『こすぷれ』とは一体、何なのだ? 異世界から現代日本に転移した騎士、鎧姿のためコスプレ屋の看板男になる

和美 一

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第6話:こすぷれの披露会

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 今日も今日とて鎧を着て、ヨーイチ殿のこすぷれしょっぷの看板を務める。
 アキハバラの町に突然、現れた鎧男として俺は有名になっているとサナから聞いた。

 何故そんなことが分かるのかと訊ねるといんたーねっととやらで分かるらしい。
 ヨーイチ殿はこれでうちの店も有名になる、と上機嫌だ。

 かといって俺のやることは変わらず、看板を持って、お店の前に出て、客寄せをするだけだ。

「はいはい、皆さん、いらっしゃい。こすぷれ用品色々ありますよぉ」

 金属製の全身鎧に身を包んだ俺が言うと凄まじく説得力のあるものらしい。

 町行く人々は俺の姿を見ると必ず足を止めて俺を凝視する。
 それであれば店の宣伝役も務まるというものだ。
 それから実際に店の中に入った客もいて、俺は役目を果たせていることに満足だった。

 そんな中、一人の女性が俺の前に現れる。着ている服はこの世界の普通の人々が着ているのと少し違い、道着のような感じだが、横に足首から腰まで亀裂が入っており、足を自由に動かせる格好であった。
 この服の名前は確かチャイナ服とかいったな、と俺はサナの言葉を思い出す。

「貴方が佐奈ちゃんの言っていたアドニスさん?」

 目の前の女はそう問いかける。俺は頷いた。

「私は巫飛虎(ウ・フェイフー) 。見ての通り中国人よ」
「中国人……?」

 そんな国名も初めて聞いたが、この国でそう名乗るということはこの国の外から来た者なのだろう。

「佐奈ちゃんたちとはコスプレ仲間ってトコかな? フェイちゃんって、気軽に呼んでもいいのよ」
「フェイフー殿か俺はアドニス・トーベだ。よろしく頼む」
「言っている側から硬いわね」
「こういう性格ゆえに」

 フェイフーは苦笑いし、俺も口元をほころばす。そうしているとフェイフーは俺の鎧をペタペタと触りだした。

「話には聞いていたけど、ホントに鋼鉄製の鎧なのねー。重いでしょ?」
「確かに重いが耐えられない程ではない」
「鍛えてあるのね」
「それが騎士の務めだ」

 重鎧を着て走るくらいかるくできなければ騎士失格だ。フェイフーの言葉に俺は胸を張って言い返す。

「それより私は佐奈ちゃんに用があるの。中にいるかしら?」
「サナなら今はいるはずだ」
「分かったわ。ありがとう騎士さん」

 フェイフーはそう言って店の中に入っていく。が、すぐに出て来た。サナと一緒だ。

「アドニス、もうすぐコスプレ披露会があるんだけど、アドニスにも一緒に来てもらっていいかしら?」
「俺はこすぷれではないぞ?」
「分かっているわ。それでも一応、来て欲しいの。アドニスの鎧があれば注目度は格段に増すだろうし」

 それはそうだろう。
 俺はこすぷれというものを少しずつ理解しつつあった。
 俺の鎧は実際の鎧だ。それを真似て作った模造品の中に混ざれば一際輝くことは間違いない。

「でも剣は置いていってよね? 銃刀法違反で逮捕されちゃうわよ」
「そのジュウトウホウというのはよく分からん上に剣を手放すのは心細くあるが、仕方があるまい」

 俺とて捕縛されるのは嫌だし、昨日みたく並の連中なら鎧に身を包んだ俺なら撃退できるはずだ。
 こすぷれの披露会か。一体何がそんなに皆を俺の世界の服のようなものに熱狂させるのかは知らないが、ともあれ、行ってみる分には損はないかとも思う。

「どんなこすぷれがあるのか楽しみだな」
「あら、アドニスも言うようになったわね」
「ふふ、騎士さんのコスプレが完璧過ぎて浮きそうだけどね」

 驚くサナにフェイフーが笑みを浮かべる。
 ルリも一緒に行くのだろう。それなら楽しい一日になると思う。

 手元から鋼の剣を離すのは心配ではあるが、並の相手なら鎧に身を包んだこの肉体だけで相手できる。
 こすぷれの披露会か。どんな服装を着た人々が集まるのか楽しみに思う程度にはこの世界の文化を理解しつつあった。

 てれびあにめというものの登場人物を模したこすぷれとやらもあるらしい。
 てれびというものは最初見た時は薄い板の中に人がいる、と俺は混乱したものだが。

 あれはかめらとやらで撮ったものを流しているだけらしい。俺の世界の魔力式通信システムと原理は同じだ。とはいえ、それが可能な技術力には感服するしかないのであるが。
 サナは俺に何かとてれびあにめやげーむ、まんがを勧めてくるのだが、俺が会話はできるが文字は読めないと言うとガックリしたようにまんがのフキョウとやらを諦めたようだ。

 その代わりてれびあにめやげーむは未だに勧められるが。
 曰く『オタクの英才教育』なるものらしい。

 よく分からない。とりあえず嗜む程度にあにめもげーむもやったり見たりしているが。
 こすぷれの披露会か、果たしてどんな格好の人たちがいるのやら。俺は期待するのであった。
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