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第四章 逆行の真相
嫉妬
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ロザーノ様と訪れたカフェで。尾行対象であるルイ様になぜか速攻で見つかってしまった私たち。
そしてなぜかロザーノ様とルイ様は口論を始めてしまい、困惑しているところに新たな人物が登場した。
「デューイ。きみはちょっと大人しくしておいてくれ。話がややこしくなる。僕は今――」
――あ。あの方は……!
ルイ様が話している途中で、新たな乱入者の顔を見たロザーノ様は私と同じく彼の正体に気づいたようだった。
「ちょっとお兄さん、ここで話すには観客が多すぎるみたいだから、場所を変えてゆっくり話しませんか?」
私はルイ様に視線を向けて全力で首肯した。
ルイ様は頭をぶんぶん降っている私を見て、正気に戻ったようだった。必死に首を縦に振る私の姿が滑稽だったのかもしれない。
一つため息をついて周りを見渡し、ロザーノ様の言葉に同意した様子だった。
「そうだな。では君たちもこちらへ」
✳︎✳︎✳︎
元々ルイ様とデューイ様、そしてアラスター様がいたらしい個室へと腰を落ち着けた私たちは、なぜここにいるのか、お互いの情報を擦り合わせていた。
「なんだ。きみ、ロザリアだったのか。はぁ。よかった。リリアーヌが私以外の男といるなんて変だと思ったんだ。でも、目にした瞬間焦ってしまって……」
ルイ様は自嘲するようにそう言ったけれど、私はそれを聞いてはっとした。
ルイ様は私と仲のいい婚約者アピールをしてくれていたし、何よりお互いの名に傷がつくことを危惧してくれたのだ。私は「変装しているのだからバレることはないだろう」と安易に考えていた自分を反省した。
「ルイ様、ごめんなさい。ご迷惑をかけるつもりは全くなかったのですが……」
「ああ、そういう意味じゃないんだ。お願いだから気に病まないでほしい」
反省してうなだれる私に、ルイ様はどこまでも優しい。
「そうよ、リリアーヌの変装は完璧だったわ。性別すら偽っていたのに。遠くから一瞬見ただけで気づくこの男がおかしいんだわ。長年幼馴染みやってた私には全く気づかなかったくせに……」
「グレンヴィル嬢、心の声が漏れております」
「あら、失礼」
私がうなだれている間にロザリア様とアラスター様が何やら親しげに話している。この二人も幼馴染みということになるのだろうか? 仲が良くて羨ましい。そんなことを思いながらロザリア様のほうを見ていると、ルイ様に声をかけられた。
「リリー。私が女性と会っていると聞いて、心配してここまで来てくれたの?」
「ええ。心配……。そう、大切な婚約者が異性と会っていると聞いたら、心配になってしまって……」
私は自分を納得させるようにそう言った。心配していたのは本当だ。ただ、それよりも大きかったのは、モヤモヤとか焦りとか、もう少し自分勝手な気持ちだったような気がするのだ。
けれど、それらはルイ様がこうして変装した私を一目で見つけてくれて、目を見て語りかけてくれただけで嬉しい気持ちに追いやられ、どこかへ行ってしまった。
「そうだよね。そのことについてはあとからゆっくり二人きりで説明させてほしいな」
「はい。よろしくお願いします」
そうだった。ここには私たち以外の人たちもいるから、無闇に話を広げるべきではない。
私たちのやりとりの横でアラスター様と話していたロザリア様は、私たちの会話に割り込むようにして身を乗り出し、ルイ様に向けて言い放った。
「まあ、はっきりと言えばそこにいらっしゃる方とルイの浮気を疑っていたということね」
それを聞いたルイ様は一瞬動きを止め、疲れた様子で独りごちる。
「酷い冤罪だ……! だって僕はこの一ヵ月間、ずっとこの男に振り回されていたのだから!」
ルイ様に指をさされたデューイ様はさっきからぶつぶつ何か言っていたり、首を傾げたりしながら私を見ている。
「うーん……。やっぱり……」
「デューイ、聞いていたか? きみ、知らないうちに僕の浮気相手になっていたらしいぞ」
「なんだって? 勘弁して。こんな粘着質なやつ、俺はごめんだから」
デューイ様は、隣国であるフィドヘル王国からやってきて我が国に滞在中なのだ。フルネームはデューイ・フィドヘル。フィドヘル王国の国王陛下だ。先日の婚約披露パーティーで、ルイ様が「どうしても会わせたい人がいる」と言って紹介されたのがこの方だった。だから会うのは今日で二回目だ。
――腰までの長いダークブラウンの髪に黄金の瞳。フィドヘルの民族衣装である華やかなロングワンピースのようなものを身に纏っているから……確かに後ろ姿を見れば女性に見えなくもないかも。
私はルイ様がつきっきりでお世話をしていたのが目の前にいる男性であると知って安堵した。もしその相手が女性だったらモヤモヤしていただろう。
私が見つめているのに気づいたデューイ様は、ニコッと笑い、心配するように私へ尋ねた。
「もう、身体に異変が出始めてるんじゃない? この間はまだ大丈夫だったのにね。こんな可愛い子にひどいことするやつがいるもんだよ……」
「え……」
私は、まだ誰にも話していないことを言い当てられてドキッとした。
――デューイ様は、私の身体を蝕むものについて何かご存じなのだわ……!
そう確信した私は、縋るような思いでデューイ様を見据え、口を開こうとしたところでルイ様に遮られた。
「ちょっと待った。今のはどういうこと?」
「うん? 聞こえてたの?」
「ああ。この話はここではできない」
ルイ様は真剣な表情でデューイ様と話をしていたかと思えば、私とロザリア様へ向き直った。
「私たちは先に王宮へ戻る。二人はイアンに送らせるが、あとでリリーだけ私を訪ねて来てほしい。話があるんだ。イアン、頼む」
「かしこまりました」
私たちへ指示を出し終わったルイ様は、あっという間にデューイ様とともに王宮へ向けて出発してしまった。
――ルイ様も、何が知っているようだった……。
まあ、それはあとから時間を作ってもらえるようだったし、話してもらえるのだろうと思った。
「アラスター様、お世話になります。ルイ様の護衛は大丈夫だったのですか? 今さらですが……」
「ええ。大丈夫です。お二人は自衛もできますが、私以外にも優秀な護衛が大勢ついていますから」
「あ、そうですよね……! そういえばアスター侯爵令嬢の婚約者の方もルイ様の護衛騎士なのでしたよね」
「それは……」
「それはイアンのことね」
アラスター様とロザリア様の言葉が被った。
「そうなのですか……!」
「そうよぉ。ルイに振られたモリー様を一生懸命慰めて口説いてたわぁ」
少し顔を赤くしたアラスター様は、それでも堂々と言った。
「私はルイ様を敬愛していますから。主と同じように、幼い時分より一途に同じ女性を想い続けているのです」
「そうね。昔から無口ながらじーっとモリー様を熱い視線で見つめていたわね」
「ええ。ルイ様をお慕いしていたというところも全て含めて私はモリー様を愛しているのです」
話していくうちに冷静を取り戻したのか、それとも開き直ったのか、平然とそう口にするアラスター様に私は驚いた。
「それはぜひ本人に言ってあげて。彼女、今ではイアンのこと大好きなんだから、きっと飛び跳ねて喜ぶわ」
「常日頃からお伝えしていますので大丈夫です」
いつも無表情で淡々としているアラスター様も、好きな人の前では激甘になるらしいと知った瞬間だった。
――「ルイ様をお慕いしていたというところも全て含めて私はモリー様を愛しているのです」か……。
ルイ様が他の女性を想っているとしても、私がルイ様を好きな気持ちは変わらない。それと同じだなと、私はアラスター様の言葉を聞いて穏やかな気持ちで思っていた。
この時までは――。
そしてなぜかロザーノ様とルイ様は口論を始めてしまい、困惑しているところに新たな人物が登場した。
「デューイ。きみはちょっと大人しくしておいてくれ。話がややこしくなる。僕は今――」
――あ。あの方は……!
ルイ様が話している途中で、新たな乱入者の顔を見たロザーノ様は私と同じく彼の正体に気づいたようだった。
「ちょっとお兄さん、ここで話すには観客が多すぎるみたいだから、場所を変えてゆっくり話しませんか?」
私はルイ様に視線を向けて全力で首肯した。
ルイ様は頭をぶんぶん降っている私を見て、正気に戻ったようだった。必死に首を縦に振る私の姿が滑稽だったのかもしれない。
一つため息をついて周りを見渡し、ロザーノ様の言葉に同意した様子だった。
「そうだな。では君たちもこちらへ」
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元々ルイ様とデューイ様、そしてアラスター様がいたらしい個室へと腰を落ち着けた私たちは、なぜここにいるのか、お互いの情報を擦り合わせていた。
「なんだ。きみ、ロザリアだったのか。はぁ。よかった。リリアーヌが私以外の男といるなんて変だと思ったんだ。でも、目にした瞬間焦ってしまって……」
ルイ様は自嘲するようにそう言ったけれど、私はそれを聞いてはっとした。
ルイ様は私と仲のいい婚約者アピールをしてくれていたし、何よりお互いの名に傷がつくことを危惧してくれたのだ。私は「変装しているのだからバレることはないだろう」と安易に考えていた自分を反省した。
「ルイ様、ごめんなさい。ご迷惑をかけるつもりは全くなかったのですが……」
「ああ、そういう意味じゃないんだ。お願いだから気に病まないでほしい」
反省してうなだれる私に、ルイ様はどこまでも優しい。
「そうよ、リリアーヌの変装は完璧だったわ。性別すら偽っていたのに。遠くから一瞬見ただけで気づくこの男がおかしいんだわ。長年幼馴染みやってた私には全く気づかなかったくせに……」
「グレンヴィル嬢、心の声が漏れております」
「あら、失礼」
私がうなだれている間にロザリア様とアラスター様が何やら親しげに話している。この二人も幼馴染みということになるのだろうか? 仲が良くて羨ましい。そんなことを思いながらロザリア様のほうを見ていると、ルイ様に声をかけられた。
「リリー。私が女性と会っていると聞いて、心配してここまで来てくれたの?」
「ええ。心配……。そう、大切な婚約者が異性と会っていると聞いたら、心配になってしまって……」
私は自分を納得させるようにそう言った。心配していたのは本当だ。ただ、それよりも大きかったのは、モヤモヤとか焦りとか、もう少し自分勝手な気持ちだったような気がするのだ。
けれど、それらはルイ様がこうして変装した私を一目で見つけてくれて、目を見て語りかけてくれただけで嬉しい気持ちに追いやられ、どこかへ行ってしまった。
「そうだよね。そのことについてはあとからゆっくり二人きりで説明させてほしいな」
「はい。よろしくお願いします」
そうだった。ここには私たち以外の人たちもいるから、無闇に話を広げるべきではない。
私たちのやりとりの横でアラスター様と話していたロザリア様は、私たちの会話に割り込むようにして身を乗り出し、ルイ様に向けて言い放った。
「まあ、はっきりと言えばそこにいらっしゃる方とルイの浮気を疑っていたということね」
それを聞いたルイ様は一瞬動きを止め、疲れた様子で独りごちる。
「酷い冤罪だ……! だって僕はこの一ヵ月間、ずっとこの男に振り回されていたのだから!」
ルイ様に指をさされたデューイ様はさっきからぶつぶつ何か言っていたり、首を傾げたりしながら私を見ている。
「うーん……。やっぱり……」
「デューイ、聞いていたか? きみ、知らないうちに僕の浮気相手になっていたらしいぞ」
「なんだって? 勘弁して。こんな粘着質なやつ、俺はごめんだから」
デューイ様は、隣国であるフィドヘル王国からやってきて我が国に滞在中なのだ。フルネームはデューイ・フィドヘル。フィドヘル王国の国王陛下だ。先日の婚約披露パーティーで、ルイ様が「どうしても会わせたい人がいる」と言って紹介されたのがこの方だった。だから会うのは今日で二回目だ。
――腰までの長いダークブラウンの髪に黄金の瞳。フィドヘルの民族衣装である華やかなロングワンピースのようなものを身に纏っているから……確かに後ろ姿を見れば女性に見えなくもないかも。
私はルイ様がつきっきりでお世話をしていたのが目の前にいる男性であると知って安堵した。もしその相手が女性だったらモヤモヤしていただろう。
私が見つめているのに気づいたデューイ様は、ニコッと笑い、心配するように私へ尋ねた。
「もう、身体に異変が出始めてるんじゃない? この間はまだ大丈夫だったのにね。こんな可愛い子にひどいことするやつがいるもんだよ……」
「え……」
私は、まだ誰にも話していないことを言い当てられてドキッとした。
――デューイ様は、私の身体を蝕むものについて何かご存じなのだわ……!
そう確信した私は、縋るような思いでデューイ様を見据え、口を開こうとしたところでルイ様に遮られた。
「ちょっと待った。今のはどういうこと?」
「うん? 聞こえてたの?」
「ああ。この話はここではできない」
ルイ様は真剣な表情でデューイ様と話をしていたかと思えば、私とロザリア様へ向き直った。
「私たちは先に王宮へ戻る。二人はイアンに送らせるが、あとでリリーだけ私を訪ねて来てほしい。話があるんだ。イアン、頼む」
「かしこまりました」
私たちへ指示を出し終わったルイ様は、あっという間にデューイ様とともに王宮へ向けて出発してしまった。
――ルイ様も、何が知っているようだった……。
まあ、それはあとから時間を作ってもらえるようだったし、話してもらえるのだろうと思った。
「アラスター様、お世話になります。ルイ様の護衛は大丈夫だったのですか? 今さらですが……」
「ええ。大丈夫です。お二人は自衛もできますが、私以外にも優秀な護衛が大勢ついていますから」
「あ、そうですよね……! そういえばアスター侯爵令嬢の婚約者の方もルイ様の護衛騎士なのでしたよね」
「それは……」
「それはイアンのことね」
アラスター様とロザリア様の言葉が被った。
「そうなのですか……!」
「そうよぉ。ルイに振られたモリー様を一生懸命慰めて口説いてたわぁ」
少し顔を赤くしたアラスター様は、それでも堂々と言った。
「私はルイ様を敬愛していますから。主と同じように、幼い時分より一途に同じ女性を想い続けているのです」
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「ええ。ルイ様をお慕いしていたというところも全て含めて私はモリー様を愛しているのです」
話していくうちに冷静を取り戻したのか、それとも開き直ったのか、平然とそう口にするアラスター様に私は驚いた。
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「常日頃からお伝えしていますので大丈夫です」
いつも無表情で淡々としているアラスター様も、好きな人の前では激甘になるらしいと知った瞬間だった。
――「ルイ様をお慕いしていたというところも全て含めて私はモリー様を愛しているのです」か……。
ルイ様が他の女性を想っているとしても、私がルイ様を好きな気持ちは変わらない。それと同じだなと、私はアラスター様の言葉を聞いて穏やかな気持ちで思っていた。
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