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第5話:鋼鉄の鎧はナイフ程度じゃ貫けません

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 俺がサナやヨーイチ殿の世話になるようになって数日が経った。
 その間、俺は鎧姿で店頭に立ち看板を掲げる役目を務め続けた。

 お客さんの中には俺の鎧に触りたがる者、物珍しそうに『シャシン』というものを撮る者もいたが、それをそこまで不快に感じることはなかった。
 そうしているとルリが訪れてくる。

「アドニスさん、こんにちは」
「ああ、こんにちは、ルリ。今日の格好は普通の格好だな」
「私たちにとっては普通じゃないんですけどね」

 ルリは魔法使いが纏うようなローブ姿であった。
 聞けばサナとルリは『こすぷれなかま』であるらしい。『こすぷれ』というのがどういうものなのか、今一分からない俺だが、とりあえず俺の知っている服を着ることがそうであるということくらいは分かった。

「来たわね、瑠璃」

 サナが店から出てルリを出迎える。
 こちらは軽装の戦士姿だ。もっともその鎧の材質は鉄ではなくぷらすちっくとやらで作られているらしく俺の鎧に比べて格段に軽い。

 こんなもので防御力があるのか不安になったが、サナの言う所によると実戦目的じゃないから、とのことらしかった。
 実戦に出る訳でもないのに鎧を着る。
 全くもって不可思議なことだが、それが『こすぷれ』というものらしかった。

「それじゃあ、アドニスさんと一緒に記念写真を撮りましょうか」
「そうね。アドニス、一緒に写ってくれる?」
「俺に異論はない」

 『シャシン』というものはどうやらその場の風景や人物を絵にして記録するもののようだ。
 初めてシャシンを見せられた時にはまるで人や風景が吸い込まれていってしまったような感覚を懐き、大いに驚いたものだが。

 とはいえ、シャシンは本当に人を吸い込む訳ではない。その場の光景を記録するだけだ。
 それくらいは分かるようになってきていた。俺、サナ、ルリが纏まって、ヨーイチ殿がすまほという細い長方形の物体を構えて、俺たちをシャシンに撮る。
 このすまほという物も不思議なものであった。

「オッケー。それじゃあ、後でネットにアップするから」

 サナがまたよく分からないことを言う。ヨーイチ殿はシャシンを撮ると店の奥に引っ込んでいった。
 いんたーねっと、というものをサナは、いや、この国の人間はよく使うようだが、それに対する俺の理解は低かった。

 ぱそこんとかいうものも俺の理解の外だ。
 光る映像が映りだし、それを操作して様々なことをする。

 これだけでこすぷれしょっぷの会計の管理でもできてしまうらしいが、それが何故かは全く理解できない。
 この国は俺の国と比べてあり得ないくらい科学技術が進んでいるのだと言うことくらいは理解できるようになったが。
 鎧姿の俺とこすぷれしたサナとルリが並んで店の前に立っているとガラの悪そうな男たちがやって来た。

「おうおう、お嬢ちゃんたち、可愛い格好でしるね~」
「オレたちと一緒に写真撮ってくれない?」

 サナとルリが不安げに表情を変え、俺の後ろに下がる。俺は二人組のその男たちを睨み付けると警告を発した。

「この二人に手出しはさせない。どうしてもというのなら俺が相手だ」
「なんだこのコスプレ野郎!」
「コスプレしたからって強くなった気でいるのかよ! こいつは傑作だなぁ!」

 男たちは舐めた様子で俺に近付く。
 その手にナイフが握られているのを見て、サナとルリはギョッとする。

「ア、アドニス……」
「大丈夫なんですか? アドニスさん?」
「平気平気、あれくらいの輩、敵じゃないって」

 俺は気楽に言い、男たちに向き直る。
 男の一人がナイフで俺に刺突を繰り出してくる。それを俺は鎧で受けた。

「きゃっ!」

 サナとルリが悲鳴を上げるが、俺の鎧は鋼鉄製だ。
 こんなチャチなナイフなど通さない。ナイフを弾かれたのを見て、男たちは驚愕を露わにする。

「な、なんだ、こいつ……!」
「コスプレじゃないのか!?」

 そう言いつつ、もう一度ナイフを振るう。
 それを篭手
こて
で俺は受け止める。
 こんなチャチなナイフで俺の鎧を貫けるはずもない。
 ナイフでの連続攻撃を防がれて、男たちは勢いをなくしていた。

 ここで俺が反撃に出る、ことは許されない。そうすればショウガイのゲンコウハンとやらで捕縛されてしまうらしい。
 サナから聞いたことだが。

 俺は防御に徹し男たちの戦意が消えるのを待つ。
 全くもって退屈な時間だ。俺が手を出すことが許されるのなら一瞬で男たちを倒す自信があるというのに。
 やがて、男たちはかなわないと判断したのか捨て台詞を吐いて逃げ去っていく。

「畜生! 覚えてろ!」
「このコスプレ野郎が!」

 そうして、俺はサナとルリを見た。

「あ、ありがと、アドニス」
「助かりました、アドニスさん」
「いやいや、これくらいなんてことはないよ」

 実際になんてことはなかった。俺は笑みを浮かべて二人を見る。何故か二人は頬を赤らめる。
 それにしてもどの世界・国にも悪漢はいるものだ、と苦い思いを抱くのであった。
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