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第45話:パワー・ガントレット
しおりを挟むコーラル王国王都では魔物の襲撃が活発化し、少し前まで依頼の中枢をしめていたブロンズゴーレム討伐の依頼は少なくなった。
しかし、生き残っているブロンズゴーレムはいるようで今、女冒険者アスカの前に張り出された依頼はブロンズゴーレム討伐の依頼だった。
アスカは悩んだ。アスカは拳を武器に戦う冒険者である。
無論、素手ではなくガントレットは装備している。
それでもブロンズゴーレムの装甲を貫くのは難しいからだ。
依頼を前にどうしたものか、と悩んでいると、そこに一人の女冒険者が声をかける。
「どうしたの、アスカ?」
ナナリーであった。例の赤髪の店主の店で魔力を増大させる腕輪ブースト・リングを買った魔法使いだ。「ナナリーさん」とアスカは応える。
「このブロンズゴーレム討伐の依頼に行きたいんですけど、私の拳じゃブロンズゴーレムを倒せるか、怪しくて……」
「それなら噂のお店を訪れるといいわ」
「噂のお店とは……例の?」
赤髪の店主の店にあらゆる武器防具アイテムが揃っているとの噂はアスカも聞いていた。が、眉唾ものだと思い、信じてはなかった。
「あのお店は本当にあらゆるものがあるんですか?」
「少なくとも私はあのお店で求めるものを買えたわ。アスカも求めているものがきっと手に入ると思うわ」
「そうですか……」
そこまで言うのなら行ってみようではないか。
アスカは早速、噂の店に行った。コーラル王国王都の少し外れ。森に踏み入った所にそのお店はある。
「いらっしゃい」
入ってきたアスカを店主が出迎える。
赤髪を肩まで垂らした年齢不詳の男だ。胡散臭いわね、とアスカは思いつつ、注文の品を言う。
「ブロンズゴーレムを殴り倒せるガントレットが欲しいの」
「ブロンズゴーレム、ね。まだいるのか」
「ええ」
店主は少し驚いたようだが、それだけで、店の奥に引っ込んでいく。
帰って来た時にはガントレットを手にしていた。
アスカは目を奪われる。ガントレットには魔術的な紋様が刻まれており、装備者に魔術的な力を与えることに間違いはなかった。
「それは……」
「パワー・ガントレットだ。装備した人間の力を何倍にも引き上げる。これを装備して殴ればブロンズゴーレムとてひとたまりもないだろうよ」
「そうか。それじゃ早速、それを貰うわ」
「金貨3枚に銀貨10枚だ」
アスカは代金を払うとパワー・ガントレットを手にする。
「毎度あり」
そう言う店主に背を向けて、店から出ていた。
王都の冒険者ギルドに戻り、ブロンズゴーレム討伐の依頼を受ける。
「今の私ならブロンズゴーレムとて楽勝なはずよ」
その自信があった。ブロンズゴーレムが湧き出した所に行く。いるいる。
うじゃうじゃとブロンズゴーレムが群れをなしている。
アスカはパワー・ガントレットを装備した腕を振るい、地を蹴り、ブロンズゴーレムに拳を打ち付ける。
それだけで拳はブロンズゴーレムの装甲を貫き、ブロンズゴーレムを倒した。
パワー・ガントレットのおかげだ。
これまでのガントレットではこんなことはできなかった。
このパワー・ガントレットがアスカの力を何倍にも増幅させているのだ。
「どんどんかかってきなさい!」
アスカは前に踏み出し、パワー・ガントレットで強化された拳を振るう。
迫りくるブロンズゴーレムたちの装甲を貫き、拳がブロンズゴーレムたちの機能を停止させる。
このガントレットは凄い、と拳を振るいながらアスカは思った。
あのブロンズゴーレムの装甲をこうも安々と貫けるまでに腕力が上昇するとは。
あの噂の店の噂は本当だったということか。それを認めざるを得ない。
パワー・ガントレットを装備した拳を振るいながら、そんなことを思う。
「はああっ!」
拳でブロンズゴーレムたちを蹴散らしていく。
ブロンズゴーレムたちの力ではとても今のアスカにかなわなかったが、逃げ出すという思考はブロンズゴーレムにはプログラムされていない。
烏合の衆と化し、アスカに蹴散らされるだけだった。そうしてアスカは全てのブロンズゴーレムを倒し終わる。
「ふぅ、やったわね」
満足気に王都の冒険者ギルドに戻る。報酬を貰いウキウキ気分でいるとナナリーが声をかけてきた。
「アスカ。その顔だと目当ての商品を買えたようね」
「はい! ナナリーさん! あのお店のことを教えていただき、ありがとうございました」
「そんなに感謝されることじゃないわ。感謝ならあの赤髪の店主さんにして頂戴」
「あの赤髪の店主さんですか……なんか胡散臭いんですよねぇ」
確かに、とアスカとナナリーは二人笑い合う。胡散臭い。けれど、商品の質は確かだ。
あの赤髪の店主は一体どんな人なのか。そんなことを話す二人であった。
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