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当日

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 デート当日。

 本日を迎えるまで「婚約者がいる身でデート」は常識の範囲内であるか否か? という議題について熱い議論を交わした護衛トリオとヴァレンティーナ。
 結局は、父親の「私が許可しているのだから問題ない」という一言で納得することとなった。

 ヴァレンティーナは初のデートだったため、それはもう勉強した。常識の範囲内で。

――準備は万端。どこからでもかかってきやがれですわ。

 迎えた当日。
 
 ヴァレンティーナは高位貴族の令嬢らしく、美しい外出用のデイドレスを身にまとい、レオの迎えを待っていた。
 そわそわする気持ちを持て余しながら自室で紅茶を飲んでいると、護衛からレオの到着を告げられた。
 
「いざ、出陣ですわ!」

 そんな言葉を残してやしきを出たヴァレンティーナ。
 見送る護衛トリオは全員涙を流していたとかいなかったとか――。護衛のために隠れてついていくのにも関わらず。
 

 辻馬車でデクスター侯爵家まで迎えに来たレオは、やしきから現れたヴァレンティーナを見て心からの笑みを浮かべた。

――可愛い。可愛いが過ぎる。ほんと、高位貴族の令嬢でこんな子がいるなんて聞いてない……!

 レオはヴァレンティーナを丁寧にエスコートし、一緒に馬車へと乗り込んだ。

「ヴァレンティーナ嬢、とお呼びしてもいいですか?」
「……ティーナ、で構いませんわ」
「……! ありがとうございます! ではティーナ、今日はいろいろお店をまわりながら会話の練習をしましょう。行き先は私にお任せください。そのほうがきっと楽しいので」
「ええ。わかりましたわ。よろしくお願いしますね、レオ」
「かしこまりました。では、最初は……」

 
✳︎✳︎✳︎


 二人が最初に向かったのはドレスショップ。……といっても、平民にとっては憧れだけれど、貴族にとっては安価すぎる、そんな店だった。

 お家柄、裏社会に精通しているヴァレンティーナはこういう店に全く忌避感はない。しかし、貴族の「常識」的には、訪れるべき場所ではないとヴァレンティーナは認識している。
 いかにも貴族らしい貴族であるレオに連れて来られるのは想定外の店だった。

「あの、レオ……」

 どうしてここへ来たのか、その意図を確認しようとしたところ、店のマダムに声をかけられた。

「あらー! ヴァレンティーナお嬢様! お久しぶりですねぇ」

 マダムはにこにこと相好そうごうを崩してヴァレンティーナたちに歩み寄った。

「こんにちは。お久しぶりです」
「こんにちは。マダム。ティーナとお知り合いですか?」
「あらあら! レオ様もご一緒でしたか」

 マダムは一瞬心配そうな顔を見せるも、慌てて営業スマイルで気持ちを覆い隠して説明した。

「ヴァレンティーナ様は私どもの味方ですもの。恩恵を受けていない店はこの辺りにはありませんし。お貴族様たちには『悪女』などと言われているようですが、私たちには可愛いお嬢様でしかありません。幼い頃から成長を見守ってきましたからね。みんなヴァレンティーナお嬢様には幸せになってほしいと思ってるんですよ」

 最後のほうは心なしか自分に非難の目が向けられ、釘を刺された気がしたレオである。

 レオは平民や中間層が集まるこの界隈でイケメン貴族として名を馳せており、知らない者はいないほど有名だった。
 特に、短期間で恋人を作って捨てたチャラい男として――。

――大丈夫。彼女のことは本気も本気。いや、今までも本気じゃなかったわけじゃないんだけどな……。

 心の中で誰に対してなのかわからない言い訳をするレオである。

――それより、やはりヴァレンティーナは「貴族の常識」をよく知らないんだな。

 ヴァレンティーナの常識は貴族の常識からちょっとズレていた。
 それは、幼い頃から親について平民たちと関わることが多かったことに起因するのかもしれない。

――貴族が違法に搾取するとしたら、それは弱い立場の人間から……。だから、ここいるマダムたちみたいに助けた人たちからは慕われるが、取り締まる対象である貴族とは敵対してしまうわけだ。

「悪女……」

 悪女とは誰に対してなのか? そう考えてレオは沈黙した。

――ティーナが今日着ているドレス。可愛いけど、ティーナが好きで着ている様子じゃないし、何より……。

 ヴァレンティーナは知らなかったのだ。貴族が貴族らしい豪奢なドレスを着て外出するのは、お茶会や舞踏会を始めとする社交の場のみだということを。
 カジュアルな外出の場合は貴族であっても社交用の豪華なドレスではなく、一人でも着られるようなワンピースを身につけることが主流なのだと。

――なら俺が、教えてあげる。

 レオははりきってマダムに目配せした。
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