9 / 46
第二章 婚約破棄
頼もしい協力者①
しおりを挟む
その日も私はいつもの通り、勉強するために図書館へ向かっていた、
政治学、経済学、医学、薬学、魔法学……。私が学びたい分野は多岐に及んでいて、勉強するスケジュールを組むのも一苦労である。
特に、私の命を奪う病について調べるために学ぶ必要がある医学と薬学が難しい。以前は専攻していなかったため、学ぶのは今回が初めてということもあるが、わからないことだらけだ。教科書の内容を理解するのにまた別の資料が必要になり、効率を考えたら図書館の住人になるのが一番だった。
そういう実益も兼ねて図書館を利用していたのだが、近頃私にはもう一つ、ここに通う目的が増えた。
「リリー。今日もお疲れさま」
今日もルイ様がいた。彼の姿を見つけると、すぐ笑顔になってしまう自分に気づく。
最初はただ勉強するためだけに通っていた図書室だったのに、彼に会えるかもしれないことが、ここに通う楽しみの一つになってしまったのだ。
昨日も、その前も……最近は毎日ルイ様がいつも私が使っているスペースで待っている。初めて出会った翌日にまた図書館で一緒になり、その後毎日会って話すようになったのだ。
クラウスの浮気現場をまた目撃した時のために……とルイ様は気を遣ってくれているのだと思う。
この場所は人目につきづらい場所だから、クラウスが普段から女性との逢瀬に使っているのだろうと私は予想した。目撃した日が初めてとは到底思えない。
だから、ここで息を潜めて勉強しつつ、また現場を押さえて証拠を集めるつもりだということを彼に話したから。本当に優しいお方だ。
本来なら犯人を待ち伏せしているだけでなく、もっと能動的に動いて証拠を迅速に集め、さっさと婚約破棄したいところだ。けれど、不器用な私にはそのために割く時間が今のところうまく作れず……。受け身の調査というのも案外焦れて疲れるものだとげんなりしているところである。
そんな話をとりとめもなくルイ様にしていると、ルイ様は困ったような表情で私を見つめていた。
「リリー。私をなんだと思っているの」
「もちろん大切で大好きな友人です!」
「うん。そうだね。大切で大好きな友人が言った言葉は忘れちゃったのかな? 大切で大好きなのに? 寂しいなぁー……」
「……もう。ルイ様はそうやっていつも私を甘やかすんですから」
「私にとってもリリーは大切で大好きな友人だからね。素直に甘えてくれないかなと常日頃思ってる」
今日も瞳の中に様々な色の星を閉じ込めたように輝くアレキサンドライトの視線が、私の瞳を真剣に射抜く。
そして私はまた誘惑に負けてしまうのだ。
親にもこんなに甘やかしてもらった記憶はない。弟が生まれてから、姉らしく振る舞うためにいつもそれなりに我慢をしていたから。
でも不思議なことに、私は彼の前では何の抵抗もなく素直に甘えることができた。
「ルイ様。助けてくださいますか?」
「もちろんだよ。いつでも頼ってほしいって言っただろう? リリーのための時間ならいくらでも作れるから」
そう言ってルイ様はその優秀な頭脳を使って私に勉強を教えてくれること、クラウスの浮気を証明するための証拠集めを手助けするため、ルイ様の私的な従者を紹介してくれることを約束してくれた。
✳︎✳︎✳︎
ルイ様はまごうことなき天才である。
私はその日の授業でわからなかったことはその場で教師に質問して解決するようにしているけれど、一人で復習と予習をしていると、どうしてもつまずく箇所がいくつも出てくる。
それをひとりで解決しようと思うと何倍もの時間がかかってしまうところが、ルイ様が隣にいてくれればものの数分で解決する。質問して正確な答えが返ってこなかったことは一度もない。
調べて考えて、答えを探す工程も本来であれば大切なのかもしれないが、命に、かけられる時間に限りがあると知っている私にとってはそれも些細なこと。「結果が全て」の私には救世主のような存在だ。
政治学、経済学、医学、薬学、魔法学……。私が学びたい分野は多岐に及んでいて、勉強するスケジュールを組むのも一苦労である。
特に、私の命を奪う病について調べるために学ぶ必要がある医学と薬学が難しい。以前は専攻していなかったため、学ぶのは今回が初めてということもあるが、わからないことだらけだ。教科書の内容を理解するのにまた別の資料が必要になり、効率を考えたら図書館の住人になるのが一番だった。
そういう実益も兼ねて図書館を利用していたのだが、近頃私にはもう一つ、ここに通う目的が増えた。
「リリー。今日もお疲れさま」
今日もルイ様がいた。彼の姿を見つけると、すぐ笑顔になってしまう自分に気づく。
最初はただ勉強するためだけに通っていた図書室だったのに、彼に会えるかもしれないことが、ここに通う楽しみの一つになってしまったのだ。
昨日も、その前も……最近は毎日ルイ様がいつも私が使っているスペースで待っている。初めて出会った翌日にまた図書館で一緒になり、その後毎日会って話すようになったのだ。
クラウスの浮気現場をまた目撃した時のために……とルイ様は気を遣ってくれているのだと思う。
この場所は人目につきづらい場所だから、クラウスが普段から女性との逢瀬に使っているのだろうと私は予想した。目撃した日が初めてとは到底思えない。
だから、ここで息を潜めて勉強しつつ、また現場を押さえて証拠を集めるつもりだということを彼に話したから。本当に優しいお方だ。
本来なら犯人を待ち伏せしているだけでなく、もっと能動的に動いて証拠を迅速に集め、さっさと婚約破棄したいところだ。けれど、不器用な私にはそのために割く時間が今のところうまく作れず……。受け身の調査というのも案外焦れて疲れるものだとげんなりしているところである。
そんな話をとりとめもなくルイ様にしていると、ルイ様は困ったような表情で私を見つめていた。
「リリー。私をなんだと思っているの」
「もちろん大切で大好きな友人です!」
「うん。そうだね。大切で大好きな友人が言った言葉は忘れちゃったのかな? 大切で大好きなのに? 寂しいなぁー……」
「……もう。ルイ様はそうやっていつも私を甘やかすんですから」
「私にとってもリリーは大切で大好きな友人だからね。素直に甘えてくれないかなと常日頃思ってる」
今日も瞳の中に様々な色の星を閉じ込めたように輝くアレキサンドライトの視線が、私の瞳を真剣に射抜く。
そして私はまた誘惑に負けてしまうのだ。
親にもこんなに甘やかしてもらった記憶はない。弟が生まれてから、姉らしく振る舞うためにいつもそれなりに我慢をしていたから。
でも不思議なことに、私は彼の前では何の抵抗もなく素直に甘えることができた。
「ルイ様。助けてくださいますか?」
「もちろんだよ。いつでも頼ってほしいって言っただろう? リリーのための時間ならいくらでも作れるから」
そう言ってルイ様はその優秀な頭脳を使って私に勉強を教えてくれること、クラウスの浮気を証明するための証拠集めを手助けするため、ルイ様の私的な従者を紹介してくれることを約束してくれた。
✳︎✳︎✳︎
ルイ様はまごうことなき天才である。
私はその日の授業でわからなかったことはその場で教師に質問して解決するようにしているけれど、一人で復習と予習をしていると、どうしてもつまずく箇所がいくつも出てくる。
それをひとりで解決しようと思うと何倍もの時間がかかってしまうところが、ルイ様が隣にいてくれればものの数分で解決する。質問して正確な答えが返ってこなかったことは一度もない。
調べて考えて、答えを探す工程も本来であれば大切なのかもしれないが、命に、かけられる時間に限りがあると知っている私にとってはそれも些細なこと。「結果が全て」の私には救世主のような存在だ。
102
お気に入りに追加
2,025
あなたにおすすめの小説
変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!
utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑)
妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?!
※適宜内容を修正する場合があります
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
大嫌いな令嬢
緑谷めい
恋愛
ボージェ侯爵家令嬢アンヌはアシャール侯爵家令嬢オレリアが大嫌いである。ほとんど「憎んでいる」と言っていい程に。
同家格の侯爵家に、たまたま同じ年、同じ性別で産まれたアンヌとオレリア。アンヌには5歳年上の兄がいてオレリアには1つ下の弟がいる、という点は少し違うが、ともに実家を継ぐ男兄弟がいて、自らは将来他家に嫁ぐ立場である、という事は同じだ。その為、幼い頃から何かにつけて、二人の令嬢は周囲から比較をされ続けて来た。
アンヌはうんざりしていた。
アンヌは可愛らしい容姿している。だが、オレリアは幼い頃から「可愛い」では表現しきれぬ、特別な美しさに恵まれた令嬢だった。そして、成長するにつれ、ますますその美貌に磨きがかかっている。
そんな二人は今年13歳になり、ともに王立貴族学園に入学した。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。
ふまさ
恋愛
「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」
ある日の休日。家族に疎まれ、蔑まれながら育ったマイラに、第一王子であり、姉の婚約者であるはずのヘイデンがそう告げた。その隣で、姉のパメラが偉そうにふんぞりかえる。
「ぞんぶんに感謝してよ、マイラ。あたしがヘイデン殿下に口添えしたんだから!」
一方的に条件を押し付けられ、望まぬまま、第一王子の婚約者となったマイラは、それでもつかの間の安らぎを手に入れ、歓喜する。
だって。
──これ以上の幸せがあるなんて、知らなかったから。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
辺境伯令息の婚約者に任命されました
風見ゆうみ
恋愛
家が貧乏だからという理由で、男爵令嬢である私、クレア・レッドバーンズは婚約者であるムートー子爵の家に、子供の頃から居候させてもらっていた。私の婚約者であるガレッド様は、ある晩、一人の女性を連れ帰り、私との婚約を破棄し、自分は彼女と結婚するなどとふざけた事を言い出した。遊び呆けている彼の仕事を全てかわりにやっていたのは私なのにだ。
婚約破棄され、家を追い出されてしまった私の前に現れたのは、ジュード辺境伯家の次男のイーサンだった。
ガレッド様が連れ帰ってきた女性は彼の元婚約者だという事がわかり、私を気の毒に思ってくれた彼は、私を彼の家に招き入れてくれることになって……。
※筆者が考えた異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。クズがいますので、ご注意下さい。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】愛してるなんて言うから
空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」
婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。
婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。
――なんだそれ。ふざけてんのか。
わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。
第1部が恋物語。
第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ!
※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。
苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと
淡麗 マナ
恋愛
2022/04/07 小説ホットランキング女性向け1位に入ることができました。皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。
第3回 一二三書房WEB小説大賞の最終選考作品です。(5,668作品のなかで45作品)
※コメント欄でネタバレしています。私のミスです。ネタバレしたくない方は読み終わったあとにコメントをご覧ください。
原因不明の病により、余命3ヶ月と診断された公爵令嬢のフェイト・アシュフォード。
よりによって今日は、王太子殿下とフェイトの婚約が発表されるパーティの日。
王太子殿下のことを考えれば、わたくしは身を引いたほうが良い。
どうやって婚約をお断りしようかと考えていると、王太子殿下の横には容姿端麗の女性が。逆に婚約破棄されて傷心するフェイト。
家に帰り、一冊の本をとりだす。それはフェイトが敬愛する、悪役令嬢とよばれた公爵令嬢ヴァイオレットが活躍する物語。そのなかに、【死ぬまでにしたい10のこと】を決める描写があり、フェイトはそれを真似してリストを作り、生きる指針とする。
1.余命のことは絶対にだれにも知られないこと。
2.悪役令嬢ヴァイオレットになりきる。あえて人から嫌われることで、自分が死んだ時の悲しみを減らす。(これは実行できなくて、後で変更することになる)
3.必ず病気の原因を突き止め、治療法を見つけだし、他の人が病気にならないようにする。
4.ノブレス・オブリージュ 公爵令嬢としての責務をいつもどおり果たす。
5.お父様と弟の問題を解決する。
それと、目に入れても痛くない、白蛇のイタムの新しい飼い主を探さねばなりませんし、恋……というものもしてみたいし、矛盾していますけれど、友達も欲しい。etc.
リストに従い、持ち前の執務能力、するどい観察眼を持って、人々の問題や悩みを解決していくフェイト。
ただし、悪役令嬢の振りをして、人から嫌われることは上手くいかない。逆に好かれてしまう! では、リストを変更しよう。わたくしの身代わりを立て、遠くに嫁いでもらうのはどうでしょう?
たとえ失敗しても10のリストを修正し、最善を尽くすフェイト。
これはフェイトが、余命3ヶ月で10のしたいことを実行する物語。皆を自らの死によって悲しませない為に足掻き、運命に立ち向かう、逆転劇。
【注意点】
恋愛要素は弱め。
設定はかなりゆるめに作っています。
1人か、2人、苛立つキャラクターが出てくると思いますが、爽快なざまぁはありません。
2章以降だいぶ殺伐として、不穏な感じになりますので、合わないと思ったら辞めることをお勧めします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる