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第9話:この世界と俺の世界
しおりを挟むこの世界には不思議なことや物が多い。
サナやヨーイチ、ルリやフェイフーが持っているすまほという物もそうだ。
ただの薄い長方形の板にしか見えないのだが、あれで通信ができ、離れた場所の相手と会話する、俺の世界では高度な通信魔術を使わないと出来ない真似を簡単に行う。
すまほはそれだけではなくてれびとやらを見たり、シャシンを撮ったりもできる。
様々な機能が秘められているようだ。サナは俺に俺用のすまほを買おうか? ……と提案してくれたが、俺では使いこなせないことが分かっていたので断っておいた。
それでも連絡手段がないと不便ということでがらけーとやらを買ってくれた。
これで通信ができるらしい。番号で通信相手を指定するらしくそれも記録しておけるという。
ばってりーとやらで動いているのでばってりーが切れそうなら充電しろ、と言われた。
驚くべきことにこの世界は雷を生活の中に取り込み、活かしていた。
このがらけーを動かすのも雷から派生した電力で動いているらしい。
サナの家の中にある食料を腐らずに入れておけるレイゾウコや中に入れたものをあっためるデンシレンジも、様々な光景を映し出すテレビも電力で動いているという。
全くもって凄まじい技術力だと言わざるを得ない。
道を走るジドウシャという鉄の箱も電力で動いているのかを俺はサナに訊ねたが、電力で動いているのもあるが、多くはがそりんという液体で動いているのだという。
鉄の箱が車輪を回し、道を行くのだから凄いものだが、この世界ではポピュラーな移動手段のようだ。
それよりもさらに身近な移動手段としてジテンシャなるものがある。
これは二つの車輪で成り立っているもので、さどるという所に尻を預け、前の車輪の上にあるはんどるという棒を握り、ぺだるという足場を漕ぐことでそれを動力として移動する。
最初はこのジテンシャに乗れなかった俺だが、練習して今では自由に乗りこなせるようになっている。
馬が身近にいないこの世界ではこのジテンシャに頼ることも多いだろう。
シモの話で恐縮だが、この世界のトイレも俺の世界とは一線を画していた。
俺の世界のトイレと違い排泄物を水で流して消し去ってくれる。
これに関しては便利すぎると思わざるを得なかった。
さらにお風呂もある。俺の世界にも風呂はあったが、そこにお湯を入れる手間が段違いだ。
この世界はぼたんというものを一つ押すだけで湯船が張れる。
それだけではなくしゃわーなるものから自由に水もお湯も出して体を洗うことができる。しゃわーなどというものは俺の世界のお風呂にはなかったものだ。
とはいえ、俺の世界が一概にこの世界に劣っているかというとそうでもない。この夏の中、そんな鎧姿で外に立っているのは大変でしょう? とサナから気遣いを受けたことがあったが、魔力を肌身に張り巡らせ、温度を調整している、と言うと驚かれた。
多少は魔術をかじった者なら誰でもできる行為なのだが、それがこの世界では凄い行為として映るらしい。
どうやら、この世界に魔法の技術はないようであった。
その分、カガクとやらが発展しているとサナは言っていたが。
もっとも大きな違いはこの世界には魔物が存在しないことだろう。
普通の動物はいるようなのだが、魔物なんてふぁんたじー作品の中だけだし、とサナは笑っていた。
魔物がいないのなら騎士もいないのかと思ったが、ケイサツカンという青い騎士が町の治安を守っているようだった。
この世界に来た初日に俺を不審に思い問い詰めたのもそのケイサツカンという騎士であったらしかった。
剣も持たずに治安を守れるのか、との問いにサナはケンジュウを持っているから問題ないでしょ、と笑う。
ケンジュウとは黒い筒のようなものに手で握る部分が下に伸びたもので弾を込めて撃てば強力なダメージを遠距離の目標にも与えられるものだという。
そのように遠距離攻撃武器が増えたことでこの世界では剣や槍は廃れてしまっているようだった。
「迂闊に剣を持って出歩かないでね。銃刀法違反で捕まるから」
サナはわりと真剣な表情でそう言った。
ジュウトウホウとやらは市民が武器を持たないように規制することで秩序を守っている法律のようであり、俺もケイサツカンに捕まるのは嫌なので余程のことがない限り、愛用の剣はサナとヨーイチ殿の家に置きっぱなしにして、模造刀を持つことにした。
そうして、今日も今日とてこすぷれしょっぷの看板男として店の前に立ち、看板を掲げる。
俺の鎧姿はねっととやらでも評判になっているらしい。
すまほで繋がった画面に(驚くべきことにすまほは世界中の情報を見ることもできるのだという)俺が店の前に立っている姿が映っていて、そのシャシンは多くの人が見ているのだと言う。
騎士の誉れとは少し違うが、俺の姿が羨望の的になるのは悪い気分ではない。
俺はいつも以上に気合いを入れて店頭で看板男の役目を果たそうとするのであった。
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