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第28話:魔女の杖 その1
しおりを挟む万能のアイテム屋がある。そこにはどんな武器防具アイテムも揃い、来客のどんな注文にも応えると言う。
その噂を聞き、今日も一人、赤髪の店主の店を訪れる客がいた。
見かけは小柄な少女。金色の髪を腰まで垂らし、ルビーのような赤い瞳が妖しく光る。
服装は黒いローブだった。このことから少女が魔法使いであることが分かる。
少女はコーラル王国の王都の少し外れ、森に踏み入った所にある店を訪れた。
「いらっしゃい」
扉を開くと店主が出迎えてくれる。赤髪を肩まで垂らした年齢不詳の店主だ。もっとも少女、エクリアも年齢不詳ではあったが。
「ここにはどんなものも揃っていると聞いたわ」
「どんなものでも揃っているということはないが、まぁ、大概のものはあるな」
「何よ、噂は嘘だった訳?」
「そんなことはないよ、お嬢さん」
お嬢さん。その呼び名にエクリアは少し眉根を寄せる。
「ちょっと、こんなナリをしているけど私はそれなりに年を食ってるわ。お嬢さん扱いは心外ね」
「これは失礼をした魔術師(メイガス)。それで目当ての代物はなんだい?」
かしこまった態度で一礼する店主。エクリアはふんと鼻を鳴らし、注文を告げた。
「私の魔力を増幅させる杖よ。今まで使っていた杖じゃ不足なの。魔力を増幅させて竜をも倒せるだけの力を得ることができる杖が欲しいわ」
「竜をも倒すとは……大きく出たな」
「私ならそれも可能だわ」
どうやらこのエクリアという魔法使いは相当、自分の腕前に自信があるようであった。
優れた魔法使いは年齢不詳というが、なるほど、この幼く見える少女も実際の外見よりよほど歳を重ねていると見て間違いはなかった。
「ふむ。杖ね。少し待ってくれ」
そう言い店主は店の奥に消えていく。
帰って来た時には一本の杖を持っていた。
それは先端に宝玉が埋め込まれた物でエクリアをしてただの杖ではないと思わされた。
「あら、良さげな杖ね」
「この杖なら使い手の魔力を何倍にも膨れ上がらせることができる。お客さんの注文にも応えられていると思うよ」
「そうね。その杖なら良さそうだわ」
思いの外、いい商品を紹介されエクリアは上機嫌だった。そして、この杖を買うことを既に決めていた。
「店主さん。この杖をいただくわ。値段はいくらかしら?」
「金貨3枚に銀貨20枚といった所だな」
「分かったわ」
杖の出来から判断するに安い買い物だ、とエクリアは思った。代金を取り出し、払う。
「毎度あり」
店主から杖を受け取り、手で握ってみる。しっくりと手に馴染む杖は自分の力をさらに高めてくれると確信できるものであった。
「ありがとう、店主さん。これで私もまだまだ強くなれるわ」
そう言い、エクリアは店を後にする。早速、この杖の威力を試してみたくて仕方がなかった。
しかし、エクリアは冒険者ギルドには未登録の身。そうそう強敵と戦える機会に恵まれている訳ではない。どうしたものかと平原を歩いていると影から無数の人影が飛び出しエクリアを取り囲んだ。
「へっへっ、お嬢ちゃん。こんな所で一人で何をしているんだい?」
「有り金全部、置いていけば命だけは助けてやるよ」
盗賊だ。エクリアは盗賊に襲われた状況だと言うのに笑みを浮かべた。
「なんだ、こいつ?」
「何、笑っていやがる?」
「あはは、丁度いい実験台が来たな、って思って。私の魔法の、ね」
自信満々にエクリアは買ったばかりの杖を構える。
盗賊たちはこのエクリアの態度に憤り、剣を手に襲い掛かって来た。
それにエクリアは魔法で対抗する。ただでさえ高いエクリアの魔力を赤髪の店主の店で買った杖はさらに高めてくれる。
爆裂魔法が炸裂し、盗賊たちを纏めて吹き飛ばした。その威力は並ではない。
「うぎゃあ!」
「なんだこいつ!?」
目の前で炸裂した魔法のあまりの威力の高さに盗賊たちは仰天する。
エクリアは次なる魔法を唱えた。今度は火炎魔法だ。
その威力も杖の力でブーストされ、さらに高まり、盗賊たちを蹴散らす。「ぎゃあ」「ぐわ」と悲鳴が続いた。
「さて、まだやるかしら?」
エクリアは自信たっぷりの笑みを浮かべて盗賊たちを見渡す。盗賊たちはこいつはやばいと確信を抱いていた。
「くっ、覚えていろ!」
捨て台詞を吐いて、その場から逃走する。これくらいの盗賊の相手、この杖がなくても余裕でできる相手だった。
この杖の真価はまだ推し測れていない。
「何か適当な獲物はないかしらね」
そう言いエクリアは自宅への道を歩く。この杖でブーストした自分の魔力を試せる相手。そんな相手がいればいいのだが。そう思いつつ、帰路を行くエクリアであった。
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