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第3話:美味すぎるお茶

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小柄な少女だった。身長は140cm代といった所か。しかし、『ばいと』とは何だ?

「ばいととはどういう意味だ?」
「え?」

 俺の問いに少女は面食らったようだ。
 怪訝な目で見られる。この世界では当たり前に使われる単語だったか。
 それを理解したが、『ばいと』なるものがどういうものなのかは分からない。

「えっと、お仕事してお金を貰う正社員じゃない人のことですけど」
「セイシャイン……」

 また知らない単語が出て来た。しかしそれについて訊ねる愚を犯さず、俺は頷く。

「俺はここで鎧姿で立っていれば代わりにこの店の主、ヨーイチと言ったか、……に寝床と料理を与えられるとの約束でこうしている」
「そうなんですか!?」

 少女は少し驚いたようであった。

「佐奈の家にいつの間にかこんな外国人の人が来ているなんて……」

 異国の民――本当は異世界だが――である俺のことが珍しいのだろう。少女は俺をジロジロ見る。

「それにしても凄いコスプレですね。本物みたい」
「いや、本物なんだがな……こすぷれ用品というのとは少し違うぞ」
「本物!? そんな……」

 少女が驚く。そこにサナがやって来た。

「瑠璃! 来ていたのね」
「うん、佐奈。この人は新しいバイトの人?」
「そんなようなものかな。アドニス、この子は私の友人で星川瑠璃
(ほしかわるり)って言うの」
「星川瑠璃です。よろしくお願いします」
「そうなのか。俺はアドニス・トーベだ」

 ルリとやらに俺は名のる。瑠璃は興味深そうに俺を見て、口を開く。

「アドニスさんはやっぱり外国の方なんですか?」
「そうなるな」
「外国というか、世界が違うんだけど……まぁ、いっか」

 サナが何かを言いかけたが途中で引っ込める。
 ルリは俺の鎧にぺたぺた触り、「凄いコスプレ衣装だね」とサナに声をかける。

「まるで本物みたい」
「あはは、これに限っては本物なんだよね~」

 ルリとやらの言葉にサナは苦笑いして応える。
 こすぷれも何も俺の着ている鎧は正真正銘の本物だ。
 そのように言われるのには抵抗があった。

「アドニス、お父さんが休憩入っていいって」
「キュウケイハイル……? それはつまり休んでもいいということか?」
「そうよ」

 それならお言葉に甘えさせてもらうことにしよう。

 俺はサナとルリと共にこすぷれしょっぷの中のすたっふるーむとやらに入る。
 上半身の鎧を脱いだ。するとサナとルリが赤い顔をした。
 上半身の鎧を脱げばその下は肌身だ。
 年頃の女の子の前で少し無遠慮だったかもしれないなと思いつつもその状態で休む。

「すごい筋肉……さっすが本物……」
「この鎧すごく重いんですけど……まさか本当に鋼で作っているんですか?」

 俺の上半身を見てサナとルリは目を丸くし、ルリが脱いだ鎧に触って感想を漏らす。

「正真正銘、鋼鉄製だ」
「凄い……そんなものがあるなんて」

 ルリは驚いている様子であった。サナも脱いだ鎧に触り、「やっぱり本物は違うわね~」などとコメントする。

「やあ、アドニスくん。麦茶が入ったよ。瑠璃ちゃんもみんなで飲みなよ」

 そこに店主でサナの父親のヨーイチ殿が入ってくる。
 盆の上に透明なコップが載せられ、その中にお茶が注がれているようだ。
 俺はその一つを手に取り、口に含む。

「美味い! こんなに美味いお茶は初めてだ!」

 そして、感激した。
 なんということだろう。
 俺の国、スナイバル王国にこんな美味いお茶はない。この国の食事レベルの高さが伺えるお茶だった。

「そんな大袈裟な……」

 ルリが若干、引いている。他国人故の田舎者っぷりを見せつけてしまったか。少し反省。

「あはは、現代日本の技術水準に異世界人のアドニスさんは感激しているんだね」

 よく分からないことをサナは言う。とにかく、このお茶が美味いのは確かだ。

「ヨーイチ殿、このような高価な物をいただき感謝している」
「あはは、パックの麦茶だよ? そんな大したものじゃない」
「そうなのか? ともかく無礼な申し出かもしれんが、おかわりをいただけないだろうか?」
「ああ、それくらいならいいけど」

 ヨーイチ殿は俺のコップを取り、その場を去る。そして帰って来た時にはお茶を淹れていた。

「はい、どうぞ」
「感謝いたす」

 再びお茶を口に含む。感激の美味さだ。こんなお茶、スナイバル王国中を探したってない。

「ねえ、佐奈。この人は何なの? なんでパックの麦茶なんかで感激しているの?」
「あはは、それには色々あってね……」

 ルリに訊ねられたサナが言葉を濁す。

「よし! 休憩は終わりだ! 俺はまた店の前に立つ!」
「もうちょっとゆっくりしていってもいいんだよ?」
「ヨーイチ殿、このような美味いものを貰ったのだ。それには応えなければならん」
「まぁ、うちとしては客引きができるならいいけど」

 俺は再び鎧を身に付けて、看板を持って、こすぷれしょっぷの店頭に立つ。やる気は充分であった。

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