3 / 80
第3話:伸縮槍
しおりを挟むコーラル王国の王都の外れ、森に踏み入った所に赤髪の店主の店がある。
そこではあらゆる魔物に対抗できるものが手に入る。コーラル王国冒険者の間で囁かれる噂であった。
今も魔物に対抗する武器を求めて一人の冒険者が店の門戸を叩いた所であった。
冒険者は女性であった。リアッカという名の女性冒険者は赤髪の店主の店を訪れた所であった。
「いらっしゃい。何の御用で?」
「始めまして、店主。私はこう見えて冒険者だ」
「ああ。それは分かるけれど……」
あえて自分のことを冒険者と強調するのも店主には分かる気がした。
リアッカは小柄な体躯の女性であり、剣や槍、斧を振り回し、魔物たちと戦う姿はイメージしづらい。
それでも軽鎧を纏っているその姿から店主はリアッカが冒険者であると分かったのであるが、リアッカが戦士らしからぬ自らの体躯を恥じていることは初対面の店主にも分かった。
「だが、何分、私はこのように小柄な身。長柄の武器を使いこなすことはできないのだ」
それはそうだろう。その小柄な体躯では長い槍や斧を振り回すことは難しく思える。店主は頷いた。
「しかし、長柄の武器が私には必要だ。剣では大型の魔物を狩るのに力不足だ。私でも扱える長柄の武器はないだろうか?」
なるほど。それがこの小柄な女性冒険者のご注文という訳だ。
店主は少し考え込み、奥に引っ込んでいき、しばらくしてから戻ってきた。
「それならこれはどうだろう?」
店主が持ってきたのは短い柄とその先端に刃が付いた武器であった。
小型の槍。そんな印象を受ける。リアッカは憤った。
「ふざけているのか! こんな武器では魔物に立ち向かうなど不可能だ!」
「まぁまぁ、とりあえずこれを振るってみたまえ」
「私を小柄な女の冒険者と馬鹿にしているのか?」
「いえいえ、そんなことは。とにかく、この武器を振るってみれば分かるさ」
憤りも店主に抑えられ、リアッカは渋々、短い槍のような武器を手に取る。
そして、振るってみた。その瞬間。短かった柄は一気に伸び、充分な槍の長さとなり、空間を斬り裂いた。
呆然とするリアッカ。
「こ、これは……」
「攻撃の時だけ柄が伸びる『伸縮槍』だ。これならお客様の小柄な体躯でも振るうことに難はないだろう」
その通りだった。普段から長いのであれば取り回しに困るが攻撃の時のみ長くなるこの武器はリアッカに、ピッタリと言えた。
単純に使いこなせる以上に相手の不意を突くこともできる。
二、三、振り回して見て、この伸縮槍を気に入ったリアッカはこれを購入することにした。
「気に入ったぞ、店主。いくらだ?」
「金貨3枚と銀貨10枚といった所だな」
「分かった」
安くはない買い物ではあるが、この武器にはそれだけの力がある。
リアッカはなけなしの金を出して伸縮槍を購入した。
そして、早速、コーラル王国王都のギルドで依頼を受けて、魔物退治に出る。
「リアッカちゃん、君みたいな小柄な女の子が大丈夫かい?」
依頼は熊型の魔物の群れの討伐であった。
ギルドの受け付け員はそんな風に心配してくる。リアッカは憤りつつも返事する。
「問題ない。私は新たな力を手にした。この力があれば、依頼もこなせる」
「それならいいんだけど……」
意気揚々とリアッカは依頼の場所へ向かう。
熊型の魔物たちが確かに大量発生していた。
これまでのリアッカであれば怯んでいただろう。だが、今のリアッカには新たな力、伸縮槍がある。
この武器を使えば熊型の魔物の群れとて敵ではない。
「行くぞ、魔物ども!」
そう呟きリアッカは前に出る。一匹の熊型の魔物が襲いかかってきた。
伸縮槍で突くことを目的に伸縮槍を前に突き出す。
短かった柄が一気に伸び、長槍と化した伸縮槍は熊型の魔物の体を貫いた。
手元に槍を引き戻すと伸縮槍は再び縮み、リアッカでも振るえる長さになる。
今度は斬撃を繰り出そうとして伸縮槍を振るう。柄が伸び、先端の刃は熊型の魔物の体を斬り裂いた。
一匹目の魔物はそれで仕留めた。
「次だ!」
再び伸縮槍を振るい、熊型の魔物に攻撃を仕掛ける。
ぶん、と振るわれた槍の柄が伸び、熊型の魔物を斬り裂く。
そんな調子でリアッカは熊型の魔物たちを全滅させた。全ては伸縮槍の力のおかげである。
「うむ。悪くない」
一人悦に浸りリアッカは呟く。この槍なら小柄な自分でも使いこなすことができ、威力もある。これがあれば自分も冒険者としてやっていけるというものだ。
そう思い、はずんだ気持ちを覚えたリアッカは王都に帰還する。依頼の達成を報告すると驚かれた。
「ええ!? リアッカちゃん、あの依頼をこなしちゃったの? 凄いなぁ」
驚かれたことを多少、不快に思いつつもこれから数をこなしていけばそんなことも減るだろうと前向きに考える。
「赤髪の店主の店の商品は折り紙付きだ。あそこに行けば冒険者の悩みは解消される」
リアッカはギルド内でそう言って周り、赤髪の店主の店の評判はさらに高まるのであった。
0
お気に入りに追加
238
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
(完)私の家を乗っ取る従兄弟と従姉妹に罰を与えましょう!
青空一夏
ファンタジー
婚約者(レミントン侯爵家嫡男レオン)は何者かに襲われ亡くなった。さらに両親(ランス伯爵夫妻)を病で次々に亡くした葬式の翌日、叔母エイナ・リック前男爵未亡人(母の妹)がいきなり荷物をランス伯爵家に持ち込み、従兄弟ラモント・リック男爵(叔母の息子)と住みだした。
私はその夜、ラモントに乱暴され身ごもり娘(ララ)を産んだが・・・・・・この夫となったラモントはさらに暴走しだすのだった。
ラモントがある日、私の従姉妹マーガレット(母の3番目の妹の娘)を連れてきて、
「お前は娘しか産めなかっただろう? この伯爵家の跡継ぎをマーガレットに産ませてあげるから一緒に住むぞ!」
と、言い出した。
さらには、マーガレットの両親(モーセ準男爵夫妻)もやってきて離れに住みだした。
怒りが頂点に到達した時に私は魔法の力に目覚めた。さて、こいつらはどうやって料理しましょうか?
さらには別の事実も判明して、いよいよ怒った私は・・・・・・壮絶な復讐(コメディ路線の復讐あり)をしようとするが・・・・・・(途中で路線変更するかもしれません。あくまで予定)
※ゆるふわ設定ご都合主義の素人作品。※魔法世界ですが、使える人は希でほとんどいない。(昔はそこそこいたが、どんどん廃れていったという設定です)
※残酷な意味でR15・途中R18になるかもです。
※具体的な性描写は含まれておりません。エッチ系R15ではないです。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草
ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)
10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。
親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。
同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……──
※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました!
※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
[完結]回復魔法しか使えない私が勇者パーティを追放されたが他の魔法を覚えたら最強魔法使いになりました
mikadozero
ファンタジー
3月19日 HOTランキング4位ありがとうございます。三月二十日HOTランキング2位ありがとうございます。
ーーーーーーーーーーーーー
エマは突然勇者パーティから「お前はパーティを抜けろ」と言われて追放されたエマは生きる希望を失う。
そんなところにある老人が助け舟を出す。
そのチャンスをエマは自分のものに変えようと努力をする。
努力をすると、結果がついてくるそう思い毎日を過ごしていた。
エマは一人前の冒険者になろうとしていたのだった。
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる