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第12話:買い物のお供に

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 サナの家のこすぷれしょっぷの看板男として俺は有名になりつつあるらしい。
 騎士たる者、己の名声が高まるのは喜ばしいことであるのだが、この有名はそういうものではなく色物を見ての笑い混じりの有名であるようでそこに少し疑問を唱えたい。
 そんなことを思いながら俺が相変わらず鎧姿で店の前に立っているとルリがやって来た。

「こんにちはアドニスさん。佐奈います?」
「中でヨーイチ殿と一緒にいるようだ」
「ありがとうございます」

 俺に一礼し、ルリは店の中に入っていく。
 どうやらサナもルリもナツヤスミとかであるらしく普段は通っている学問所に通わなくていいようだ。
 その程度の知識は得た。

 そうしているとサナとルリが出て来た。

「アドニス、私たちこれから買い物に行くんだけど、一緒に来ない?」
「む、いいのか? しかし、看板役は……」
「お父さんも休憩をかねて行ってもいいって。っていうかむしろ私たちの警護として一緒に行って欲しいみたいな感じだったけど」
「そうなのか。それでは行かせてもらおうとしよう。着替えてくるから少し待ってくれ」

 俺は店の中に入り、自分に与えられた部屋で鎧を脱ぎ、以前、サナとの買い物で買ったこの世界の服に着替える。
 そして、外に出ると「うわあ」とルリが驚いたような声を出した。

「鎧姿だと分かりにくいですけど、アドニスさん、普通にいい男ですね」
「む? そうか? そんなことはないと思うが……」
「そうよ、瑠璃。アドニスなんて面倒くさい男、口説いても得はないわよ?」
「べ、別に口説いた訳じゃ……」

 サナの指摘にルリは慌てた仕草を見せる。
 ふむ。いい男、か。自分ではあまり意識したことはなかったが。

「それでは行こう。またデンシャという鉄の箱に乗っていくのか?」
「そうですね、渋谷まで出ようかと思うので」

 シブヤ。初めて聞く地名だが、買い物ができる程度には店がある所なのだろう。
 短い付き合いながら、俺はサナとルリは買い物には一家言あるこだわりを持っていることを理解した。
 その二人が満足する場所なら相応のものだろう。
 俺たちはアキハバラの町中を歩き、エキからデンシャという鉄の箱を連ねた乗り物に乗るとシブヤとやらに出る。
 高いびるという建物が立ち並んだ町で人がうじゃうじゃいた。
 これだけの人間がどこから出て来たのだと俺は疑問に思ってしまう。

「それにしても人が多いな」
「夏休みでしかも休日の渋谷だからね」
「まぁ、これくらいはいますよね」

 そういうものなのか。このトウキョウという都市郡は発展しているようだ、との認識を再確認する。
 さて、サナやルリに不逞の輩が近寄らないようにするのはヨーイチ殿から頼まれた俺の役目だ。
 サナとルリを守るようにしようと思うのだが、何分、こちらはシブヤとやらの地理を知らない。
 サナとルリが先行する形になるのも仕方がなかった。勿論、何かあればすぐに矢面に立つことは意識しつつ。

 だが、そこからが大変だった。
 サナもルリも騎士でも戦士でもないのにどこにそんな体力があるのだと思わせるバイタリティで人混みを掻き分け次々に店に入っていく。
 十以上の店を巡り、商品を見て回るだけで買う気はないようだった。

 うぃんどぅしょっぴんぐ、と言うものらしいがよく分からない。買う気もないのに何故、店に入るのだ?

 それに付き合わされて参る程、こちらもやわな鍛え方はしていないのでついて行けるが、先を行く二人の体力には感心しきりであった。

「ちょっと休憩しましょうか」

 サナの一言でキッサテンとやらに入って休息を取ることにする。
 メニュー表を見せられてもよく分からなかったが、コーヒーと紅茶くらいは俺の世界にもあった。それを選ぼうとするが、

「アドニス、あんた、たまにはアイスでも食べなさいよ」
「あいす? あいすとは何だ?」
「冷たくてすっごく美味しいデザートですよ」

 サナとルリの二人にこう言われる。
 二人もあいすのぱふぇ、とやらを頼むようだった。
 俺も二人に注文を任せてあいすとやらを食べることにする。
 程なくしてあいすが運ばれてきた。雪のように真っ白な食べ物だ。
 俺のは白いだけで何もない円形状のあいすでサナとルリのものはぱふぇと言うらしく大きな器にあいすと他にもお菓子と思わしき物々が詰め込まれている。
 俺は緊張しつつスプーンで白いあいすをすくうと口元に運ぶ。

「う、美味い……!」

 そう言わざるを得なかった。あいすとやらは冷たく、そして甘みをたっぷりと内包した食べ物であった。「でしょう?」とサナが得意げな顔になる。

「こんな美味いものを食べるのは初めてだ!」

 感激して俺は言う。この台詞自体この世界に来てからサナの家で食事をする度に言っている台詞ではあるのだが、それらの食事と目の前のあいすは根本的に何かが違うような気がした。
 こうして休憩も取り終わった俺たちは再び買い物に繰り出すのであった。
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