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第4章:交易都市ペルトーセ
第43話:想獣使いのリリアーヌ
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月だけが光源の宵闇の中、鉱山都市ラグリアから少し離れた平地。
そこでゴルドニアース傭兵団は野営をしていた。
ラグリアの領主、ラング・フロップスと結託してのドラセナ・エリアス誘拐計画。
確実な成功が見込めていたはずの作戦は、しかし、桜の勇者たちの活躍により、無残な失敗に終わり、ゴルドニアース傭兵団もメンバーに多数の負傷者を出し、メンバーの何人かはラグリアに見捨てて撤退を強いられた。
聞けばラングはスパイ容疑で拘束されたという。もう協力は見込めまい。
その上、肝心のドラセナ・エリアスと桜の勇者たち一行はどこに行ったのかもしれない有り様。全くもって手詰まりだった。その事実にゴルドニアース傭兵団を率いているメリクリウス・シェルヴァは流石に苛立ちを覚える。
表面上は余裕の態度を取っているが、どうすればドラセナ・エリアスを手に入れることができるか。考えてみるも、答えは出ない。
ラグリアから王都クラフトシティに向かう経路は三つある。そのどれをドラセナ・エリアスと桜の勇者たち一行が選択したのかも分からない上に、部下たちは傷ついていて万全の状態とは言い難い。
ここは一度、ヴァルチザンの本隊に戻るべきなのかもしれないが、今、自分たちが戻ってしまえば次に来るまではターゲットたちは王都に到達してしまっているだろう。
それを考えると引き返すこともできない。メリクリウスが月を見上げ、思案していると「メリクリウス様!」と部下の傭兵から声がかかる。なんだろうと思ってそちらに視線を向ける。
「何かしら?」
「はっ……メリクリウス様にお会いしたいという方がいらしております」
自分に会いたい? こんな敵国の中で? メリクリウスが懐疑心を抱き、「誰?」と訊ねると部下の傭兵は少しためらった様子を見せた末に「……ヴァルチザン帝国の方です」と告げた。
ヴァルチザンの人間? これには流石のメリクリウスも驚愕を覚えた。ヴァルチザンの人間が敵国であるアインクラフトのこんなところまで来ているというのか?
驚きつつも「会うわ」とメリクリウスは答える。
傭兵はその場から遠ざかり、少しの間を置き、足音が聞こえる。
その姿を見て、メリクリウスはさらなる驚愕を覚えた。リリアーヌ・ブラーヌ。ヴァルチザン帝国の中でも有名な人間だ。想獣を操る特殊な幻想具の使い手で、想獣使いのリリアーヌという二つ名で知られている。また、ヴァルチザン帝国軍の中でも特に強力な幻想具使い四人――通称・四獅の一人だ。
ヴァルチザンの要人。そんな人物が何故、こんなアインクラフトの奥地まで来ているのか、驚愕を隠しつつ「これは、これは……」とメリクリウスは、笑みの表情を作り、リリアーヌを迎える。
リリアーヌは生真面目そうな表情を崩さず「ゴルドニアース傭兵団のメリクリウス・シェルヴァ殿ですね」と言う。
リリアーヌは美人といっていい顔たちをした女性であったがその堅物全開の態度がその美貌を台無しにしていた。
「いかにもわたしはメリクリウスです。一介の傭兵に過ぎないわたしがかの高名な四獅の一人、想獣使いのリリアーヌ殿とお話ができるとは光栄の極みです」
リリアーヌはアインクラフトの中で堂々と過ごせる出来る立場ではない。にも関わらずこんなところまで何の用があって来ているのか。
相手の思惑を推し量るようにメリクリウスはリリアーヌの様子を伺った。「単刀直入に申し上げましょう」とリリアーヌは言う。
「四獅が一人、リリアーヌ・ブラーヌ、ヴァルチザン軍を代表し、ゴルドニアース傭兵団に協力しに参りました」
その言葉にも驚愕。
ヴァルチザン帝国内の組織とはいえ、ヴァルチザン帝国とは直接の関係はないゴルドニアース傭兵団はともかく、ヴァルチザン帝国軍に身を置く者がアインクラフト王国内で事を起こすとなるとそれは即座に戦争に発展しかねない危うい行為だ。
「本気ですか?」と思わず訊ねたメリクリウスに「無論です」とリリアーヌは答える。
「ヴァルチザン軍の貴殿が動くとなるとそれはアインクラフトとの戦争にもなりかねないことは承知で?」
「当然です。元より皇帝陛下はアインクラフトとの戦争も考慮に入れて我々への命令を下しております」
「目的はやはり……ドラセナ・エリアスの身柄、ですか?」
メリクリウスの言葉にリリアーヌは首肯する。
とはいえ、本気でヴァルチザンはアインクラフトとの戦争を起こそうと思っている訳ではあるまい。将来的には考慮に入れているだろうが、少なくとも、今は。
そのために捕縛されても個人の独断だったと言い訳のきくリリアーヌ一人を派遣してきたのだろう。
「ドラセナ・エリアスとその仲間たち……桜の勇者たちは現在、交易都市ペルトーセにいます」
メリクリウスの事情など承知なのだろう。始めから協力の約束を取り付けられると踏んでいるのかリリアーヌは語り始める。
「我々の密偵が入手した情報です。どうやら現在はペルトーセの領主ベネディクトゥス家の庇護下にあるようです」
「それは……厄介ですね」
「はい」
メリクリウスの言葉にリリアーヌは頷く。ベネディクトゥス家の庇護を受けているとなれば、ペルトーセの都市を丸ごと相手にするくらいは覚悟しなければならないだろう。
「ですがペルトーセより先に行かれるのも面倒な話。これ以上、王都に近付かれるとドラセナ・エリアスの身柄の確保はより面倒なことになります」
「ペルトーセにいる内に襲撃をかけよう……と?」
「その通りです。そのためにメリクリウス殿の力、ゴルドニアース傭兵団の力をお貸しいただきたい」
リリアーヌはそう言うと一本の鞭を取り出した。あれがたしか想獣たちを自由に操るというリリアーヌの幻想具のはずだ。
「想獣たちをけしかけ、ペルトーセに襲撃をかけます。メリクリウス殿たちにはその隙にドラセナ・エリアスの身柄を確保していただきたい」
「なるほど、勝算はありそうですね」
リリアーヌが操る想獣の群れがペルトーセを襲い、大混乱に陥った隙にドラセナ・エリアスの身柄を確保する。
少なくともメリクリウスたちゴルドニアース傭兵団だけでやるよりはよっぽど勝算がありそうな計画だった。メリクリウスは決断した。
「分かりました。リリアーヌ殿に協力しましょう」
そして、ドラセナ・エリアスの身柄を確保する。
おそらくは桜の勇者が前に立ち塞がることは間違いないが、それは望むところだった。
メリクリウスは笑みを浮かべる。待っててね、お兄ちゃん。今、会いに行くよ。
ナハトは目を覚まし、思わず体を包むベッドの柔らかさに驚愕した。
体がベッドに沈んでいる。こんな目覚めは今までなかった。
この世界に来てからは勿論のこと、元の世界にいた頃もこんな高級なベッドで目覚めを迎えることなどなかった。ラグリアのラングの屋敷ではベッドで眠ったが、目覚めは縄に縛られたワイン蔵の中だったからだ。
ベッドから起き上がり、背伸びをする。両手を天に伸ばし、背筋を伸ばす。心地の良い感触だ。
そうして、しばらく部屋の中で寝起きの感触を味わっていると、コンコン、と客間の扉がノックされた。「はい」と答えると「ナハト様、おはようございます」と言いながらディオンが部屋の中に入ってきた。
背筋はピンと伸ばされ、歩みにもよどみはない。相変わらずの生真面目そうな執事の姿だった。
「朝食の準備が整いました」とディオンは告げた。「分かった。食堂まで行くよ」とナハトが答えるとディオンは一礼し「それでは失礼いたします」と言って去って行った。
それから間もなくナハトは客間を出て食堂を目指した。食堂に辿り着くとアイネ以外は全員揃っていた。
皆、昨夜のドレス姿ではなくいつもの格好に着替えている。
白いワンピースのような格好のドラセナ。青と白の聖職者のような格好のイヴ。マフラーに胸甲、下はビキニパンツだけに具足という褐色の肌を晒した露出度の高い格好をしたイーニッド。白で統一された騎士姿のグレース。
「みんな、おはよう」とナハトは挨拶をし、みんなも挨拶を返す。ナハトが席についた時、アイネが「おはよう、みんな」と言いながらやって来た。
アイネもいつもの格好をしているのかと思って目を向けたナハトは驚いた。旅をしている時の赤いコートや銀の籠手や具足は身に付けていない。上品な私服に身を包んだアイネの姿がそこにはあった。
昨晩のドレス姿の時も思ったが、やはり、アイネは貴族のお嬢様なんだな、ということを再認識させられる。
やがて全員が席につくと食事が運ばれて来る。
「ナハト、今日は買い物に行くわよ」
ある程度、食事も進んだ頃、アイネは不意にそんなことを言った。「買い物?」とナハトが声を返すとその響きにアイネは不満げに眉をしかめた。
「何よ、約束を忘れた訳? ラグリアで買い物に行けなかった代わりにここで一緒に買い物に行くって約束だったでしょう?」
「ああ、そういえばそんな約束してたな」
「おおっ、そうだったな!」
イーニッドも声を上げる。「楽しみですね」とイヴが笑い、「わたしも、楽しみ」とドラセナも続く。
思えば長い約束になったもんだ、とナハトは思った。最初はカウニカを出て、ラグリアに向かう途中にした約束のはずだった。
それがこんなに長引くとは。みんなで買い物、か。
ちょっとプレッシャーを感じないでもないナハトだったが、きっと楽しい買い物になるだろうという思いもあり、なんだかんだで自分も楽しみにしていることに気付く。「そうだな。朝食か昼食が終わったら買い物に行くか」とナハトは言った。
「これだけ大きい町なんですから、さぞ色々なお店があることでしょうね」
「ふふ、私も楽しみにしているぞ、ナハト殿」
イヴとグレースの言葉。なんで自分が主導のように言うかな、とナハトは思い苦笑いした。アイネは得意げな笑みを浮かべた。
「ペルトーセの店の品揃いは王都にも負けてないくらいなんだからね! きっと、楽しい買い物になるわ!」
「わたし、こんな大きな町での買い物なんて初めて……ナハト、楽しみだね」
「ああ、そうだな。ドラセナ」
そんな感じで買い物の予定の話を主にしながら、和気藹々とした雰囲気のまま朝食は進んで行く。みんなと一緒の買い物か。楽しみだな、とナハトも思った。
そこでゴルドニアース傭兵団は野営をしていた。
ラグリアの領主、ラング・フロップスと結託してのドラセナ・エリアス誘拐計画。
確実な成功が見込めていたはずの作戦は、しかし、桜の勇者たちの活躍により、無残な失敗に終わり、ゴルドニアース傭兵団もメンバーに多数の負傷者を出し、メンバーの何人かはラグリアに見捨てて撤退を強いられた。
聞けばラングはスパイ容疑で拘束されたという。もう協力は見込めまい。
その上、肝心のドラセナ・エリアスと桜の勇者たち一行はどこに行ったのかもしれない有り様。全くもって手詰まりだった。その事実にゴルドニアース傭兵団を率いているメリクリウス・シェルヴァは流石に苛立ちを覚える。
表面上は余裕の態度を取っているが、どうすればドラセナ・エリアスを手に入れることができるか。考えてみるも、答えは出ない。
ラグリアから王都クラフトシティに向かう経路は三つある。そのどれをドラセナ・エリアスと桜の勇者たち一行が選択したのかも分からない上に、部下たちは傷ついていて万全の状態とは言い難い。
ここは一度、ヴァルチザンの本隊に戻るべきなのかもしれないが、今、自分たちが戻ってしまえば次に来るまではターゲットたちは王都に到達してしまっているだろう。
それを考えると引き返すこともできない。メリクリウスが月を見上げ、思案していると「メリクリウス様!」と部下の傭兵から声がかかる。なんだろうと思ってそちらに視線を向ける。
「何かしら?」
「はっ……メリクリウス様にお会いしたいという方がいらしております」
自分に会いたい? こんな敵国の中で? メリクリウスが懐疑心を抱き、「誰?」と訊ねると部下の傭兵は少しためらった様子を見せた末に「……ヴァルチザン帝国の方です」と告げた。
ヴァルチザンの人間? これには流石のメリクリウスも驚愕を覚えた。ヴァルチザンの人間が敵国であるアインクラフトのこんなところまで来ているというのか?
驚きつつも「会うわ」とメリクリウスは答える。
傭兵はその場から遠ざかり、少しの間を置き、足音が聞こえる。
その姿を見て、メリクリウスはさらなる驚愕を覚えた。リリアーヌ・ブラーヌ。ヴァルチザン帝国の中でも有名な人間だ。想獣を操る特殊な幻想具の使い手で、想獣使いのリリアーヌという二つ名で知られている。また、ヴァルチザン帝国軍の中でも特に強力な幻想具使い四人――通称・四獅の一人だ。
ヴァルチザンの要人。そんな人物が何故、こんなアインクラフトの奥地まで来ているのか、驚愕を隠しつつ「これは、これは……」とメリクリウスは、笑みの表情を作り、リリアーヌを迎える。
リリアーヌは生真面目そうな表情を崩さず「ゴルドニアース傭兵団のメリクリウス・シェルヴァ殿ですね」と言う。
リリアーヌは美人といっていい顔たちをした女性であったがその堅物全開の態度がその美貌を台無しにしていた。
「いかにもわたしはメリクリウスです。一介の傭兵に過ぎないわたしがかの高名な四獅の一人、想獣使いのリリアーヌ殿とお話ができるとは光栄の極みです」
リリアーヌはアインクラフトの中で堂々と過ごせる出来る立場ではない。にも関わらずこんなところまで何の用があって来ているのか。
相手の思惑を推し量るようにメリクリウスはリリアーヌの様子を伺った。「単刀直入に申し上げましょう」とリリアーヌは言う。
「四獅が一人、リリアーヌ・ブラーヌ、ヴァルチザン軍を代表し、ゴルドニアース傭兵団に協力しに参りました」
その言葉にも驚愕。
ヴァルチザン帝国内の組織とはいえ、ヴァルチザン帝国とは直接の関係はないゴルドニアース傭兵団はともかく、ヴァルチザン帝国軍に身を置く者がアインクラフト王国内で事を起こすとなるとそれは即座に戦争に発展しかねない危うい行為だ。
「本気ですか?」と思わず訊ねたメリクリウスに「無論です」とリリアーヌは答える。
「ヴァルチザン軍の貴殿が動くとなるとそれはアインクラフトとの戦争にもなりかねないことは承知で?」
「当然です。元より皇帝陛下はアインクラフトとの戦争も考慮に入れて我々への命令を下しております」
「目的はやはり……ドラセナ・エリアスの身柄、ですか?」
メリクリウスの言葉にリリアーヌは首肯する。
とはいえ、本気でヴァルチザンはアインクラフトとの戦争を起こそうと思っている訳ではあるまい。将来的には考慮に入れているだろうが、少なくとも、今は。
そのために捕縛されても個人の独断だったと言い訳のきくリリアーヌ一人を派遣してきたのだろう。
「ドラセナ・エリアスとその仲間たち……桜の勇者たちは現在、交易都市ペルトーセにいます」
メリクリウスの事情など承知なのだろう。始めから協力の約束を取り付けられると踏んでいるのかリリアーヌは語り始める。
「我々の密偵が入手した情報です。どうやら現在はペルトーセの領主ベネディクトゥス家の庇護下にあるようです」
「それは……厄介ですね」
「はい」
メリクリウスの言葉にリリアーヌは頷く。ベネディクトゥス家の庇護を受けているとなれば、ペルトーセの都市を丸ごと相手にするくらいは覚悟しなければならないだろう。
「ですがペルトーセより先に行かれるのも面倒な話。これ以上、王都に近付かれるとドラセナ・エリアスの身柄の確保はより面倒なことになります」
「ペルトーセにいる内に襲撃をかけよう……と?」
「その通りです。そのためにメリクリウス殿の力、ゴルドニアース傭兵団の力をお貸しいただきたい」
リリアーヌはそう言うと一本の鞭を取り出した。あれがたしか想獣たちを自由に操るというリリアーヌの幻想具のはずだ。
「想獣たちをけしかけ、ペルトーセに襲撃をかけます。メリクリウス殿たちにはその隙にドラセナ・エリアスの身柄を確保していただきたい」
「なるほど、勝算はありそうですね」
リリアーヌが操る想獣の群れがペルトーセを襲い、大混乱に陥った隙にドラセナ・エリアスの身柄を確保する。
少なくともメリクリウスたちゴルドニアース傭兵団だけでやるよりはよっぽど勝算がありそうな計画だった。メリクリウスは決断した。
「分かりました。リリアーヌ殿に協力しましょう」
そして、ドラセナ・エリアスの身柄を確保する。
おそらくは桜の勇者が前に立ち塞がることは間違いないが、それは望むところだった。
メリクリウスは笑みを浮かべる。待っててね、お兄ちゃん。今、会いに行くよ。
ナハトは目を覚まし、思わず体を包むベッドの柔らかさに驚愕した。
体がベッドに沈んでいる。こんな目覚めは今までなかった。
この世界に来てからは勿論のこと、元の世界にいた頃もこんな高級なベッドで目覚めを迎えることなどなかった。ラグリアのラングの屋敷ではベッドで眠ったが、目覚めは縄に縛られたワイン蔵の中だったからだ。
ベッドから起き上がり、背伸びをする。両手を天に伸ばし、背筋を伸ばす。心地の良い感触だ。
そうして、しばらく部屋の中で寝起きの感触を味わっていると、コンコン、と客間の扉がノックされた。「はい」と答えると「ナハト様、おはようございます」と言いながらディオンが部屋の中に入ってきた。
背筋はピンと伸ばされ、歩みにもよどみはない。相変わらずの生真面目そうな執事の姿だった。
「朝食の準備が整いました」とディオンは告げた。「分かった。食堂まで行くよ」とナハトが答えるとディオンは一礼し「それでは失礼いたします」と言って去って行った。
それから間もなくナハトは客間を出て食堂を目指した。食堂に辿り着くとアイネ以外は全員揃っていた。
皆、昨夜のドレス姿ではなくいつもの格好に着替えている。
白いワンピースのような格好のドラセナ。青と白の聖職者のような格好のイヴ。マフラーに胸甲、下はビキニパンツだけに具足という褐色の肌を晒した露出度の高い格好をしたイーニッド。白で統一された騎士姿のグレース。
「みんな、おはよう」とナハトは挨拶をし、みんなも挨拶を返す。ナハトが席についた時、アイネが「おはよう、みんな」と言いながらやって来た。
アイネもいつもの格好をしているのかと思って目を向けたナハトは驚いた。旅をしている時の赤いコートや銀の籠手や具足は身に付けていない。上品な私服に身を包んだアイネの姿がそこにはあった。
昨晩のドレス姿の時も思ったが、やはり、アイネは貴族のお嬢様なんだな、ということを再認識させられる。
やがて全員が席につくと食事が運ばれて来る。
「ナハト、今日は買い物に行くわよ」
ある程度、食事も進んだ頃、アイネは不意にそんなことを言った。「買い物?」とナハトが声を返すとその響きにアイネは不満げに眉をしかめた。
「何よ、約束を忘れた訳? ラグリアで買い物に行けなかった代わりにここで一緒に買い物に行くって約束だったでしょう?」
「ああ、そういえばそんな約束してたな」
「おおっ、そうだったな!」
イーニッドも声を上げる。「楽しみですね」とイヴが笑い、「わたしも、楽しみ」とドラセナも続く。
思えば長い約束になったもんだ、とナハトは思った。最初はカウニカを出て、ラグリアに向かう途中にした約束のはずだった。
それがこんなに長引くとは。みんなで買い物、か。
ちょっとプレッシャーを感じないでもないナハトだったが、きっと楽しい買い物になるだろうという思いもあり、なんだかんだで自分も楽しみにしていることに気付く。「そうだな。朝食か昼食が終わったら買い物に行くか」とナハトは言った。
「これだけ大きい町なんですから、さぞ色々なお店があることでしょうね」
「ふふ、私も楽しみにしているぞ、ナハト殿」
イヴとグレースの言葉。なんで自分が主導のように言うかな、とナハトは思い苦笑いした。アイネは得意げな笑みを浮かべた。
「ペルトーセの店の品揃いは王都にも負けてないくらいなんだからね! きっと、楽しい買い物になるわ!」
「わたし、こんな大きな町での買い物なんて初めて……ナハト、楽しみだね」
「ああ、そうだな。ドラセナ」
そんな感じで買い物の予定の話を主にしながら、和気藹々とした雰囲気のまま朝食は進んで行く。みんなと一緒の買い物か。楽しみだな、とナハトも思った。
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