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第15話:防御力低そうな鎧
しおりを挟むナギサは去り、後には俺たちが残された。
サナとルリは笑顔だ。ナギサの家は貴族のような家らしくその家が開催するこすぷれの展覧会に出れることが嬉しいのだろう。
おそらくだが、フェイフーにも連絡が行って、みんなでナギサの家のこすぷれ展に出ることになるだろう。無論、俺も。
俺はこすぷれいやーではないのだがな、と思いつつもこれも仕方がないか、と思い直す。
サナの家に寝床と食事を提供してもらっている身。強く何かを言えた立場ではなかった。俺は喜ぶ二人に声をかける。
「あのナギサという少女はこすぷれで有名なのか?」
「そうね、アドニス。伊集院グループの愛娘がコスプレにはまっていることは有名なことよ」
「伊集院グループ自体がコスプレを推進してコスプレ展を開いているんですよね。それに出られるなんて嬉しいなぁ」
サナが得意げに言い、ルリが歓喜の表情を見せる。
イジューイングループとやらはこの世界における貴族のようなものだろうとの認識を持っている俺は貴族のお遊びか、と思った。
不思議な事ではない。俺の世界でも貴族たちは暇と金を持て余して妙な遊びに走ることも多かった。
ナギサという少女が着ていた服は俺の世界の貴族たちが着るような服にそっくりであった。
あれもこすぷれの一種なのであろう。俺にとっては自然な服装に映ってしまうのだが。少なくともてぃーしゃつとじーぱん、よりは。
「それで二人は何のこすぷれを作っていたんだ?」
気になって思わず訊ねる。二人は顔を見合わせてから言った。
「今回は私と瑠璃のセットのコスプレよ」
「ちょっと恥ずかしいんですけど……」
「恥ずかしい、か」
この世界でこすぷれなどというものをひけらかしている彼女たちでも恥ずかしいと思う格好。どんな格好なのやら。
「取ってくるわ。待っててね」
サナがそう言い、二人は店の中に戻る。そうして帰って来た時には凄い衣装を持っていた。
「なんだ、その防御力低そうな鎧は」
二人が持ってきたのは胸と股間だけを硬質そうな(実際は柔らかいのだろうが)もので包まれただけの鎧だった。
こんな鎧で防御力も何もあったものではない。俺は思わず苦言を呈する。
「ビキニアーマーというヤツよ」
「着るのはちょっと恥ずかしいんですが、今回は大胆に攻めてみようと思いまして」
「そんな鎧では実戦では何の役にもたたないぞ?」
思わず苦言を呈する。びきにあーまーとやらがどれだけの防御力をもたらしてくれるのか。胸と股間だけを隠したその鎧に実戦に耐えうる力があるとは思えなかった。
「まぁ、実戦に出る訳じゃないしね」
平気な顔でサナはそう言ってのける。
確かにこすぷれは実戦に出る服装を作るものではないが。
そのびきにあーまーとやらは実戦を重鎧でくぐり抜けて来た俺に対する挑戦のように映った。
「鎧姿で統一という訳か。それを鎧とは認めたくはないが」
「いいじゃない。これも鎧の一種よ」
「少し露出度が高すぎる気はするんですがね……」
「少しではない」
ルリの言葉に異論を唱える。肩口もへそも太ももの丸出しのその格好は男を誘っているとしか思えなかった。
こんな格好をして大丈夫か、との思いにかられる。
「大丈夫よ。この程度の露出度のコスプレ、珍しくはないわ」
「そうなのか……」
そう言うサナの言葉に呆れざるを得なかった。こすぷれというものは奥が深いものなのだな、とも同時に思う。
「ともかく今回のコスプレ展には私と瑠璃はこの格好で挑むわ」
「まだ未完成なんですけど、これから仕上げに入る所です」
「それで未完成なのか」
見た限り、完成しているように思えたが。
このこだわりが良いこすぷれを作る原動力になるのだろう。
二人にしかし、苦言を呈する。
「年頃の娘がそのような露出度の高い格好をするのはやはりどうかと思うがな」
「問題ないわ、アドニス。これくらいで騒がれたりしないわよ」
「そうですね、アドニスさん。流石に町中で着るのは躊躇する服ですが……」
当たり前だ。あんな露出度の高い格好。町中でできる訳がない。
そう思いながら最後の仕上げをするという二人は店の中に戻っていく。
それを見送り、俺はこすぷれしょっぷの看板男の役目に戻った。
それにしてもなんて破廉恥な格好だ。あんな格好で大勢の人の前に出るのか。
年頃の娘さんとしてはもうちょっと慎みを持ってもいいんじゃないかと思うがこすぷれというものをしている時点で、相当か。
間違ってもあんな格好で町中を歩かせる訳にはいかない。
びきにあーまーか。そんな防御力の低そうな鎧の概念がこの世界には存在しているとは。俺の世界であんな格好をすれば魔物の刃に腹を引き裂かれて終わりだ。何の防御にもなりはしない。
「不思議なものがこの世界には存在しているものだなぁ」
そう思う。こすぷれというものは奥が深いものであるようであった。
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