死を願われた薄幸ハリボテ令嬢は逆行して溺愛される

葵 遥菜

文字の大きさ
上 下
26 / 46
第三章 偽装婚約?

婚約パーティー②

しおりを挟む
――ん? なんか、私注目浴びてる?
 
 会場の人たちの表情を確認していくと、みんな私の姿を視界に収めたあと、その目が驚きに見開かれる。
 ルイ様の麗しさに驚いているのかと思ったが、どうやら多くの人が驚いているのは私の姿を捉えたあとなので、やはり私が原因のようだ。

――まあそうよね。まだ王太子妃になったわけでもないのにこんなマントを羽織っているのだもの。私でもびっくりするわ。
 
 そんなことを思っていた私だったけれど……。
 会場の奥まで歩みを進め、国王陛下と王妃陛下が待機している場所にたどり着いて王妃陛下のお姿を拝見したとき、私の目も多くの人と同様に見開かれた。
 
 ちなみに、本来ならば両陛下は最後に入場するのだけれど「最後に入場するのは主役じゃなくちゃ!」という王妃陛下の鶴の一声で、今日に限ってはその順番が逆転していた。
 
 そういった事情で一足先に会場入りしていた王妃陛下は、今日のために張り切って準備したと嬉しそうに語っていたドレス姿をみんなに存分に披露していたに違いなくて……。

――同じだわ……!

 みんなが驚いているのも無理はない。
 多分この会場にいる誰よりも驚愕に心の目を限界まで見開いたのは私だと断言できる。社交用の鉄壁の仮面ひょうじょうを装着しているので、表情には出なかったと思うけれど。
 
 私が一欠片ひとかけらも想像していなかった光景がそこにはあった。
 
――私のドレスと全く同じデザイン……。しかも色は……。

 おそらくルイ様が着ているものと同じサファイアブルーの生地を使ったドレスだった。
 
 私と王妃陛下は色違いのお揃いドレスを身に纏っていたのだ。

――嬉しいけど、でも、なんで……?

 謎すぎて思考の海に溺れそうになっていると、ルイ様の手に現実へと引っ張り上げられた。

「リリー、ほら。いくよ」

 どうやら考え込んでいる間に両陛下への挨拶は終わったらしい。まさかの出来事にいきなり失敗してしまった。無意識にも身体は動いていたように思うけれど、私の対応は大丈夫だっただろうか?     「私、ヘマしていませんよね?」という確認の気持ちを込めて隣のルイ様の瞳をじっと見つめると、ルイ様はそんな私の視線に気づき、愛おしくて仕方がないというような微笑みで応じてくれた。
 
――ルイ様は基本私に甘いけれど、本当にだめなときは叱ってくれると思うから、大丈夫なはず。たぶん……。それにしても。

 ルイ様の婚約者の演技が堂にりすぎていて私の心臓は先ほどから非常に忙しくしている。
このままでは道半ばで息切れしてしまうのではないかと心配になるほどの働きようだ。
 でも、こればかりは私が制御することは不可能だからどうか力の限り頑張ってほしい――と自分の心臓ながら切に願う。

 私はまだ状況を把握しきれていなくて内心冷や汗をかいていたが、ルイ様の隣に立つためには今日、ここで役に立てることをアピールする必要があることは冷静に理解できていた。

――これはそもそも私の悪評を覆すために結ばれたいわば偽の婚約。この場を設けるのにかかった多大なる労力と費用に対して最大限のリターンを生み出さなければ役に立つことをアピールできないわ。

 きっと王妃陛下と私のドレスがお揃いのデザインになっているのも、私の立場を守ろうとして考え出された策なのだろうと私は考えた。
 いくら国のためと言っても、婚約破棄したばかりの令嬢を王太子の婚約者として据えるなど前代未聞だ。私が周りから大きな反感を買うことを懸念して、王室が心から私を歓迎して大切にしていることを明確に示す必要があったのだろう。
 ルイ様がこうして私を誰よりも大切で愛おしい存在のように扱ってくれるのもその一環。
 ただ、王室としてのメリットは……大いにあると言われたけれど、本当にあるのだろうかと疑問が残る。
 
 確実にわかっているのは、このような対応は本当に私のことを思ってくれていないとできることではないということ。
 
 現に、元婚約者クラウスは私がいくら『悪女』と呼ばれて蔑まれようと、私を守ろうとはしてくれなかった。むしろそれをも利用して自分の望む展開へ導こうとしていたように思う。だから彼の「リリアーヌわたしを愛している」という言葉を信じられなかったのだ。
 
 けれど、ルイ様や、王室に関わる人たちは違う。こんなにも心血を注いで私を守ろうとしてくれている。たとえ国を導いていくために必要なことで、それがたまたま私に関わることだっただけなのだとしても、彼らが私に向けてくれる好意や思いやりには血が通っていると感じられるのだ。
 
「申し訳ない」と恐縮する私に、彼らは笑顔を浮かべて言うのだ。「気にしなくていい。何も考えずに好意だけ受け取ってくれればいい」と。
 だから私は、必ず彼らの想いに報いようと心に決めている。

――優しさは優しさで。思いやりは思いやりで。もらったものをもらいっぱなしになんてしてあげないんだから。

 たとえもらったものが大きすぎて同水準のものをお返しできなかったとしても、その思いを相手に伝える努力はするべきだと思うのだ。

 とにかく、クラウスのためにと必死に生きてきた中で得た社交界のノウハウをここで活かすことができそうだ。

――ルイ様。私、ルイ様のために頑張ります。

 私が決意の気持ちを込めた瞳をルイ様に向けると、見つめられた彼は眩しそうに目を細めて私の額にキスをした。
 
 これも私を大切にしているアピールの一環なのだろうか……と若干寂しく思いつつも、照れながら素直に喜ぶ単純な私がそこにはいて――。
 
 はたから見たらお互いを愛おしく想い合っている恋人同士にしか見えない二人の背中を、国王陛下と王妃陛下が優しい笑みで見送っていた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

踏み台令嬢はへこたれない

三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

我慢するだけの日々はもう終わりにします

風見ゆうみ
恋愛
「レンウィル公爵も素敵だけれど、あなたの婚約者も素敵ね」伯爵の爵位を持つ父の後妻の連れ子であるロザンヌは、私、アリカ・ルージーの婚約者シーロンをうっとりとした目で見つめて言った――。 学園でのパーティーに出席した際、シーロンからパーティー会場の入口で「今日はロザンヌと出席するから、君は1人で中に入ってほしい」と言われた挙げ句、ロザンヌからは「あなたにはお似合いの相手を用意しておいた」と言われ、複数人の男子生徒にどこかへ連れ去られそうになってしまう。 そんな私を助けてくれたのは、ロザンヌが想いを寄せている相手、若き公爵ギルバート・レンウィルだった。 ※本編完結しましたが、番外編を更新中です。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※独特の世界観です。 ※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

大嫌いな令嬢

緑谷めい
恋愛
 ボージェ侯爵家令嬢アンヌはアシャール侯爵家令嬢オレリアが大嫌いである。ほとんど「憎んでいる」と言っていい程に。  同家格の侯爵家に、たまたま同じ年、同じ性別で産まれたアンヌとオレリア。アンヌには5歳年上の兄がいてオレリアには1つ下の弟がいる、という点は少し違うが、ともに実家を継ぐ男兄弟がいて、自らは将来他家に嫁ぐ立場である、という事は同じだ。その為、幼い頃から何かにつけて、二人の令嬢は周囲から比較をされ続けて来た。  アンヌはうんざりしていた。  アンヌは可愛らしい容姿している。だが、オレリアは幼い頃から「可愛い」では表現しきれぬ、特別な美しさに恵まれた令嬢だった。そして、成長するにつれ、ますますその美貌に磨きがかかっている。  そんな二人は今年13歳になり、ともに王立貴族学園に入学した。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した

基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。 その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。 王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。

姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。

ふまさ
恋愛
「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」  ある日の休日。家族に疎まれ、蔑まれながら育ったマイラに、第一王子であり、姉の婚約者であるはずのヘイデンがそう告げた。その隣で、姉のパメラが偉そうにふんぞりかえる。 「ぞんぶんに感謝してよ、マイラ。あたしがヘイデン殿下に口添えしたんだから!」  一方的に条件を押し付けられ、望まぬまま、第一王子の婚約者となったマイラは、それでもつかの間の安らぎを手に入れ、歓喜する。  だって。  ──これ以上の幸せがあるなんて、知らなかったから。

処理中です...