手帳の運び屋

彩葉

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___プロローグ___手帳屋side

0(挿絵)

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───ねぇ知ってる?持ってると願いが叶う手帳の噂───


AM8:00
(───────。)
うっすらと目を開けた。
ぼやけた視界に珈琲の良い香りが………
───いや。視界で香りを認識する能力など残念ながら私には無い。
思考が働かない。
目の前に珈琲が置かれているということは、そろそろ時間という事か。


そして私はまたテーブルに突っ伏して寝てしまった様だ。
掛けて貰っていたのだろう。身体を起こすとブランケットが肩から滑り落ちた。

毎回申し訳ないと思ってはいるのだが、この起きた時の嬉しさの方が勝っている私は病気なのだろうか。

少し気分が良くなった所で、部屋のドアをノックされた。まあ、相手は一人しか居ないのだが。

───ドアが開く。

「時間だけど。」
一言いうか言わないかのうちにもう居なかった。毎朝の事ながら、珈琲のお礼位言わせて欲しいものだ。

髪を後ろに束ねる。
眼鏡を掛ける………前に、洗顔をしないとまた怒られるんだろう。
元々時間で動くのは好きな性分ではないのだが。

目を人差し指の第二関節でこすりながら、ゆっくりと階段を下りる。
代わりに店番を頼んでいる従業員へ下向きに指を指して、更に下へ降りていく。

───地下のドアを開ける。

(まだ前回手帳を作ってから日が空いていない。回復が遅いな───。)
椅子に浅く座り、テーブルに手を置く。
深く息を吐いた頃合いで、思い付いた文字の羅列を口から紡いだ。

(────────。)
手元に想いを込めながら、ふと思い出した。此処に来たばかりの頃は、この光景を見せる度に本当に喜んでくれたものだ。
魔法使いであり、紙を使う能力に恵まれた事へ生まれて初めて喜びを感じた位だったのに───。
───今だったら、作業中気を逸らすなって冷たくあしらわれるのがオチだろう。


───うん。そろそろ頃合いかな。


両手を広げる。足元に置いてある大きな木箱の蓋が開く。それを合図に正方形の大小様々な紙がその中から一斉に飛び出した。100種類程は有るだろう。その紙が私の頭上で泳いでいる。


「───始めよう。」


目の前では非科学的な方法で紙が裁断されている。細かい粉になってはサラサラと混ざり合い、複雑な色をも作り出すことができた。
正直この小さな手帳を一つ作る為に、色々な面で消費している。


(───とりあえず形になったな。)
部屋の隅で煙草に火をつけ辺りを見回した。作業の終わった紙は大体木箱に戻っている。
ただ色とりどりの粉が、絨毯の様に敷き詰められていた。


それを小さなガラスの小瓶に入れる。
必要以上は中々会話もしてくれないが、唯一これだけは今の所外れ無しに喜んでくれているのだから仕方がない。

───出来上がったばかりの手帳を手に取り私は地下室を後にした。






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