死を願われた薄幸ハリボテ令嬢は逆行して溺愛される

葵 遥菜

文字の大きさ
上 下
33 / 46
第四章 逆行の真相

結果

しおりを挟む
――よし。今日の私もばっちりだ。

 そう暗示をかけて出かける準備を終えた。

 今日は先日受けた試験の結果が掲示される日である。順位は学年別に総合と教科別に分けて発表されるが、いずれも上から十位までしか記されない。したがってそこに名前が載ることは学生にとって大きなステータスとなるのだ。それと同時に奨学生の表彰もその場で行われるので、試験結果の掲示は学生生活の中でも重要なイベントとなっている。
 
 提出した各教科の解答用紙は既に各自返却されているので、皆自分の点数はもちろん把握している。
 私の点数はとてもよかった。どの教科もほぼ満点だった。ルイ様の最後の指導で、的を絞って学んだところがピタリと嵌り、気持ちよく解答することができたことが最大の要因だと思う。

――あとは、奨学生に選ばれれば完璧だわ。ルイ様にたくさん協力してもらったから、絶対選ばれて、ルイ様に誇らしく思ってもらいたい……!
 
 考えてしまうのは、ルイ様はいつも何をしても完璧で、どこまで私をときめかせるのだろうかということ。私は毎日のようにきゅっと絞られるように甘く痺れる胸の上に手を置く。痛い。こんなふうに相手を想うだけで痛みを伴う恋をしたのは初めてだ。

――でも、全然嫌じゃない。
 
 ルイ様のことを考えると胸が苦しくなる感覚も、ルイ様が私に教えてくれたものだと思えば途端に愛おしくなる。このまま私はこの先も毎日ルイ様に恋をして過ごすのだろう。

 ドレッサーの鏡に映った私を鏡越しに眺める。そこには、ルイ様のあの美しい瞳に「私らしい私が映るように」と試行錯誤しながら仕上げた自分がいる。

――ルイ様は決して外見に左右されるような方ではないけれど……。

 だから、難しかった。
 今までは「きみは淡い色の服が似合う「かわいらしい雰囲気が似合う」「髪は下ろしているほうが似合う」……。そう言って自分の好みを伝えてくれるクラウスの言う通り、私を着飾ってきた。今はもう彼の好みに合わせる必要はないから、自分が好きな私になろうと決めた。けれど、物心ついたときには既にクラウスの好みに合わせていたので、どういう私が「私らしい」のかがわからなくなってしまったのだ。
 だから、今までは化粧や髪のアレンジなど、身支度は全て侍女のシエンナにお任せしていた。それでいいと思っていた。けれど、ルイ様への気持ちを自覚した今は違う。

――私が、私自身で創り上げたリリアーヌを、ルイ様に好きになってもらいたい。

 そう思って、試行錯誤した結果が今の私。

 毎朝いつもより少しだけ早起きして、自分で化粧やヘアアレンジをするようになった。まずは私が好きになれる私を探して。いつも私の身支度を手伝ってくれる侍女のシエンナは頑なに「私がやります」と言ってくれたけれど、「私がそうしたいから」と説得して渋々役目を譲ってもらった。もちろんお給料を減らしたりはしないから心配は無用なのだけれど。
 数日すると、だんだんそれが楽しくなってきた。義務のように感じていた身支度が、趣味を楽しむようにわくわくする時間に変わった。こうして自分の手入れを自分でして、ルイ様に会いに行けるのが嬉しかった。会うたびに髪型や化粧が変わる私に、いつもルイ様は気づいてくれた。いつも褒めてくれるから、一週間たってもルイ様の好みは傾向すら掴めず仕舞いだったけれど。

 
 その日はこの一週間を振り返っても一番好きだと言える仕上がりだった。元々クラウスのために美容の勉強は人一倍していたのだから、知識だけは豊富にある。その中からいろいろチョイスして試してみたけれど、この私が一番私好みだ。自分で好きになれる自分を探すなんて笑ってしまうけれど、ルイ様はそう話したら柔らかく笑って肯定してくれた。

「大事なことだね。応援してるよ。私にはどんなリリアーヌも魅力的に見えるだろうけどね」

 ルイ様にもらった大切な言葉を思い出しながら、いつも以上に気合を入れて迎えたその日。中庭で行われた試験結果掲示の場で、私は総合一位として発表されるとともに、奨学生としても表彰された。その場にいた多くの学生が私の功績を拍手でたたえてくれて、涙が溢れそうになった。
 
 少し離れた木陰で存在を隠すようにして佇むルイ様を、私は多くの人の中からすぐに探し出していた。

「おめでとう」
 
 遠目からでも、ルイ様が微笑んでそう口を動かしているのが見えた。お陰様で私の目に溜まっていた涙のダムは決壊した。けれど、表情は喜びでいっぱいだったと思う。呟いた「ありがとうございます」も、ルイ様にちゃんと届いていればいいなと思う。

 ルイ様とのデートはその翌日の予定だった。

――部屋に戻ったらすぐに目を冷やさないと。

 目が腫れて戻らなくなってしまうから、「涙よこれ以上出てくれるな」と願いながらその日を終えることになった。

 この日の私は、全てが順調で浮かれに浮かれていた。それこそ自分が物語の主人公にでもなったみたいに気分が高揚していた。
 
 このあと現実を突きつけられることを、このときの私はまだ知らなかったのだ――。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

踏み台令嬢はへこたれない

三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

我慢するだけの日々はもう終わりにします

風見ゆうみ
恋愛
「レンウィル公爵も素敵だけれど、あなたの婚約者も素敵ね」伯爵の爵位を持つ父の後妻の連れ子であるロザンヌは、私、アリカ・ルージーの婚約者シーロンをうっとりとした目で見つめて言った――。 学園でのパーティーに出席した際、シーロンからパーティー会場の入口で「今日はロザンヌと出席するから、君は1人で中に入ってほしい」と言われた挙げ句、ロザンヌからは「あなたにはお似合いの相手を用意しておいた」と言われ、複数人の男子生徒にどこかへ連れ去られそうになってしまう。 そんな私を助けてくれたのは、ロザンヌが想いを寄せている相手、若き公爵ギルバート・レンウィルだった。 ※本編完結しましたが、番外編を更新中です。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※独特の世界観です。 ※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

大嫌いな令嬢

緑谷めい
恋愛
 ボージェ侯爵家令嬢アンヌはアシャール侯爵家令嬢オレリアが大嫌いである。ほとんど「憎んでいる」と言っていい程に。  同家格の侯爵家に、たまたま同じ年、同じ性別で産まれたアンヌとオレリア。アンヌには5歳年上の兄がいてオレリアには1つ下の弟がいる、という点は少し違うが、ともに実家を継ぐ男兄弟がいて、自らは将来他家に嫁ぐ立場である、という事は同じだ。その為、幼い頃から何かにつけて、二人の令嬢は周囲から比較をされ続けて来た。  アンヌはうんざりしていた。  アンヌは可愛らしい容姿している。だが、オレリアは幼い頃から「可愛い」では表現しきれぬ、特別な美しさに恵まれた令嬢だった。そして、成長するにつれ、ますますその美貌に磨きがかかっている。  そんな二人は今年13歳になり、ともに王立貴族学園に入学した。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した

基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。 その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。 王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。

姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。

ふまさ
恋愛
「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」  ある日の休日。家族に疎まれ、蔑まれながら育ったマイラに、第一王子であり、姉の婚約者であるはずのヘイデンがそう告げた。その隣で、姉のパメラが偉そうにふんぞりかえる。 「ぞんぶんに感謝してよ、マイラ。あたしがヘイデン殿下に口添えしたんだから!」  一方的に条件を押し付けられ、望まぬまま、第一王子の婚約者となったマイラは、それでもつかの間の安らぎを手に入れ、歓喜する。  だって。  ──これ以上の幸せがあるなんて、知らなかったから。

処理中です...