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第10話:マジックブーメラン
しおりを挟むコーラル王国王都の外れ、少し森に踏み入った所にその店はある。
万能のアイテム屋と呼ばれ、どんな武器も防具もアイテムもその店には揃っているという。
今日、その店を訪れようとするのは狩人のジェクトであった。
彼はブーメランを武器にする狩人なのだが、このブーメランという武器の性質に悩んでいた。
ブーメランは敵に命中すると打撃を与えるがその場に落ち、拾いにいかなければならない。
その手間を省略できるブーメランはないか。悩んでいたジェクトは知人からこの店の噂を聞き、こうして訪れた、という訳だ。
「いらっしゃい」
店主がジェクトを出迎える。赤髪を肩まで垂らした店主だ。ジェクトは早速、敵にぶつかっても失速せず戻ってくるブーメランがないかどうかを訊ねた。
無茶なことを言っているのは承知している。そんなブーメランはないと言われても仕方がない。
そう覚悟していたジェクトであったが、店主はあっさりと「ああ、それならいいものがある」と言うと店の奥に引っ込んでしまう。
そうして、再び現れた時、その手には一つのブーメランが握られていた。
形状は今、ジェクトが使っているブーメランとそう大差はない。風を切って回転して目標に向かって飛んで行く以上、そう大差ある訳がないが。
しかし、大きさは一回り小さくなっている。威力の方は大丈夫なのか。
そもそもこのブーメランは自分の要求通り、目標にぶつかっても戻ってくる力を秘めているのか。
疑問に思ったジェクトだったが、店主が説明を始める。
「マジックブーメランだ」
マジックブーメラン。
それがこのブーメランの名前か。
店主は言う。このブーメランならば敵に命中しても失速せずそのまま敵全体を蹴散らし、その末に手元に戻ってくる、と。
そういうものを求めてこの店に来ておいてなんだが、眉唾ものであった。
そんな都合の良いブーメランが本当にあるのか。ジェクトは迷ったが、ここまで来たのだ。このブーメランを購入することにした。
「金貨3枚に銀貨10枚だ」
店主の言葉に応え、勘定をする。
そうして、店主の手からマジックブーメランを受け取る。
さて。このブーメランが本当に店主の言った通りの能力を秘めているのか。
ジェクトは少し疑問に思いつつも早速、コーラル王国王都のギルドに行き、魔物退治の依頼を受けた。
最近、隣国のエルディスト王国との緊張が高まっているのでみんなピリピリしている様子を伺うことができる。
戦争など起きなければ良いが。そう思いながらジェクトは依頼にあった場所に行き、魔物たちと遭遇する。
「早速。このブーメランを試してみるか」
リザードマンが3匹、こちらに剣を構えて向かってくる。
ジェクトは渾身の力でマジックブーメランを投擲した。回転するブーメランは右側からリザードマンたちに迫り、一番右にいた一匹に命中。
「ガア!」とリザードマンの悲鳴。普通のブーメランならここで失速して地面に落ちるが、このブーメランは衝撃で右に跳ねると再び空中で回転しだし、次のリザードマン一匹に命中。
さらに再び空中で回転したブーメランは最後の一匹にも命中し、そのままこちらに返って来る。
すごい。ジェクトは思わず感動してしまう。
こんなブーメランがあったなんて。敵に命中した後も回転を続け、残りの敵に激突し、こちらに返って来る。
その時にはキャッチできるように低速になり、手元に戻る。
これは凄い、と素直に感動する。が、まだ敵にリザードマン3匹は仕留めた訳ではない。
ジェクトは渾身の力で再びマジックブーメランを投擲した。
空中を回転するブーメランがリザードマンたちに激突する。
今度の一撃で3匹の内、一匹は倒れた。残るは二匹。
再び手元に返って来たブーメランを受け止め、再度、投げつける。
高速回転するブーメランは残りの二匹にも命中し、その体を地面に倒れ伏させた。
威力も上々。このブーメランに文句のつけようはない。そう思いつつ、再度、返って来たブーメランを手に取る。
「悪くないな」
そうとしか言いようがなかった。
このブーメランなら狩人として獲物を仕留めるのに不足はない。
リザードマンでさえ倒せるブーメランなのだ。鳥などの類を楽に仕留めることができるのは明白だった。
早速、ジェクトは鳥を狩るべく狩場に向かう。マジックブーメランを振るい、空中の鳥を叩き落としていく。鳥に命中してもブーメランは失速することなくその場で回転し、残りの獲物を狙ってくれる。
そうして、全ての獲物に打撃を与え、ジェクトの手元に返って来るのだ。
このブーメランはいい。そう強く思う。
「これなら俺の仕事もだいぶ楽になるな。いやはやいい買い物をしたものだ」
満足してジェクトはブーメランを腰のホルダーに収める。
このブーメランがあれば、自分の仕事の効率は段違いに上がることだろう。そう確信し、
「それにしても赤髪の店主の店、か。噂通りだ」
あの赤髪の店主の不可思議な外見を思い起こすのであった。
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