28 / 42
救出
しおりを挟む
ざあざあと激しい雨が降る。コルネリア達は白い鳥が導くままに、先ほど法国の領土内へ入ったところだった。木々が生い茂り、馬の速度を落として慎重に歩を進める。
法国の領土にネバンテ国の兵士、しかも国王自ら侵入をしている状況は、見つかれば国同士の争いにつながりかねない。しかし、女神に導かれているコルネリアは、法国の人間に見つかる気は全くしなかった。
ネバンテ国内では雨が降っていなかったのに、法国の領土に入った途端激しい雨が降っていた。クルトたちが用意していたマントをかぶっているものの、寒さからコルネリアの歯がカタカタと音を鳴らす。
「大丈夫か?」
「え、ええ」
(――寒いなんて言っていられないわ。女神様が私を導いているということは、きっと怪我人だっているはず)
ゆったりと翼を伸ばして羽ばたく白い鳥。その鳥が大きな木の枝に止まり、初めて高く鳴き声をあげた。
「リューイだわ」
木の下には第三王子のレオンハルト、そしてリューイらしき少女を背負うボロボロの騎士がいた。騎士はコルネリア達に気がつくと、手元の剣を手にふらりと立ち上がる。
「ホルガー様!私ですわ。コルネリアですわ」
ヴァルターに馬から下ろしてもらうと、騎士であるホルガーへ急いで駆け寄る。彼は第三王子の近衛隊長を務める騎士だった。
「コ、コルネリア様」
目の上の切り傷から血が流れ出るホルガー。身体中に傷がついており、まさに満身創痍だ。ホルガーは貴族の出ではあるが、敬虔な女神教徒なので聖女達を呼び捨てにすることはない。
木の下には、ホルガーのマント上に横たわるレオンハルトがいた。水色の髪はぐっしょりと雨や泥で濡れ、服もところどころ破れている。
「リューイ様をお願いします」
そう言って背負っていたリューイを地面にそっと置く。コルネリアがそばに座り込み、すぐに手を体にかざす。
リューイの水色な衣は、ぐっしょりと赤い血で染まっている。背中を矢で射られたようで、矢じりは抜かれて布が巻き付けられているが、血が止まっていない。
聖女達は他者へ癒しの力は使えるが、自分の怪我や病気を治すことはできないのだ。
「ああ。リューイ。すぐに治すわ」
ちらっとホルガーとレオンハルトの様子を確認し、リューイの怪我を治すことが最優先だと確認する。満身創痍に見えるホルガーも、命に関わる深い傷はないようだった。
おそらく、大きな怪我を治した後にリューイが気絶したのだろう、とコルネリアは考えた。
ぱぁっとコルネリアの両手から、温かな光が溢れる。ヴァルターと兵士たちは、周りの様子を警戒しながら治療の邪魔にならないように見張っている。
しばらく手をかざしていると、血の気が引いていたリューイの顔に血色が戻り、そっと瞳が開いた。
「コ、コルネリアさん?」
「リューイ!良かったわ!」
意識を取り戻したリューイにコルネリアが泣きそうになりながら、ぎゅっと抱きついた。地面は雨でぬかるんでいるので、お互い泥まみれだ。
「コルネリアさん!レオンハルト様とホルガー様は?」
「無事ですわ。私はホルガー様を診るから、リューイは王子をお願いしますわ」
はっと体を離したリューイにそう言うと、コルネリアはホルガーに近づく。体に手をかざして怪我を治すと、レオンハルトのそばに行ったリューイが立ち上がる。
「レオンハルト様は気絶されてるだけみたいです」
ほっとコルネリアが胸を撫で下ろすと、ヴァルターが二人に近づいてきた。
「コルネリア。いったん戻ろう」
ヴァルターの声にコルネリアは白い鳥を探すが、すでに鳥はいなくなっていた。
「女神様。ありがとうございます」
リューイの元へ導いてくれたのだ、と分かったコルネリアは両手を組んで女神へ感謝を伝える。と、すぐに立ち上がる。
「リューイ。いったん戻りましょう。ヴァルター様。みなさん。ありがとうございます」
「礼なら無事に領土に帰ってから、ヴァルター様にいただきますよ」
にかっと兵士が笑い、馬に乗る。
「リューイ様お気をつけください」
「ありがとう!」
リューイはクルトの馬に一緒に乗ることになり、にこっとリューイが人懐っこい笑みをクルトへ向ける。
「ホルガー様お使いください」
「すまない。感謝する」
ネバンテ国の兵士の一人がホルガーに自身の馬を差し出すと、ホルガーはレオンハルトを抱き抱えたまま馬に乗った。
「長距離の移動は難しい。一度ネバンテ国の国境沿いの村に行こう」
ヴァルターの言葉に皆が頷く。
「さぁ、コルネリア」
ヴァルターはコルネリアを抱き上げると、再び自身の前に座らせた。
「顔に泥がついている」
ヴァルターは親指で優しくコルネリアの顔を拭うと、穏やかな目でコルネリアを見つめる。
「さあ。急ごう」
ヴァルターの言葉を合図に、全員が馬を進めた。
雨足は時間が経つほどに激しさを増し、すぐ目の前の視界も遮られるほどだ。
「どうなってしまうんでしょう」
ぽつり、とコルネリアが不安な気持ちを呟く。
(――まずは村に帰って、リューイたちの話を聞かないといけませんわ)
コルネリアは不安な気持ちをグッと抑え込み、土砂降りの雨の中、前を向いた。
法国の領土にネバンテ国の兵士、しかも国王自ら侵入をしている状況は、見つかれば国同士の争いにつながりかねない。しかし、女神に導かれているコルネリアは、法国の人間に見つかる気は全くしなかった。
ネバンテ国内では雨が降っていなかったのに、法国の領土に入った途端激しい雨が降っていた。クルトたちが用意していたマントをかぶっているものの、寒さからコルネリアの歯がカタカタと音を鳴らす。
「大丈夫か?」
「え、ええ」
(――寒いなんて言っていられないわ。女神様が私を導いているということは、きっと怪我人だっているはず)
ゆったりと翼を伸ばして羽ばたく白い鳥。その鳥が大きな木の枝に止まり、初めて高く鳴き声をあげた。
「リューイだわ」
木の下には第三王子のレオンハルト、そしてリューイらしき少女を背負うボロボロの騎士がいた。騎士はコルネリア達に気がつくと、手元の剣を手にふらりと立ち上がる。
「ホルガー様!私ですわ。コルネリアですわ」
ヴァルターに馬から下ろしてもらうと、騎士であるホルガーへ急いで駆け寄る。彼は第三王子の近衛隊長を務める騎士だった。
「コ、コルネリア様」
目の上の切り傷から血が流れ出るホルガー。身体中に傷がついており、まさに満身創痍だ。ホルガーは貴族の出ではあるが、敬虔な女神教徒なので聖女達を呼び捨てにすることはない。
木の下には、ホルガーのマント上に横たわるレオンハルトがいた。水色の髪はぐっしょりと雨や泥で濡れ、服もところどころ破れている。
「リューイ様をお願いします」
そう言って背負っていたリューイを地面にそっと置く。コルネリアがそばに座り込み、すぐに手を体にかざす。
リューイの水色な衣は、ぐっしょりと赤い血で染まっている。背中を矢で射られたようで、矢じりは抜かれて布が巻き付けられているが、血が止まっていない。
聖女達は他者へ癒しの力は使えるが、自分の怪我や病気を治すことはできないのだ。
「ああ。リューイ。すぐに治すわ」
ちらっとホルガーとレオンハルトの様子を確認し、リューイの怪我を治すことが最優先だと確認する。満身創痍に見えるホルガーも、命に関わる深い傷はないようだった。
おそらく、大きな怪我を治した後にリューイが気絶したのだろう、とコルネリアは考えた。
ぱぁっとコルネリアの両手から、温かな光が溢れる。ヴァルターと兵士たちは、周りの様子を警戒しながら治療の邪魔にならないように見張っている。
しばらく手をかざしていると、血の気が引いていたリューイの顔に血色が戻り、そっと瞳が開いた。
「コ、コルネリアさん?」
「リューイ!良かったわ!」
意識を取り戻したリューイにコルネリアが泣きそうになりながら、ぎゅっと抱きついた。地面は雨でぬかるんでいるので、お互い泥まみれだ。
「コルネリアさん!レオンハルト様とホルガー様は?」
「無事ですわ。私はホルガー様を診るから、リューイは王子をお願いしますわ」
はっと体を離したリューイにそう言うと、コルネリアはホルガーに近づく。体に手をかざして怪我を治すと、レオンハルトのそばに行ったリューイが立ち上がる。
「レオンハルト様は気絶されてるだけみたいです」
ほっとコルネリアが胸を撫で下ろすと、ヴァルターが二人に近づいてきた。
「コルネリア。いったん戻ろう」
ヴァルターの声にコルネリアは白い鳥を探すが、すでに鳥はいなくなっていた。
「女神様。ありがとうございます」
リューイの元へ導いてくれたのだ、と分かったコルネリアは両手を組んで女神へ感謝を伝える。と、すぐに立ち上がる。
「リューイ。いったん戻りましょう。ヴァルター様。みなさん。ありがとうございます」
「礼なら無事に領土に帰ってから、ヴァルター様にいただきますよ」
にかっと兵士が笑い、馬に乗る。
「リューイ様お気をつけください」
「ありがとう!」
リューイはクルトの馬に一緒に乗ることになり、にこっとリューイが人懐っこい笑みをクルトへ向ける。
「ホルガー様お使いください」
「すまない。感謝する」
ネバンテ国の兵士の一人がホルガーに自身の馬を差し出すと、ホルガーはレオンハルトを抱き抱えたまま馬に乗った。
「長距離の移動は難しい。一度ネバンテ国の国境沿いの村に行こう」
ヴァルターの言葉に皆が頷く。
「さぁ、コルネリア」
ヴァルターはコルネリアを抱き上げると、再び自身の前に座らせた。
「顔に泥がついている」
ヴァルターは親指で優しくコルネリアの顔を拭うと、穏やかな目でコルネリアを見つめる。
「さあ。急ごう」
ヴァルターの言葉を合図に、全員が馬を進めた。
雨足は時間が経つほどに激しさを増し、すぐ目の前の視界も遮られるほどだ。
「どうなってしまうんでしょう」
ぽつり、とコルネリアが不安な気持ちを呟く。
(――まずは村に帰って、リューイたちの話を聞かないといけませんわ)
コルネリアは不安な気持ちをグッと抑え込み、土砂降りの雨の中、前を向いた。
53
お気に入りに追加
2,664
あなたにおすすめの小説
実家を追放された名家の三女は、薬師を目指します。~草を食べて生き残り、聖女になって実家を潰す~
juice
ファンタジー
過去に名家を誇った辺境貴族の生まれで貴族の三女として生まれたミラ。
しかし、才能に嫉妬した兄や姉に虐げられて、ついに家を追い出されてしまった。
彼女は森で草を食べて生き抜き、その時に食べた草がただの草ではなく、ポーションの原料だった。そうとは知らず高級な薬草を食べまくった結果、体にも異変が……。
知らないうちに高価な材料を集めていたことから、冒険者兼薬師見習いを始めるミラ。
新しい街で新しい生活を始めることになるのだが――。
新生活の中で、兄姉たちの嘘が次々と暴かれることに。
そして、聖女にまつわる、実家の兄姉が隠したとんでもない事実を知ることになる。
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。

婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます
今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。
しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。
王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。
そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。
一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。
※「小説家になろう」「カクヨム」から転載
※3/8~ 改稿中
【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!
蜜柑
ファンタジー
レイラは生まれた時から強力な魔力を持っていたため、キアーラ王国の大神殿で大司教に聖女として育てられ、毎日祈りを捧げてきた。大司教は国政を乗っ取ろうと王太子とレイラの婚約を決めたが、王子は身元不明のレイラとは結婚できないと婚約破棄し、彼女を国外追放してしまう。
――え、もうお肉も食べていいの? 白じゃない服着てもいいの?
追放される道中、偶然出会った冒険者――剣士ステファンと狼男のライガに同行することになったレイラは、冒険者ギルドに登録し、冒険者になる。もともと神殿での不自由な生活に飽き飽きしていたレイラは美味しいものを食べたり、可愛い服を着たり、冒険者として仕事をしたりと、外での自由な生活を楽しむ。
その一方、魔物が出るようになったキアーラでは大司教がレイラの回収を画策し、レイラの出自をめぐる真実がだんだんと明らかになる。
※序盤1話が短めです(1000字弱)
※複数視点多めです。
※小説家になろうにも掲載しています。
※表紙イラストはレイラを月塚彩様に描いてもらいました。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる