12 / 47
第12話:買い物のお供に
しおりを挟むサナの家のこすぷれしょっぷの看板男として俺は有名になりつつあるらしい。
騎士たる者、己の名声が高まるのは喜ばしいことであるのだが、この有名はそういうものではなく色物を見ての笑い混じりの有名であるようでそこに少し疑問を唱えたい。
そんなことを思いながら俺が相変わらず鎧姿で店の前に立っているとルリがやって来た。
「こんにちはアドニスさん。佐奈います?」
「中でヨーイチ殿と一緒にいるようだ」
「ありがとうございます」
俺に一礼し、ルリは店の中に入っていく。
どうやらサナもルリもナツヤスミとかであるらしく普段は通っている学問所に通わなくていいようだ。
その程度の知識は得た。
そうしているとサナとルリが出て来た。
「アドニス、私たちこれから買い物に行くんだけど、一緒に来ない?」
「む、いいのか? しかし、看板役は……」
「お父さんも休憩をかねて行ってもいいって。っていうかむしろ私たちの警護として一緒に行って欲しいみたいな感じだったけど」
「そうなのか。それでは行かせてもらおうとしよう。着替えてくるから少し待ってくれ」
俺は店の中に入り、自分に与えられた部屋で鎧を脱ぎ、以前、サナとの買い物で買ったこの世界の服に着替える。
そして、外に出ると「うわあ」とルリが驚いたような声を出した。
「鎧姿だと分かりにくいですけど、アドニスさん、普通にいい男ですね」
「む? そうか? そんなことはないと思うが……」
「そうよ、瑠璃。アドニスなんて面倒くさい男、口説いても得はないわよ?」
「べ、別に口説いた訳じゃ……」
サナの指摘にルリは慌てた仕草を見せる。
ふむ。いい男、か。自分ではあまり意識したことはなかったが。
「それでは行こう。またデンシャという鉄の箱に乗っていくのか?」
「そうですね、渋谷まで出ようかと思うので」
シブヤ。初めて聞く地名だが、買い物ができる程度には店がある所なのだろう。
短い付き合いながら、俺はサナとルリは買い物には一家言あるこだわりを持っていることを理解した。
その二人が満足する場所なら相応のものだろう。
俺たちはアキハバラの町中を歩き、エキからデンシャという鉄の箱を連ねた乗り物に乗るとシブヤとやらに出る。
高いびるという建物が立ち並んだ町で人がうじゃうじゃいた。
これだけの人間がどこから出て来たのだと俺は疑問に思ってしまう。
「それにしても人が多いな」
「夏休みでしかも休日の渋谷だからね」
「まぁ、これくらいはいますよね」
そういうものなのか。このトウキョウという都市郡は発展しているようだ、との認識を再確認する。
さて、サナやルリに不逞の輩が近寄らないようにするのはヨーイチ殿から頼まれた俺の役目だ。
サナとルリを守るようにしようと思うのだが、何分、こちらはシブヤとやらの地理を知らない。
サナとルリが先行する形になるのも仕方がなかった。勿論、何かあればすぐに矢面に立つことは意識しつつ。
だが、そこからが大変だった。
サナもルリも騎士でも戦士でもないのにどこにそんな体力があるのだと思わせるバイタリティで人混みを掻き分け次々に店に入っていく。
十以上の店を巡り、商品を見て回るだけで買う気はないようだった。
うぃんどぅしょっぴんぐ、と言うものらしいがよく分からない。買う気もないのに何故、店に入るのだ?
それに付き合わされて参る程、こちらもやわな鍛え方はしていないのでついて行けるが、先を行く二人の体力には感心しきりであった。
「ちょっと休憩しましょうか」
サナの一言でキッサテンとやらに入って休息を取ることにする。
メニュー表を見せられてもよく分からなかったが、コーヒーと紅茶くらいは俺の世界にもあった。それを選ぼうとするが、
「アドニス、あんた、たまにはアイスでも食べなさいよ」
「あいす? あいすとは何だ?」
「冷たくてすっごく美味しいデザートですよ」
サナとルリの二人にこう言われる。
二人もあいすのぱふぇ、とやらを頼むようだった。
俺も二人に注文を任せてあいすとやらを食べることにする。
程なくしてあいすが運ばれてきた。雪のように真っ白な食べ物だ。
俺のは白いだけで何もない円形状のあいすでサナとルリのものはぱふぇと言うらしく大きな器にあいすと他にもお菓子と思わしき物々が詰め込まれている。
俺は緊張しつつスプーンで白いあいすをすくうと口元に運ぶ。
「う、美味い……!」
そう言わざるを得なかった。あいすとやらは冷たく、そして甘みをたっぷりと内包した食べ物であった。「でしょう?」とサナが得意げな顔になる。
「こんな美味いものを食べるのは初めてだ!」
感激して俺は言う。この台詞自体この世界に来てからサナの家で食事をする度に言っている台詞ではあるのだが、それらの食事と目の前のあいすは根本的に何かが違うような気がした。
こうして休憩も取り終わった俺たちは再び買い物に繰り出すのであった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
最底辺の落ちこぼれ、実は彼がハイスペックであることを知っている元幼馴染のヤンデレ義妹が入学してきたせいで真の実力が発覚してしまう!
電脳ピエロ
恋愛
時野 玲二はとある事情から真の実力を隠しており、常に退学ギリギリの成績をとっていたことから最底辺の落ちこぼれとバカにされていた。
しかし玲二が2年生になった頃、時を同じくして義理の妹になった人気モデルの神堂 朱音が入学してきたことにより、彼の実力隠しは終わりを迎えようとしていた。
「わたしは大好きなお義兄様の真の実力を、全校生徒に知らしめたいんです♡ そして、全校生徒から羨望の眼差しを向けられているお兄様をわたしだけのものにすることに興奮するんです……あぁんっ♡ お義兄様ぁ♡」
朱音は玲二が実力隠しを始めるよりも前、幼少期からの幼馴染だった。
そして義理の兄妹として再開した現在、玲二に対して変質的な愛情を抱くヤンデレなブラコン義妹に変貌していた朱音は、あの手この手を使って彼の真の実力を発覚させようとしてくる!
――俺はもう、人に期待されるのはごめんなんだ。
そんな玲二の願いは叶うことなく、ヤンデレ義妹の暴走によって彼がハイスペックであるという噂は徐々に学校中へと広まっていく。
やがて玲二の真の実力に危機感を覚えた生徒会までもが動き始めてしまい……。
義兄の実力を全校生徒に知らしめたい、ブラコンにしてヤンデレの人気モデル VS 真の実力を絶対に隠し通したい、実は最強な最底辺の陰キャぼっち。
二人の心理戦は、やがて学校全体を巻き込むほどの大きな戦いへと発展していく。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
元おっさんの幼馴染育成計画
みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。
だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。
※この作品は小説家になろうにも掲載しています。
※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる