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第7章:リアライド王国・冒険編

第79話:巨大ゴーレム襲来

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 巨大ゴーレムがその剛腕を振り上げる。振り下ろされた剛腕をナハトは後ろに下がることで回避したが、地面に叩き付けられた腕は大地を大きくえぐり、その圧倒的な破壊力を示した。

 なんて威力だ、とナハトは戦慄する。こんなもの喰らってしまえばただ事では済まない。

 ゴーレムは攻撃を回避されたことに苛立つようにもう片方の腕も振り上げるとナハト目掛けて振り下ろす。

 これもナハトは後退することで回避するが地面に命中した腕がその大地を大きくえぐった。

 メリクリウスやルゼが巻き添えを恐れて引き下がったのは当然か、と思う。このゴーレムは危険すぎる。自分たちも逃げ出したいところだが、こんな危険な存在を放っておいておく訳にもいかない。

 ナハトは黄金の光刃と化している聖桜剣で斬り掛かった。それをゴーレムは剛腕を盾にしのぐ。ガキン、と音。黄金の光刃は、しかし、ゴーレムの肉体に喰い込むことはなく鋼鉄以上の硬さを誇る腕に弾かれた。

 そのことに一瞬、呆然とするもすぐにゴーレムの反撃が来る。前に出ていたナハトは後ろに退避した。

 ゴーレムの腕が再び大地をえぐる。やはり、というか、見かけどうりというか、このゴーレム、あまり頭は良さそうになかった。



「ナハト殿! ゴーレム相手は原核を狙え! 原核がゴーレムの弱点だ!」



 叫びながらグレースがヴェントハルバードから風刃を放つ。それはゴーレムに命中したが、やはりほとんどダメージを与えられたようい見えない。

 「原核って、どこにあるんだよ!?」と返しながら、ナハトも聖桜剣から黄金の波動を放つ。これも命中。しかし、ダメージは少ない。ナハトの問いにはアイネが答えてくれた。



「ゴーレムの原核といったら普通は胸よ! 胸を狙うのよ! 人間の急所と同じよ!」



 言いながら、氷雪剣から氷雪の波動を放つ。これはゴーレム相手に効果がない、ということはなかった。威力はなくとも体の表面が凍り付けばゴーレムの動きは鈍くなる。

 体を氷漬けにされ、ゴーレムの動きが鈍った、ように思えた。直後、ゴーレムの体が発熱し、全身が真っ赤に染まる。

 その表面を氷漬けにしていた氷は一気に溶かされ、水となり地面に落ちる。「嘘!?」とアイネの声。

 ナハトは聖桜剣をしっかり握り、ゴーレムを見据えた。胸を狙う。それはいい。問題はこのゴーレムが全長5メートル近い巨大さで胸も相応の高さにある、ということだが。



「イーニッド! 行くぞ!」



 イーニッドに声をかけ、ナハトは駆け出す。応じたイーニッドも駆け出し、二人してゴーレムの胸を狙い攻撃を仕掛ける。

 先にナハトが飛び、聖桜剣を振るい、胸元目掛けて斬り付けるが、ゴーレムも自分の弱点は承知なのだろう。

 腕を盾に受け止める。やっていることは基本的に頭が悪そうなのに、妙なところで頭がいい。

 聖桜剣を弾かれ、ナハトは地面に着地する。その隙を狙って攻撃されることはなかった。

 ナハトに次いで地を蹴り、飛び上がったイーニッドがガントレットの一撃を繰り出したからだ。

 それでも、ゴーレムのガードを崩すほどではない。両腕のガードに拳を防がれ、イーニッドは反動で後ろに下がり地面に着地する。

 そこにグレースの風刃とアイネの氷雪の波動も放たれたが、やはり両腕に防がれた。

 胸に一撃を叩き込むにはまずはあの両腕をなんとかする必要がある。

 そう思ってるナハトの頭上にゴーレムの両腕が、剛腕が振り下ろされる。回避、はしない。聖桜剣を盾に振り下ろされた両腕を受け止めた。なんという剛腕。

 その威力にナハトは両足に力を入れて押し潰されないように踏ん張るが、これは何も間抜けで喰らった訳ではなかった。



「今だ! イーニッド! 行け!」



 ゴーレムの腕が自分に振り下ろされている隙を狙わせイーニッドに攻撃させる。

 イーニッドが幻想具のガントレットの想力を解放し、巨大な拳のオーラを纏ったそれを飛び上がり、ゴーレムの胸に叩き付ける。

 進撃を繰り返してきたゴーレムが初めて後退の予兆を見せた。胸に強烈な一撃を喰らったゴーレムは思わず、といった様子でナハトに叩き付けていた腕も引き下げ、後ろに下がる。

 そこを追撃せんとグレースとアイネも駆け出す。ゴーレムの足元目掛けてハルバードの穂先と氷雪剣の青い刀身が振るわれ、足元を斬り付ける。

 直接的にゴーレムにダメージを与えることはないが、これにゴーレムは姿勢を崩した。さらなる追撃にナハトが駆ける。

 黄金の聖桜剣を振りかぶり、飛び、ゴーレムの胸目掛けて斬り付ける。黄金の光刃がゴーレムの胸に直撃し、しかし、斬り裂くことはできず、表面の装甲に弾かれる。一旦、ナハトたちは後ろに下がる。



「くそっ! なんて、硬さだ!」



 ナハトがそう毒づく。ゴーレムはダメージから立ち直ると、怒り狂ったようにナハトたちの方に向かってくる。

 自分たちを狙っている内はまだいい、とナハトは思う。少なくとも自分たちが攻撃を受けていれば、余波はあるかもしれないが、このゴーレムの破壊力は抑えられる。

 このゴーレムが見境なく暴れ出した時のことを考えるとその方が恐ろしい。距離が少し開いていたがゴーレムは片腕を振り上げる。

 腕のリーチが届く位置ではない。やはり頭脳は高くないのか? そうナハトたちが思ったが、剛腕が振り下ろされたところから衝撃波が巻き起こりナハトたち目掛けて飛んでくる。

 ナハトは驚愕しつつも、これを回避すると周りに被害が出る、と聖桜剣で衝撃波を受け止める。

 刀身に大きく振動が走ったが、そこは四大至宝・聖桜剣キルシェ。へし折れることもなく、ゴーレムの衝撃波を受け止める。

 それからは狂ったようにゴーレムは腕を振るい、衝撃波を連発してくる。ナハトたちも出来る限りはそれを防ごうとしたが、受け切れなかった衝撃波が民家や商店に命中し、大きな傷跡を残す。

 くそ、とナハトは焦る。見境なしかよ、あのゴーレム……! 防ぐためにはやはり自分たちが攻撃を仕掛けるしかない。

 ナハトはイーニッドとアイコンタクトを交わすと再び前進してゴーレムに斬り掛かった。これにゴーレムは両腕で迎撃してくる。

 ナハトとイーニッドの同時攻撃にさらにグレースとアイネの風刃と氷雪による援護攻撃まで交えた一斉攻撃だ。だが、表面を真っ赤に染めたゴーレムはそれら全てをしのぎ切る。

 イーニッドは後ろに吹っ飛ばされ尻餅をつく。ナハトは吹き飛ばされこそしなかったものの、ゴーレムの腕の一撃を受け止めて、足が止まる。



「なめ……るな!」



 なんとか聖桜剣で押し返し、ゴーレムの腕を跳ね除ける。

 その瞬間を狙って聖桜剣でゴーレムの足元目掛けて斬り付ける。しかし、相手もそれだけで倒れてくれる程、甘い相手ではない。

 体を少し揺らがせたものの、すぐに体勢を立て直すとゴーレムはナハト目掛けて腕を振り下ろしてくる。

 ナハトは後退してこれを避ける。とはいえ、完全に下がる訳にはいかない。

 自分たちが射程距離内から離れるとこのゴーレムは見境なしに衝撃波を放ち出す。それでは町に大きな被害が出てしまう。どうしたものか、とナハトたちが思っていると意外な人影が駆け寄ってくるのが見えた。

 それはゴーレム研究所の研究員マークだった。何故、こんな戦いの最中に!? 危険だ、下がれ! とナハトたちは思ったが、「皆さん!」とマークは声を大にして言う。



「このゴーレムの弱点は頭です! 頭を狙えばこのゴーレムは一時的に動きを止めます!」



 マークの助言はほとんど叫び声だった。今、何故、彼がここに来てくれたのかは定かではないが、それは有用な情報だった。

 復帰したイーニッドとナハトは視線を交わせ、頷き合う。そして、二人してゴーレムに飛びかかった。



「はああああああっ!」



 イーニッドが巨大な拳のオーラを纏ったガントレットを思いっきり叩き付ける。狙いは頭部……ではなく胸部。胸狙いのその一撃をゴーレムは両腕で受け止めたがその隙こそナハトたちの狙い。

 胸の防御に腕を回した隙にナハトがイーニッドよりも高く飛び上がり、ゴーレムの頭部目掛けて黄金の光刃を振り下ろす。

 頭部に深々と喰い込んだ黄金の光刃。ゴーレムはその瞬間、動きを止めた。一旦、地面に降り立った、ナハトとイーニッド。ナハトは「今だ! みんな!」と叫んだ。



「風刃よ……走れ!」

「喰らいなさい! 木偶の坊!」



 グレースが風刃を、アイネが氷雪をゴーレムの胸元目掛けて放つ。

 それを両腕でガードすることは一時的に行動不能に陥っているゴーレムにはできることではなかった。まともに命中する。

 そこにイーニッドが飛び上がり、拳の一撃を真っ向から叩き込む。さらにナハトも飛び、黄金の光刃を振り下ろす。

 連続攻撃を受けて、ゴーレムの胸の装甲は剥がれていた。そこに黄金の光刃が食い込み、ゴーレムの原核を破壊する。そこで驚愕したあらわになったゴーレムの原核は一つではなく三つあったからだ。

 だが、一旦、着地した後、再びゴーレムが動き出す瞬間、グレースの風刃とアイネの氷雪がゴーレムの頭部に放たれた。それらは命中し再びゴーレムの動きが止まる。ナハトはイーニッドと頷き合い、再度、地を蹴るとゴーレムの残りの二つの原核目掛けて攻撃を仕掛ける。ナハトが一つ、イーニッドが一つを狙い攻撃を仕掛ける。それが決め手となった。

 不動の巨人はついに倒れ、地面にその巨体を横たわらせた。三つの原核を破壊したナハトとイーニッドは地面に降り立ち、肩で息をする。その末に近くまで来ていたマークに対して、声をかけた。



「マークさん、どうしてここに? っていうか、この巨大ゴーレムとか他のゴーレムは一体……?」



 その言葉にマークは沈痛そうな面持ちになる。

 何だ? この青年は何を知っているのだ? それを訪ねようとした時、「なんだ。化け物はやられちまったのか」と声がした。声の反応し、ナハトは殺気立った目で振り向く。

 そこには巨大ゴーレムの襲来で一時撤退していたルゼとメリクリウスの姿があった。

 後ろに下がっていた、つまり、今はルゼとメリクリウスの側にいるドラセナとイヴが慌てて駆け出し、ナハトたちの後ろに控える。

 ナハトはゴーレム相手の戦いに消耗した体になんとか活を入れ、聖桜剣を構える。イーニッドもグレースもアイネもそれぞれの獲物を構え、ヴァルチザンの二人を相手に抗戦の意志を示す。



「ま、元々、土人形風情に期待なんかしていなかったんだ。お前たちはオレが倒す」

「ドラセナ・エリアスを引き渡してもらうわよ、お兄ちゃん」



 巨大ゴーレム相手に消耗した自分たちでこの二人の相手ができるのか……? ナハトは弱気にとらわれそうになるが、そんな自分を叱咤し、戦うしかない、と思い直す。

 激闘の直後、再びの激闘が始まろうとしていた。



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