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第2話:女王の威厳
しおりを挟む父王が死に、俺が獅子族の長となった。
配下の黄金獅子王たちや白銀獅子王たちはこぞって俺のもとを訪れ、亡き父への手向けの言葉と新たな王の誕生を祝福する言葉を述べた。
そんな新たに俺が王と、女王となり、配下の獅子たちを見ながら俺は思う。
この配下の獅子たちの内、何匹が魔王の傘下から独立した俺に付いて来てくれるか。それは疑問だった。
魔王軍配下の中でも獅子族は誇り高い部族ではあるが、魔王への忠誠を誓っている獅子も少なくはないだろう。
俺は父王の側近で、俺が産まれた時から一緒にいる何でも話せる仲の幼馴染の軍師・ラーバルオに声を掛けた。ラーバルオも黄金獅子王族の身で、獅子の下半身に人間の上半身を持った身だ。
「俺が魔王に歯向かうとどれだけの配下の獅子たちが付いて来てくれるかな?」
ラーバルオは俺の言葉に答えた。
「おそらく八割の獅子たちはライオ様に引き続き、忠誠を誓ってくれるでしょう。ですが、二割は離反するかと」
「ふむ。二割の離反か。それは痛いな。なんとかならぬか?」
「我々、獅子族の中でも魔王に忠誠を誓っている者も多いです。二割の試算でも少し甘いくらいです」
的確な言葉でラーバルオは俺の危惧に答えて見せる。ラーバルオの言葉に俺は考え込む。
「恐れ多きながら、ライオ様はまだ先王・ライネル様の後を継がれたばかりの身。その実力は多くの獅子族に知れ渡っておりますが、実績という面では足りない所があります。何よりライオ様は女性の身。こんな事は言いたくありませんがそれだけでライオ様を軽んじる者もいるでしょう。八割の同胞たちを確実にライオ様に従わせるためにもここは一戦、戦を起こし、勝利をもたらすのが良いかと存じ上げます」
「戦か……」
となれば相手は当然、人間たちになるであろう。
俺は今は黄金獅子王の身ではあるが、前世は人間の身だ。あまり人間に危害を加えたくはないのだが、魔族にも人間にも属さず俺だけの獅子の王国を築くとあればいずれは人間との戦いも避けては通れない道だ。俺は考え込んだが、決断した。
「うむ。では配下の獅子たちに命を出せ。この近くの城塞都市コーレイグル。その都市を攻め立てる。今はまだ魔王軍傘下の身だ。この戦も魔王への捧げ物という体を取り、戦を行う」
「かしこまりました、ライオ様」
俺の命令にラーバルオは素早く動き、獅子族に命令を伝達する。
獅子族の住まう深い森の中から獅子族は出発し、夜の闇に紛れて、人間の都市コーレイグルに到達した。
闇夜の奇襲。これに人間の兵士たちは泡を食って驚き、慌てて臨戦態勢を整え、迎撃に出る。
こちらの軍勢は黄金獅子王族が300、白銀獅子王族が450、獅子族が600の合計1350と言った所、対する人間軍は3000はくだらない。
だが、その程度の兵力差は覆せるだけの個々の戦闘力の違いが獅子族と人間にはあった。
俺は獅子の軍勢の中でも最前線に立ち、部下の獅子たちを鼓舞しながら部隊を率いた。
人間たちが立ち塞がる。鎧兜に身を包み、剣や槍を構えた人間たちが俺に襲い来る。
しかし、俺はそれらの攻撃を豪腕で受け止め、弾き返し、反撃の拳を放つ。
黄金獅子王族の屈強な肉体に対抗するには鎧兜に身を包み、武器を持った程度では不足だ。
俺の豪腕は人間たちの鋼鉄の鎧をも破砕し、人間たちに致命傷を与え、次々に討ち取って行く。
俺の最前線での戦いに士気を高めた獅子たちは人間の上半身を持つ黄金獅子王族も白銀獅子王族も、獅子そのものの四足獣の黄金獅子たちも豪腕や爪や牙を剥いて、人間たちに襲い掛かる。
コーレイグルの町は一晩にして地獄と化した。
獅子たちは人間たちを蹂躙し、蹴散らしていく。俺の前線での戦いぶりに配下の獅子たちも感心の面持ちで俺を見る。
俺は豪腕と爪だけで人間たちを倒して行く。
そうして、ひとしきり、コーレイグルの防衛の兵士を倒し終わったと見たら、俺は全軍に撤退の命令を下した。
このまま町中まで進軍し、民たちを虐殺して回る事も出来たが、それは元・人間の俺からすればなるべくやりたくない事だった。
防衛の兵士を殺すのは仕方がないが、無抵抗の民まで殺して回るのは避けたい。
偽善、と言う言葉が脳裏をよぎる。兵士たちを殺した以上、この先に進むも戻るも一緒ではないか。
そうは思うが、俺はこれ以上の進軍は許さず、獅子の軍勢を率いて、森に戻っていく。
圧倒的な兵力差を覆した絶対勝利。獅子の軍勢の驚異は存分に人間や魔族にも知れ渡る事が出来たようであった。
獅子たちも俺を畏敬の目で見、先王に負けずの才覚を持っている王であるとの認識を新たにする。
「ラーバルオ、これ以上、戦は必要か?」
軍師・ラーバルオに俺は訊ねる。ラーバルオは首を横に振った。
「いえ、先の戦でライオ様の実力は示す事が出来たでしょう。この先、何があろうと、八割の獅子たちはライオ様に付いて来るものかと思います」
「ふむ。やはり二割は離反するか」
「そうですな。魔王に忠誠を誓っている獅子も少なからず我らが配下にはいます。それらを引き止める事は出来ないかと……」
そんな話をラーバルオとしていると部下の獅子が「ライオ様!」とやって来た。なんだ? 俺は視線を向ける。
「魔王軍の将軍・グリフィオス様が獅子族の新たな王・ライオ様にお目通りしたいとやって来ております!」
「なんと、魔王軍の将軍が!? すぐに通せ!」
「はっ!」
魔王軍の将軍。魔王軍への反逆の計画を立てている身とはいえ、今すぐ敵対する訳ではない。今の所はまだ、魔王軍への敵意は隠しておく必要がある。
それならば魔王軍からの使者は歓迎するのが道理だ。
将軍・グリフィオスは鷲の鳥人であった。背中から大きな翼を出した鎧を身に纏い、長剣を腰に挿している。
「獅子族の新たな王、ライオ殿。お初にお目にかかる。魔王軍将軍・グリフィオスだ」
「ライオだ。グリフィオス将軍、初めまして」
鷲の頭を持つ鳥人は俺の言葉に鋭い一瞥を俺に向ける。俺の身を計ってると見て間違いはなかった。
「ふむ。先王・ライネル殿は良き後継者に恵まれたようだな。先のコーレイグルへの攻勢の事も聞き及んでおる。ライオ殿は獅子族を新たに率いる王として魔王様のために活躍してくれる事だろう」
「無論だ。俺も魔王様のため、獅子族の長としてその役目を全うするつもりだ」
「それが確認出来ただけで結構。ライオ殿、これから先も同じ魔族としてよろしく頼むぞ」
短い視察を終えるとグリフィオスは翼を広げ、空を駆け、帰って行く。その姿を見送り、俺はさて、と考え込む。
「ラーバルオ、今の所は我らの叛意には気付かれていないようだな」
「どうでしょうかな……」
俺は安堵の言葉を言ったが、ラーバルオは眉根を寄せる。
「グリフィオス将軍は魔王軍の中でも洞察力に優れ先見の明があると評判の名将。ひょっとしたらひょっとするかもしれませぬ」「そうか……。それは困るな。いずれ反逆する身とはいえ、今の段階からそれが露見するのは避けたい」
だが、グリフィオスは既に去った。今、これ以上考え込んでも仕方がない。
「それよりラーバルオ。独立後、居城となる城についてはメドは立ったか?」
その事だ。今は森の中で獅子族たちと暮らしているが、独立し、覇を唱えるとなれば城の一つや二つは必要になってくる。
俺の言葉にラーバルオは答える。
「人間の城でコーレイグルの先にあるコーラシュマー城を我らの拠点として占領するのが一番かと」
「なるほどな。そこを拠点に我らは独立を果たす……となれば人間たちとの再びの戦いは避けられんな」
「それは仕方がありますまい。人間とも魔族とも独立し、自らの王国を築くのです。まずは武力行使は避けられません」
元・人間としては人間はあまり殺したくなく、友好関係を築きたいものだが、仕方がない、か、と俺は思う。
一から城を作るよりは今ある城を奪うのが手っ取り早く効率的なのだ。
俺はラーバルオやライナを始めとする側近の黄金獅子王族たちに独立の計画を話しつつ、そのための準備を整える。
いつまでも魔王の傘下にいるつもりはない。独立はなるべく早く行うつもりであった。
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