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第8話:服を買いに行こう!

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 こすぷれの披露会の翌日。今日も鎧姿で店頭に立とうとした俺にサナが声をかけてきた。

「アドニス、今日はいいわ。それより貴方の服を買いに行きましょう」
「服を?」
「ええ」

 この国では鎧姿で出歩いては否応なしに注目を集め、悪目立ちしてしまう。
 そこで俺は外出する時はヨーイチ殿の服を借りているのだが、確かにいつまでも借りているよりは自分の服を買った方がいいかもしれない。

「そうだな。俺もこの国で着る服は必要だ。サナさえ良ければ一緒に行こう」
「勿論よ。っていうか私がいないと服屋の場所とか分からないでしょ?」
「その通りだな」

 俺は苦笑いする。とりあえず今日はヨーイチ殿の服を借りて、外に出る。
 てぃーしゃつとじーぱんは実に着心地の良いものだ。これを自分の分を買えばいいだろう。そう思っていたのだが、サナからダメ出しを喰らってしまった。

「そんなダサい格好、おっさんじゃないんだから。もっとちゃんとした服を選ぶわよ」
「お、おう……?」

 ちゃんとした服とはいかなるものか。
 てぃーしゃつとじーぱんはちゃんとした服ではないのだろうか。
 疑問が湧き上がったが、サナに訊ねず、一緒に店の外に出る。
 そのままサナはエキという鉄の箱で移動する場所に向かうようだ。

「あのデンシャとかいう鉄の箱で移動するのか? この近くに服屋はないのか?」
「あるにはあるけど、品揃えがね。原宿まで出ていっていい服買うわよ」
「ふむ。そういうものか……」

 よく分からなかったが、とりあえず頷いておく。
 しばらく歩いてエキに到着したのでキップという名の乗車券を買って、デンシャという鉄の箱を何個も連ねた物が来るのを待つ。
 すぐにデンシャは来てサナはためらいなく乗り込む。俺もその後に続いた。
 そうしてしばらく鉄の箱の中で揺られ、こんなもので移動するなんて驚きだなぁ、と昨日、チカテツとやらに乗った時と同じ感想を懐きつつ、目的のエキに到着するまで待つ。

 そして、デンシャは目的のエキに着いたようでサナはデンシャから下りる。
 俺も習って下りた。
 それにしても驚くべきはこの町の人の多さだ。スナイバル王国ではこれ程の人が一同に介することはなかった。人の多さについてサナに訊ねると、

「そりゃ、ここは日本の首都だからね」

 と、答えが返って来た。ふむ。ここはこの国の首都なのか。それでもスナイバル王国の首都より遥かに人の数が多い。
 そのことに驚きながらも人の群れの中を割いて、サナはズンズン進んでいく。
 見失わないようにしつつ、その背中を追う。
 やがてびるという高い建物の中に入り、その中で服屋に行く。

 ここでもまた俺は驚かされた。スナイバル王国にも服屋はあったが、スケールがその比ではない。多種多様。ありとあらゆる服が並んでおり、俺を困惑させた。

「どれか気に入った服がある?」

 サナは俺にそう訊ねるが、正直、服が多すぎて訳が分からないというのが正直な所だった。
 これだけ服が多いとどれにすればいいのかなど選べない。サナに選択を委ねることにした。

「俺にはどの服がいいかなんて分からないな。サナが選んでくれ」
「分かったわ」

 俺の言葉にサナは頷くと店中を見て回り、適当な服を選んでくれる。
 しゃつというものに黒いじゃけっとというもの、ズボンも洒落たものを選んでくれた。この服なら文句はない。

「これでいいかしら?」
「ああ。これなら充分だ」

 非の打ち所がない。サナのセンスはいいのだろう。
 それらの服の値段が気になったが、「お父さんから貰っているから気にしないで」とサナは言うと早速、会計を済ませて服を購入する。
 その袋は俺が持った。これで帰るものかと俺は思ったがサナはまだ俺の服を買うようだった。

「もう充分なのではないか?」
「何言っているの。一着しか服がないなら着たきり雀になっちゃうでしょう。最低でも二着は買わないと」

 キタキリスズメとやらがどういう意味かは理解しそこねたが、複数の服を持っている必要があるというのには同意だ。
 二着目もサナに任せて選んでもらう。そうして結局、合計三着の服を買って俺たちは服屋とそれが入っているびるという建物を出た。

「サナには世話になりっぱなしだな」
「別に気にしなくていいわよ。私が好きでやってるだけだし」
「そうか。それはありがたい」

 サナに選んでもらい、買ってもらった三着の服を袋に持って、俺は帰路を歩く。
 この恩義はいつか返さなければならないな。とにかく今日はサナに世話になりっぱなしだった。
 こすぷれしょっぷの看板をやるだけで恩は返せるだろうか?
 そんなことを思いつつ、俺たちは来た時と同様、エキに向かい鉄の箱に揺られて、サナの家まで帰るのであった。
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