美形王子様が私を離してくれません!?虐げられた伯爵令嬢が前世の知識を使ってみんなを幸せにしようとしたら、溺愛の沼に嵌りました

葵 遥菜

文字の大きさ
上 下
4 / 21
第二章 美容部員と天才化学者

始動

しおりを挟む
 とりあえず人体に有害な白粉おしろいの改良をしなくてはならない。あと、同時進行で化粧下地とファンデーションもほしい。切実に――。それからハイライトのようなキラキラな粉も。
 でもそういったものを作ろうにも何をどうすればいいのか全くわからない。できたら世の中に広めていきたいという夢がどこまでも膨らむけれど、そもそも「開発」をするにはどうしたらいいものか――。

 そんなことを考えながらも、私の手は機械のように正確に動いていた。

 実は昨日までは通っていた学園の夏休みで、その期間が終わったので私はいつも通り学園に通ってきている。
 どういう経路なのかはわからないが、ソフィアお姉様が王太子殿下の婚約者に選ばれたというニュースが学園中で話の種になったあと、それが私のおかげという噂が駆け巡ったのだ。
 私とお姉様と侍女ズしか知らない情報が、なぜこんなにも早く正確に知られて学園中に拡散されるのか――。まさか、使用人の中にスパイでも紛れていたのか……? 私は仕組みがわからないながらも静かに戦慄を覚えていた。実際はお姉様が私のことを自慢しまくっていたのが原因だったのだけれど、その時はそんな事実知りようがなかったのである。

 そのおかげで? 私の特技が明るみに出ることになり、その技術を伝授してほしいと連日多くの令嬢に囲まれたり、教室や学園からの出待ちをされるようになってしまった。
 そのため、お姉様の侍女さんにメイク練習用の首から上だけのスキンヘッドのマネキン、通称「ドールちゃん」を借りてその技術を教えるのに使っている。
 今日も今日とてたくさんの令嬢に囲まれ、機械的に手を動かしながら説明して、ドールちゃんにメイクを施していた。そして冒頭の悩みに戻るのである。

「それ、私がお役に立てるかもしれません……」

 そう言って控えめにちょこんと手を上げてくれたのは、確か超有名な名門公爵家のご令嬢ではなかったか? 確か名前は――

「イザベラ様? なんのことでしょう?」
「今、おっしゃっていたお悩みの件ですわ」
「悩み……? 私、もしかして口に出していました?」
「はい。ばっちりと」
「Oh……」
「あ、大丈夫ですよ。私以外の人たちはみなさん帰ったあとで、聞いていたのは私だけだったと思います」
「あ、いえ、別に聞かれても問題ないのですが……。むしろつまらない悩みを聞かせてしまってすみません……」
「いいえ! 私の友人に、投資するのが趣味みたいな人がいるんですよ。その人の話に比べれば全然! まあ、その人は投資のおかげで個人的な資産も潤沢にあるみたいだし、知識も豊富だからアイリーン様のお悩み、きっと解決してくれると思うんですよね」
「え……でも、私は投資とかそういう、商売に関しては全くの無知ですから、迷惑をおかけする気が……」
「うーん、でも、私はアイリーン様の美容の技術や知識、今のままだともったいないと思うんですよね。私の友人に任せればもっと可能性が広がると思うんです。だから、話だけでもしてみませんか? もちろん、無理にとは申しませんが……」

 今の私は当たり前だがコネクションなど一切持ち合わせていない。そんな状況で有名な名門公爵家のご令嬢の紹介が受けられるなど願ってもないことだ。だから私の答えはYES一択なのだけれど……そのご友人を紹介してもらって、その先どうなってしまうか全く想像ができないので正直不安だ。
 でも、何か新しいことを始めるときというのは常に不安がつきまとうものだ。いずれにせよ自分一人で考えていてもどうすればいいのかわからなかったのだし、これ以上ここに留まって考え続けていたって答えが出るとは思えない。
 高貴な方が紹介してくださる人ならきっと信頼できる立派な人物だろう。ボランティア感覚で協力してくれるかもしれない。きっとうまくいくと信じて、一歩踏み出すしかないのだ。

「それでしたらぜひ、紹介してしてください。どうぞよろしくお願いいたします……!」

 そうして急転直下、イザベラ様のご友人と会うこととなったのである。

✳︎✳︎✳︎

「アイリーン様、こちらがエリーです」

 数日後、イザベラ様から先方のアポイントメントが取れたという連絡を受け、私は約束の場所へと出向いた。
 
「はじめまして、エリー様。アイリーン・グレンと申します」

 ここは私が足を踏み入れたこともない一流ドレスショップのVIPルーム。ドレスショップにこういう部屋があるとは聞いたことがあったが、実際目にすることも入ることも一生ないと思っていた場所だ。部屋の中央に置かれたアンティーク調のテーブルとソファー、高級ブランドの茶器、ふかふかの絨毯、上品な照明器具、すべての調度品が「私を見て!」と言わんばかりに高級オーラを醸し出している。
 
「ええ。よろしく。早速だけど、私に化粧をしてくれる?」
「え……ええ?」

 私がVIPルームの高級オーラに呑まれて怯んでいたら、イザベラ様からエリー様と紹介された方が私にそう声をかけた。エリー様の隣に座るイザベラ様もぎょっとした顔を彼女に向けている。
 予想外の声かけに驚いて、私は改めてエリー様を正面から凝視する。

――白い肌、キリッとした眉、大きくて切長の目、高い鼻、薄い唇……。パーツの配置も黄金比そのもの。計算されたような位置にある泣き黒子も最高。ものすごい美形だわ。ナイスクールビューティー!

 エリー様は質素な平民風のワンピースに身を包んでいたが、顔面の高貴さを全く隠しきれていなかった。この世界で私が見た女性の中でも間違いなくトップクラス、そして一番私好みの美人さんだ。イザベラ様のご友人というし、貴族令嬢に違いない。とてもいい素材に出会ってしまった。腕が鳴る。

「はぁぁ。イザベラ様も可憐で素敵ですが、エリー様は色気溢れるかっこいい美人さんですね」
「そう? ありがとう。あなたの噂は聞いているわ。私も今より美しくなれる?」
「もちろんです! 私にお任せください!」

 エリー様は今のままでも魅力的だが、化粧は全ての女性の魅力を引き出せる魔法だもの。その真髄は「理想の自分に近づける」こと。だから――。

「周りの方々からどのような印象を持たれたいですか? そのイメージに近づけるお手伝いができるといいのですが……」
「そうね。私は大人っぽく見られることが多いから、イザベラみたいにかわいらしい印象の顔になってみたいのだけど……そんなことできるの?」
「かしこまりました。任せてください」

 私は念のため持ってきていたメイク道具を取り出して丁寧に机へ並べた。これはソフィアお姉様が私のために贈ってくれたものだ。私が友人たちに化粧を教えてほしいと頼まれ、侍女さんに頼んでドールちゃんを借りたとき、それを聞きつけたお姉様が私が不便をしないようにと贈ってくれたのだ。「私のかわいい妹へ。遅くなりました。気の利かない姉を許してね」と手紙が添えられていた。号泣した。
 
 思い出してまた泣きそうになりながらも、準備する手は止まらない。美容部員として働いていたのは前世の話で、しかもここだけ記憶が曖昧なのだがあまり長い期間ではなかったように思う。それでも毎日行っていたことだからか、頭に順序が浮かんでくるのでその通りに体を動かす。
 
「では、マッサージから始めますね。失礼いたします」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

告白さえできずに失恋したので、酒場でやけ酒しています。目が覚めたら、なぜか夜会の前夜に戻っていました。

石河 翠
恋愛
ほんのり想いを寄せていたイケメン文官に、告白する間もなく失恋した主人公。その夜、彼女は親友の魔導士にくだを巻きながら、酒場でやけ酒をしていた。見事に酔いつぶれる彼女。 いつもならば二日酔いとともに目が覚めるはずが、不思議なほど爽やかな気持ちで起き上がる。なんと彼女は、失恋する前の日の晩に戻ってきていたのだ。 前回の失敗をすべて回避すれば、好きなひとと付き合うこともできるはず。そう考えて動き始める彼女だったが……。 ちょっとがさつだけれどまっすぐで優しいヒロインと、そんな彼女のことを一途に思っていた魔導士の恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

4度目の転生、メイドになった貧乏子爵令嬢は『今度こそ恋をする!』と決意したのに次期公爵様の溺愛に気づけない?!

六花心碧
恋愛
恋に落ちたらEND。 そんな人生を3回も繰り返してきたアリシア。 『今度こそ私、恋をします!』 そう心に決めて新たな人生をスタートしたものの、(アリシアが勝手に)恋をするお相手の次期公爵様は極度な女嫌いだった。 恋するときめきを味わいたい。 果たしてアリシアの平凡な願いは叶うのか……?! (外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)

本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます

氷雨そら
恋愛
 本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。 「君が番だ! 間違いない」 (番とは……!)  今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。  本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。 小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を謳歌する!

楠ノ木雫
恋愛
 貧乏な実家を救うための結婚だった……はずなのに!?  貧乏貴族に生まれたテトラは実は転生者。毎日身を粉にして領民達と一緒に働いてきた。だけど、この家には借金があり、借金取りである商会の商会長から結婚の話を出されてしまっている。彼らはこの貴族の爵位が欲しいらしいけれど、結婚なんてしたくない。  けれどとある日、奴らのせいで仕事を潰された。これでは生活が出来ない。絶体絶命だったその時、とあるお偉いさんが手紙を持ってきた。その中に書いてあったのは……この国の大公様との結婚話ですって!?  ※他サイトにも投稿しています。

推しの悪役令嬢を幸せにします!

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
ある日前世を思い出したエレナは、ここは大好きだった漫画の世界だと気付いた。ちなみに推しキャラは悪役令嬢。推しを近くで拝みたいし、せっかくなら仲良くなりたい! それに悪役令嬢の婚約者は私のお兄様だから、義姉妹になるなら主人公より推しの悪役令嬢の方がいい。 自分の幸せはそっちのけで推しを幸せにするために動いていたはずが、周りから溺愛され、いつのまにかお兄様の親友と婚約していた。

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。

悪役令嬢に転生したら病気で寝たきりだった⁉︎完治したあとは、婚約者と一緒に村を復興します!

Y.Itoda
恋愛
目を覚ましたら、悪役令嬢だった。 転生前も寝たきりだったのに。 次から次へと聞かされる、かつての自分が犯した数々の悪事。受け止めきれなかった。 でも、そんなセリーナを見捨てなかった婚約者ライオネル。 何でも治癒できるという、魔法を探しに海底遺跡へと。 病気を克服した後は、二人で街の復興に尽力する。 過去を克服し、二人の行く末は? ハッピーエンド、結婚へ!

処理中です...