そう思いリアッカはクルーベルに助言をすることにした。

「噂の店に行ってみるといい。必ず望みの物が手に入るはずだ」
「噂の店って例のどんな武器防具アイテムも揃っているっていう店かい? 眉唾だと思うけどなぁ」

 クルーベルはあまり気が進まないようだったが、リアッカの言葉に従い、コーラル王国王都の少し外れ、森に踏み入った所にある噂の店を訪れた。

「いらっしゃい」

 赤髪を肩まで垂らした店主が出迎えてくれる。クルーベルは単刀直入に要件を言った。

「炎の矢を放てる弓はないかい? 自分で矢に火を付けるんじゃなくて勝手に矢に炎が宿るような」
「ふむ。少し待っておくれ」

 店主は店の奥に引っ込んでいく。しばらくして帰ってきた時には弓を持っていた。
 色合いは普通の弓とさして変わらない。しかし、そこには魔術的な紋様が描かれていた。

「ファイアー・ボウだ。こいつに矢をつがえれば自然と炎の矢となる」
「本当か? 試して見ていいか?」
「ああ、いいとも。だが、店の外でやってくれよ。火事になったら大変だ」

 ファイアー・ボウを受け取ったクルーベルは外に出て普通の矢を一本、つがえる。
 すると矢が炎を纏った。その状態で弓を引き、撃ってみる。地面に命中した矢はその周囲を炎で燃やした。

「これ、使えるな」

 それがクルーベルの下した評価だった。店内に戻り、料金を訊ねる。

「金貨2枚と銀貨20枚だ」

 その程度なら払える。クルーベルは代金を払うとファイアー・ボウの正式な持ち主になった。

「毎度あり」

 店主に背を向けて店を出る。これならプラント・モンスター相手も楽勝だ。
 そう思い王都の冒険者ギルドでプラント・モンスター討伐の依頼を受けて王都から少し離れた森に出向き、プラント・モンスターと戦う。
 ファイアー・ボウからは炎の矢が放たれてプラント・モンスターの肉体を焼く。
 全身を植物で構成されたプラント・モンスターに火はよく効く。
 ファイアー・ボウから炎の矢を連射し次々にプラント・モンスターを倒していく。

「こいつはいい」

 これなら一々、矢に火を付ける必要もなく、放つだけで矢は炎の矢になり、プラント・モンスターを焼き尽くす。
 プラント・モンスターを次々に倒していくクルーベル。
 弓を引くだけで勝手に矢に炎が宿るのだ。楽勝にも程があった。
 プラント・モンスターたちを倒していると大型のプラント・モンスターが現れてクルーベルを仰天させた。

「なんだ、こいつは!? こんなの依頼で聞いてないぞ、くそ!」

 依頼の不確かさに苛立ちながらも倒せば規定の報奨金の他に金を貰えると期待し、大型のプラント・モンスターにクルーベルは立ち向かっていく。
 ファイアー・ボウから炎の矢を次々に放ち、攻撃するが大型だけあってなかなか倒れない。
 毒の息を吐いてきたので慌てて後ろに下がる。後退しながらもファイアー・ボウを放ち、攻撃することは忘れない。
 炎の矢を連続して喰らい流石の大型のプラント・モンスターも苦しげに悲鳴を上げる。
 その触手が伸びてきてクルーベルに迫るがクルーベルは腰に挿してある小刀を抜き放ち、切り払った。
 弓がメインウェポンでも弓使いの多くがそうであるように接近戦用の武器も持ち合わせてある。
 しかし、メインはやはり弓である。
 ファイアー・ボウを連続して放ち、大型のプラント・モンスターの体を焼いていく。
 ついに大型のプラント・モンスターは炎の矢の前に倒れた。
 それを見届けてクルーベルは満足げにファイアー・ボウを見る。
 この武器ならプラント・モンスターは勿論、それ以外の敵相手にも優位に立つことができるだろう。
 そう確信し、買った商品に満足する。
 とりあえず大型のプラント・モンスターの分も追加で報酬を貰うことにして、王都の冒険者ギルドに帰還するクルーベルであった。
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