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第3話:伸縮槍

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 コーラル王国の王都の外れ、森に踏み入った所に赤髪の店主の店がある。
 そこではあらゆる魔物に対抗できるものが手に入る。コーラル王国冒険者の間で囁かれる噂であった。

 今も魔物に対抗する武器を求めて一人の冒険者が店の門戸を叩いた所であった。

 冒険者は女性であった。リアッカという名の女性冒険者は赤髪の店主の店を訪れた所であった。

「いらっしゃい。何の御用で?」
「始めまして、店主。私はこう見えて冒険者だ」
「ああ。それは分かるけれど……」

 あえて自分のことを冒険者と強調するのも店主には分かる気がした。
 リアッカは小柄な体躯の女性であり、剣や槍、斧を振り回し、魔物たちと戦う姿はイメージしづらい。

 それでも軽鎧を纏っているその姿から店主はリアッカが冒険者であると分かったのであるが、リアッカが戦士らしからぬ自らの体躯を恥じていることは初対面の店主にも分かった。

「だが、何分、私はこのように小柄な身。長柄の武器を使いこなすことはできないのだ」

 それはそうだろう。その小柄な体躯では長い槍や斧を振り回すことは難しく思える。店主は頷いた。

「しかし、長柄の武器が私には必要だ。剣では大型の魔物を狩るのに力不足だ。私でも扱える長柄の武器はないだろうか?」

 なるほど。それがこの小柄な女性冒険者のご注文という訳だ。
 店主は少し考え込み、奥に引っ込んでいき、しばらくしてから戻ってきた。

「それならこれはどうだろう?」

 店主が持ってきたのは短い柄とその先端に刃が付いた武器であった。
 小型の槍。そんな印象を受ける。リアッカは憤った。

「ふざけているのか! こんな武器では魔物に立ち向かうなど不可能だ!」
「まぁまぁ、とりあえずこれを振るってみたまえ」
「私を小柄な女の冒険者と馬鹿にしているのか?」
「いえいえ、そんなことは。とにかく、この武器を振るってみれば分かるさ」

 憤りも店主に抑えられ、リアッカは渋々、短い槍のような武器を手に取る。
 そして、振るってみた。その瞬間。短かった柄は一気に伸び、充分な槍の長さとなり、空間を斬り裂いた。

 呆然とするリアッカ。

「こ、これは……」
「攻撃の時だけ柄が伸びる『伸縮槍』だ。これならお客様の小柄な体躯でも振るうことに難はないだろう」

 その通りだった。普段から長いのであれば取り回しに困るが攻撃の時のみ長くなるこの武器はリアッカに、ピッタリと言えた。

 単純に使いこなせる以上に相手の不意を突くこともできる。
 二、三、振り回して見て、この伸縮槍を気に入ったリアッカはこれを購入することにした。

「気に入ったぞ、店主。いくらだ?」
「金貨3枚と銀貨10枚といった所だな」
「分かった」

 安くはない買い物ではあるが、この武器にはそれだけの力がある。
 リアッカはなけなしの金を出して伸縮槍を購入した。

 そして、早速、コーラル王国王都のギルドで依頼を受けて、魔物退治に出る。

「リアッカちゃん、君みたいな小柄な女の子が大丈夫かい?」

 依頼は熊型の魔物の群れの討伐であった。
 ギルドの受け付け員はそんな風に心配してくる。リアッカは憤りつつも返事する。

「問題ない。私は新たな力を手にした。この力があれば、依頼もこなせる」
「それならいいんだけど……」

 意気揚々とリアッカは依頼の場所へ向かう。

 熊型の魔物たちが確かに大量発生していた。
 これまでのリアッカであれば怯んでいただろう。だが、今のリアッカには新たな力、伸縮槍がある。

 この武器を使えば熊型の魔物の群れとて敵ではない。

「行くぞ、魔物ども!」

 そう呟きリアッカは前に出る。一匹の熊型の魔物が襲いかかってきた。
 伸縮槍で突くことを目的に伸縮槍を前に突き出す。

 短かった柄が一気に伸び、長槍と化した伸縮槍は熊型の魔物の体を貫いた。

 手元に槍を引き戻すと伸縮槍は再び縮み、リアッカでも振るえる長さになる。

 今度は斬撃を繰り出そうとして伸縮槍を振るう。柄が伸び、先端の刃は熊型の魔物の体を斬り裂いた。

 一匹目の魔物はそれで仕留めた。

「次だ!」

 再び伸縮槍を振るい、熊型の魔物に攻撃を仕掛ける。

 ぶん、と振るわれた槍の柄が伸び、熊型の魔物を斬り裂く。
 そんな調子でリアッカは熊型の魔物たちを全滅させた。全ては伸縮槍の力のおかげである。

「うむ。悪くない」

 一人悦に浸りリアッカは呟く。この槍なら小柄な自分でも使いこなすことができ、威力もある。これがあれば自分も冒険者としてやっていけるというものだ。

 そう思い、はずんだ気持ちを覚えたリアッカは王都に帰還する。依頼の達成を報告すると驚かれた。

「ええ!? リアッカちゃん、あの依頼をこなしちゃったの? 凄いなぁ」

 驚かれたことを多少、不快に思いつつもこれから数をこなしていけばそんなことも減るだろうと前向きに考える。

「赤髪の店主の店の商品は折り紙付きだ。あそこに行けば冒険者の悩みは解消される」

 リアッカはギルド内でそう言って周り、赤髪の店主の店の評判はさらに高まるのであった。
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