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第20話:新たな異邦人

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 そのデンワがかかってきたのは俺もこの日本という世界・国での生活にも慣れてきてしばらくした後のことだった。
 サナの家にかかってきたデンワを俺が取ると相手はなんとケイサツであった。
 この国の秩序を司る機関からのデンワ。俺は真っ先に自分の存在がまずいのではないかと思った。
 しかし、そうではないらしい。話を聞く限り、俺と同じような鎧姿で真剣を持っている少女を保護したのでそちらの関係者ではないか? という事だ。
 鎧姿という点からこすぷれだと思い込み、こすぷれしょっぷのこの家にデンワがかかってきたようだった。
 俺は始め何のことだか分からない、と言おうとして、俺をこの世界に飛ばした青白い渦巻きのことを思い出した。
 他にも俺の世界からこの世界に来た人間がいてもおかしくない。
 その少女の名前は? と俺はデンワ先のケイカンに訊ね、リリア・ユーベルと名乗っていると聞く。
 聞き覚えのある、というかかなり親しい人の名であった。リリアは俺のいとこで共に騎士としてスナイバル王国に仕えている身だ。
 すぐに迎えに行く、と言うと俺はこの世界の衣装を纏い、店を出ようとした。が。

「アドニス、さっきの電話、何だったの?」

 サナに問い詰められてしまった。こうなれば嘘を言う気も必要もない。
 俺の他にもう一人、俺の世界からやって来た者がケイサツに保護されている、と言うと、迎えに行くのに自分も付いて行く、とサナは言った。

「いや、いいよ。俺一人で面倒見れる」
「アドニスはまだこの近辺の地理にそこまで詳しい訳じゃないでしょ? それに警察に保護されているのがアドニスと同じ異世界人ならこの世界の説明役は必要でしょ?」

 ごもっともだった。俺は折れ、サナの同行を許可する。
 サナと二人して近場の警察所に行くとすぐに保護されている少女と会わせてくれた。

「私はスナイバル王国の誇り高き騎士だと言っているだろう! 剣を返せ!」

 強い口調でケイカンたちに抗っている様子の少女が一人。
 女性用の鎧に身を固めている。その姿を見た俺に「この調子なんだよ」と案内してくれたケイカンは苦笑いして言った。

「ちょっとコスプレが過ぎて誇大妄想を抱いてますね。大丈夫です。私たちが説得します」

 サナはそんなハッタリを言い、俺もサナに続いてリリアのもとに行く。暴れかねん勢いだったリリアは俺を見るとハッと目を見開いた。

「アドニス殿! アドニス殿ではないか! こんな所で……というかその格好は!?」
「まぁ、ここで世話になってる身だ。リリア」

 冷静さを失っている様子のリリアを諭すように俺は静かな声で言うとリリアも落ち着きを取り戻して来たようだ。

「まずリリア。一つ言っておく。ここは異世界だ。俺たちの世界とは違う」
「それは周りの様子を見て判断したことだが……何故、私が捕えられねばならん! 剣を持っていたという理由だけで!」
「それがこの世界では違法なんだよ、リリア」

 俺の言葉にリリアは信じ難いという顔をする。

「刀剣の所持が違法なら魔物とどうやって戦う? ふざけたことを言うな!」
「その魔物がいないんだよ。この世界には」
「なっ……? 馬鹿な!?」

 驚愕の表情を浮かべるリリア。そうだよな。俺も初めは魔物がいないなんて信じられなかった。

「リリアさん……でしたっけ? アドニスの言うことは事実よ。この世界には魔物も魔王も存在しないわ」
「貴様は何者だ?」
「失礼だぞ、リリア。この世界で俺の面倒を見てもらっている家の娘だ」
「面倒を見てもらっている? ではアドニス殿はこの娘の家に厄介になっているのか」

 そうなるな、と俺は頷く。リリアは少し難しい顔をする。そこにサナが声をかけた。

「リリアさんも私の家に来ませんか? その鎧姿ならいい宣伝になるわ」
「宣伝? どういうことだ?」
「俺たちの鎧はこの世界じゃ稀少ってことさ」

 そんな風に言ってはぐらかす。リリアは疑心の目でサナを見ていたが、やがて決断したようだった。

「分かった。貴様……君の世話になろう。名前は?」
「石動佐奈よ」
「分かった。サナ、これから世話になる」

 とりあえず話は纏まったようだ。
 後はケイサツがリリアを解放してくれるかだが、面倒を見てくれる人が見つかったのなら異世界からやって来ただの騎士だのわめいている人間などとっとと厄介払いがしたい様子で早々に解放してくれた。剣は返してはくれなかったが。

「いつかあの建物に乗り込み剣を取り戻す」

 リリアはそんな物騒なことを言っていた。
 ともあれこれでサナの家、ユーイチ殿の家への居候は一人増えたことになる。
 ユーイチ殿が認めてくれるだろうかと思ったが、リリアも俺と同じく看板役をやるという条件で許可を得た。

「それじゃあ、リリア。俺たちはここで客引き要員だ」
「どういうことだ……?」

 リリアはあまり現状を理解していないようであったのが気がかりではあるものの。
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