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第7話:疾風のダガー

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 コーラル王国王都のやや外れの一角。
 森に少し踏み入った所にその店はある。万能のアイテム屋と評判の店であり、今日もこの店で自らの装備を整えようとする冒険者が訪れていた。

 冒険者の名はオルガ。短剣二刀流で戦う女剣士であり、女だてらに男に負けないだけの力を持った冒険者であった。
 オルガは店を訪れ、店主を呼ぶ。

「いらっしゃい」

 店主が顔を見せる。赤髪を肩まで垂らした店主はオルガを見ると「女の……冒険者さんかい」と口にした。それを聞いたオルガの眉根が寄せられる。

「貴様、私を女と侮っているのか? そうだとしたら痛い目を見るぞ」

 オルガにとって、自分が女だと侮られるのはよくある経験だった。
 女性にしても小柄気味な体躯も侮られる要因だろう。それはオルガにとってコンプレックスとなっていた。

 男だ女だくだらない。魔物との戦いは実力がすべてなのだ。
 その点、オルガは魔物たちと充分に渡り合うに足る力を持った戦士であった。

「いや、すまなかった。馬鹿にする気はなかった。それでお求めの品は?」

 非礼を店主は詫びるとオルガに訊ねる。迷わずオルガは答えた。

「ダガーが欲しい。切れ味よりも速度重視だ。私の武器は速さだ。圧倒的な速さで敵を翻弄し、倒す。それに相応しいダガー、できれば二刀流が欲しい」
「なるほど、よく分かった」

 オルガの言葉を聞いた店主は頷き、店の奥に引っ込んでいく。
 そうして、しばらく経つと出てきて、二振りの対になっているダガーをゴトンと机の上に置いた。

 見るからに切れ味鋭そうなダガーであり、その刀身には何らかの魔術的な紋様が刻まれている。
 「これは?」とオルガが言う。

「疾風のダガーだ。これを装備すれば装備したもののスピードを強化し、驚異的な速度での攻撃が可能になる」
「なるほど。魔導具か」

 魔法的な力を付与された武具を魔導具と呼ぶのは学の浅いオルガとて知っている。
 このダガーは確かにただのダガーではなさそうに見える。

 これなら私の力も存分に発揮できるだろう。そう思ったオルガは店主に訊ねる。

「いくらだ?」
「一本、金貨2枚と銀貨15枚。合わせて金貨4枚と銀貨30枚だ」
「少し高いな……」

 オルガが少し渋る。店主は顔色を変えず、「だが、能力は保証する」と言い放つ。

「分かった。このダガーを買おう」

 代金を払い、オルガは疾風のダガーを手にする。

「毎度あり」

 そして、店を後にする。
 森を出てコーラル王国の王都内の冒険者ギルドに向かう途中、二匹のゴブリンが襲い掛かって来た。
 試し斬りには丁度いい。オルガは疾風のダガーを抜き放つとそれを振るう。
 神速の斬撃がゴブリン一匹の首を落とす。

 もう一匹のゴブリンが混紡を振り上げ、襲い掛かって来るが、それをオルガは回避する。

(体が軽い……?)

 不思議に思ったが、これが疾風のダガーの能力なのだろうと理解する。
 元々、スピードファイターであったオルガだが、それに輪をかけて自身の速度が強化されているのを感じる。

 もう一匹のゴブリンにもダガーを首筋に叩き込み、倒す。
 買ったばかりのダガーの切れ味、自身の速度を高める能力に満足しながら、オルガは冒険者ギルドの依頼を見た。

 ゴブリンを退治したばかりだが、ゴブリン大量発生・討伐の依頼が出ていた。
 この疾風のダガーを持った私なら一人でもこなせるだろう。

 そう思い、依頼を受ける。係員には一人で行くのか? と不安がられたが、この疾風のダガーがあれば問題ない。

 そうして、森の中に行くと、なるほど確かに森の緑に溶け込む緑色の肌をしたゴブリンの大群がいた。

 混紡や剣、斧に槍で武装している。これは確かに一人では手に余ると判断されるのも無理はない。
 オルガが新たな力を手にしていなければ。

 オルガは疾風のダガー二刀流を構え、ゴブリンたちに斬り掛かる。
 神速の速度で踏み込み、ゴブリンたちを次々に斬り捨てて行く。

 これにゴブリンたちは動揺する。その隙にもダガーが振るわれ、ゴブリンの首を斬り裂く。

 ゴブリンたちも混紡や剣、槍で攻撃を繰り出すが疾風のダガーの恩恵で目にもとまらぬ速度で森を駆け巡るオルガに当たるものではない。
 オルガはダガーを振るい、次々にゴブリンたちを倒す。

 そして、ついに最後の一匹を倒し終えた。オルガは無傷。
 腕に自信のある身であるが、このダガーがなければこれだけのゴブリンを相手に無傷で討伐完了することはできなかっただろう。

 あの店で買ったダガーは確かな力を与えてくれている。それを実感する。

「まぁ、いい買い物をしたかな」

 オルガは満足気にそう言うと依頼の達成をギルドに報告すべく踵を返し、疾風のダガーがもたらす神速の速度で王都に戻るのだった。
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