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第48話:身躱しの服 その1
しおりを挟む「オルガ先輩! 一緒に依頼受けましょうよ」
コーラル王国王都冒険者ギルドで一人の少女剣士が短剣を腰に挿した少女に声をかけていた。
短剣使いの少女はオルガ。かつて赤髪の店主の店で疾風のダガーを購入し、その力に惚れ、未だに使い続けている身だ。
「イルウッドか。別に構わんが、お前、その軽装で戦う気か?」
イルウッドと呼ばれた少女は鎧の類を身に付けていなかった。革の軽鎧さえない。動きやすそうな服だけで細剣を腰に挿している。
「あー、あたしのこと甘く見てますね? こう見てえてもそこいらの魔物ならイチコロですよ?」
「そうか……そうだな、一緒に依頼を受けるのはいいが条件がある」
「条件?」
オルガの言葉にイルウッドは首を傾げる。
「例の店に行って服を見繕ってもらえ。必ずお前のためになる服が見つかるはずだ」
「例の店ってオルガ先輩がそのダガーを買ったっていうあのお店ですか? どんな武器防具アイテムも揃っているっていう眉唾ものの」
「そうだ」
頷くオルガ。眉唾に感じる気持ちはオルガにも分かるが、あの店は本物だ。
必ずやイルウッドにも相応しい防具――服があるだろう。それを身に纏ってくれれば不安はなくなる。そう思ってのオルガの推薦だった。
「あんまり気は進みませんけど……オルガ先輩がそう言うなら行ってみます」
「ああ、それがいい」
イルウッドは頷き、さっさと行ってみようと思い王都を出て、噂のお店を訪れる。
コーラル王国王都の外れ、森に踏み入った所にその店はある。イルウッドが扉を開くと、店主が出迎えてくれた。
「いらっしゃい」
「なんか胡散臭い人ですね」
「思ったことをすぐ口にだすのはよくないな。まぁ、気にしてはないけど」
赤髪を肩まで垂らした店主を見て、イルウッドは眉根を寄せる。
本当にこんな店に自分のためになる物があるのだろうか? それを疑問に思いつつもイルウッドは訊ねる。
「オルガ先輩からこの服の代わりになる服を買ってこいって言われたんですけど、何かありますか?」
「服か。お嬢さんはスピードを武器に戦うタイプかい?」
「あ、分かります? ずばりあたしはスピードに全てをかけた剣士です!」
自信満々に小ぶりな胸を張るイルウッド。冒険者にしては軽装な格好と腰に挿した細剣から店主は推測した訳だが、当たっていたということだ。
「それならちょっと待ってくれ。丁度いいのがあったはずだ」
そう言うと店主は店の奥に消えていく。帰って来た時持っていた服を見てイルウッドは憤慨した。
「なんですか! そのエロ衣装は!」
店主が持ってきた服は水着のように胸の上半分をむき出しにし、肩口や腰布こそ付いているものの下着のような衣装だったからだ。イルウッドの憤慨も当然だろう。
「まぁまぁ、落ち着いて」
「そんなものあたしは買いませんよ?」
「ビキニアーマーってのを聞いたことはないかい?」
その言葉にイルウッドは記憶を手繰る。
確か、下着のような鎧だが、魔術的な加護で普通の鎧以上の防御力を得ている鎧のことだ。
それでいて軽量で俊敏な動きも殺さない。肌を多く露出する羞恥心にさえ耐えさえすれば合理的な鎧のことだ。
「そのスケスケ服にも魔術的な加護があるっていうんですか?」
「その通り。こいつは身躱しの服だ。敵の攻撃から体を回避させてノーダメ―ジに抑えることができる」
「胡散臭いですねぇ……」
いまいちイルウッドには店主の言うことが信用できない。
「まぁ、一回着て、魔物と戦ってみなよ。返品返金は受け付けるんで」
「そうですか? それじゃあ、ただのエロ衣装だと思ったら突き返しますからね?」
「ああ」
とりあえずイルウッドはこの服を着てみることにしたようだ。
とはいえ、いきなりこの服で依頼を受ける気はない。この服がただのエロ衣装だったら命取りになる。
「とりあえず買ってみます。いくらですか?」
「金貨2枚に銀貨10枚だな」
相変わらず胡散臭さを拭えないままイルウッドは代金を払い、身躱しの服を手にする。
そうして、王都に戻り自宅に戻ると早速着替えた。
「やっぱり、恥ずかしいですね……これは」
下着のような服に羞恥心を刺激されながらも王都の外に出て、魔物が襲って来るのを待つ。
このあたりの魔物なら低レベルだからいざとなれば逃げられる。
ゴブリンの集団と出くわしたのはそのすぐ後だった。
「さて、スケスケ服のテストです!」
細剣を抜き、ゴブリン相手に斬り掛かるイルウッド。
細剣はゴブリンの一匹を斬り裂き、そこにもう一匹のゴブリンが混紡を振り下ろそうとする。
すると、イルウッドの体が勝手に動き混紡の一振りを避けた。
連携して混紡で攻撃してきたゴブリンたちの攻撃も全て回避する。
イルウッドは何も意識を回してないのにも関わらず、だ。
「凄い……スケスケ服。本当に効果がありました」
それを認めざるを得ない。ゴブリンの集団を一掃し、王都に戻る。
これならオルガ先輩と一緒の依頼を受けられるとはずんだ心で思いながら。
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