上 下
33 / 42

クーデターから20日後

しおりを挟む
 雨が降り続いて20日目。

 川から水が溢れ、多くの家屋に水が入り込み住める状態ではなくなっていた。高地にある王宮は水の被害がないものの、国民たちは住む家を失っていた。

 飲み水も泥や汚物が混ざり込み、病人が一気に増えた。動ける人は皆、王宮を目指して歩く。

「開けてくれ!助けてくれ!」

 王宮に続く扉の前に、たくさんの人々が立っている。どんどん、とドアを叩くが、扉は開くことはない。

「中に入れて!限界なの!」

 寒さに震えながら女性が叫ぶ。ぐっしょりと濡れた服に体温を奪われ、その場に倒れてしまう人もいる。

 女神に愛され、災害や病気から守られていた国。国民たちも優雅に生き、街には活気があふれていた。首都はこの世界での文化の発信地となっていた。

 今では全てが過去の栄光だった。たった20日で全てが崩れ、国民たちは自身の過ちに気がついた。

「ああ。女神様。どうかお許しください」

 どんどん、と扉をたたき続ける人の中で、両手を合わせて天に祈りを捧げる人もいた。しかし、天は何も答えず、雨が降り続くだけだった。


 




「パトリック様。あーん」

 マリアンネが赤い果物を指でつまみ、パトリックの口に入れる。指先が果汁で赤く染まり、床へ果汁が滴り落ちる。

「ネバンテ国から使者が帰ってきませんわね」

 指先を布で拭いながら、マリアンネが不満げに唇をとがらせる。

「雨で帰りが遅くなっているんだろう。コルネリアも一緒に帰ってきているから、馬車だろうしな」

 まさかヴァルターとコルネリアが断ると思っていない二人は、呑気にコルネリアが帰ってくるのを待っていた。

 部屋の中は暖炉によって暖かく、美味しい果物を楽しんでいる。国の運営については、ほとんど宰相に丸投げしていたため国の様子を分かってはいなかった。

「パトリック様!火事です!」

 ゆったりくつろぐ二人のもとに、慌てた様子の男性が叫びながら近寄る。

「何をそんなに慌てている?ここまで火は届かないんだろう」

「それが!燃えたのは王宮の食料庫なんです!」

「なんだと?なぜ雨なのに燃えるんだ!」

「雷が落ちたと聞きましたが、私にもわかりません。もうあと数日分しか食料がありません!」

 悲鳴混じりの声に、パトリックは呆然と立ち尽くす。しばらくぼうっとした後で、首を振って打開策を考える。

「しょうがない。近くの村から食料をかき集めてこい!あと、各国に支援の申し出を行う」

 パトリックはソファーから起き上がると、慌てて指示を出すために部屋を飛び出した。マリアンネもその後に続いて部屋を出て行った。

 近くの村に食料などないことすら、国王は分かっていないのか。このパトリックの指示によって、王宮にいた兵士たちは絶望を感じた。



 
 夜の王宮。年配の男性が40代くらいの女性を説得し、どうにか馬車に乗せようとしている。白髭の年配の男性はこの国の宰相で、説得をされているのはパトリックの母でもある王妃だ。

「こんな状況では国が立ち行かない。ここにいてもパトリックと共倒れになるだけだ。まさか、本当に天罰なんてものがこの世に存在するとは」

「いやよ。出ていくならパトリックも!」

 暴れる王妃を宰相の配下が押さえ込み、無理やり馬車に乗せた。そして、ひっそりと王宮から出て行った。
 
 この日を境に、法国の王宮から人々が逃げ出すようになった。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

わたしを嫌う妹の企みで追放されそうになりました。だけど、保護してくれた公爵様から溺愛されて、すごく幸せです。

バナナマヨネーズ
恋愛
山田華火は、妹と共に異世界に召喚されたが、妹の浅はかな企みの所為で追放されそうになる。 そんな華火を救ったのは、若くしてシグルド公爵となったウェインだった。 ウェインに保護された華火だったが、この世界の言葉を一切理解できないでいた。 言葉が分からない華火と、華火に一目で心を奪われたウェインのじりじりするほどゆっくりと進む関係性に、二人の周囲の人間はやきもきするばかり。 この物語は、理不尽に異世界に召喚された少女とその少女を保護した青年の呆れるくらいゆっくりと進む恋の物語である。 3/4 タイトルを変更しました。 旧タイトル「どうして異世界に召喚されたのかがわかりません。だけど、わたしを保護してくれたイケメンが超過保護っぽいことはわかります。」 3/10 翻訳版を公開しました。本編では異世界語で進んでいた会話を日本語表記にしています。なお、翻訳箇所がない話数には、タイトルに 〃 をつけてますので、本編既読の場合は飛ばしてもらって大丈夫です ※小説家になろう様にも掲載しています。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい

珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。 本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。 …………私も消えることができるかな。 私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。 私は、邪魔な子だから。 私は、いらない子だから。 だからきっと、誰も悲しまない。 どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。 そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。 異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。 ☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。 彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

国外追放を受けた聖女ですが、戻ってくるよう懇願されるけどイケメンの国王陛下に愛されてるので拒否します!!

真時ぴえこ
恋愛
「ルーミア、そなたとの婚約は破棄する!出ていけっ今すぐにだ!」  皇太子アレン殿下はそうおっしゃられました。  ならよいでしょう、聖女を捨てるというなら「どうなっても」知りませんからね??  国外追放を受けた聖女の私、ルーミアはイケメンでちょっとツンデレな国王陛下に愛されちゃう・・・♡

聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件

バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。 そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。 志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。 そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。 「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」 「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」 「お…重い……」 「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」 「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」 過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。 二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。 全31話

大公殿下と結婚したら実は姉が私を呪っていたらしい

Ruhuna
恋愛
容姿端麗、才色兼備の姉が実は私を呪っていたらしい    そんなこととは知らずに大公殿下に愛される日々を穏やかに過ごす 3/22 完結予定 3/18 ランキング1位 ありがとうございます

処理中です...