私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!

近藤アリス

文字の大きさ
上 下
5 / 42

初めての朝

しおりを挟む
 カーテンの隙間からうっすらと、部屋の中に明かりが差す。聖女見習いの頃から早起きが身についているコルネリアは、そっと瞳を開けた。

 起きてすぐ部屋の中をきょろきょろ、と見渡す。

(ーーヴァルター様は…いないわね)

 部屋の中にヴァルターがいないことを確認すると、ぐっと両手を上げて軽く伸びをする。

 神殿にいる頃であれば、朝の清掃を始めるのだが、コルネリアは初めての場所でどう動いて良いのかわからない様子だ。

 紙とペンが置いてあるサイドテーブルには、昨夜カリンが置いて行った呼び鈴がある。

 用事があればならすように、といって置いて行ったものだが、早朝から鳴らして良いのかわからず、彼女は鈴を手に取ったものの、再びテーブルに置いた。

 どうしようかな、と悩んでいたところ、寝室のドアがそっと開いた。

「まあ。奥様。もう起きてらっしゃったのですね」

 部屋の中に入ってきたのはカリンだ。既にアイロンがしっかりかけられたメイド服を着ているカリンは、カーテンの方へ向かう。

「まだお早いので、ゆっくりされても良いと思いますが。起きられますか?」

 カリンの言葉にコルネリアが頷くと、カリンはカーテンを開ける。ぱっと、部屋の中が明るくなった。

「すぐに顔を洗うお湯をお持ちいたしますね」

 そう言って、カリンはバタバタと部屋から出て行った。コルネリアは窓まで行くと、そっと外を見てみる。

 寝室の窓からはちょうど、庭にある修練場が見える。そこでは、上半身が裸のヴァルターが一人で素振りをしていた。

(ーーなんて逞しいんでしょう。目の保養ですわ)

 じー。と見ていると、ヴァルターは視線を感じたのか上に目線を上げる。

 ばちっと二人の目が合うと、驚いた様子のヴァルターに、コルネリアは微笑んで手を振った。

(ーー毎朝の積み重ねがその良い筋肉に繋がっているのね!頑張って!)

 がっちりした身体がタイプのコルネリアが、嬉しそうに手を振る様子に、ヴァルターはたじろいでいる。

 そして、軽く手を上げて応えると、再び素振りを始めた。

「奥様。お待たせいたしました」

 木製のタライにお湯を張り、カリンが戻ってきた。コルネリアを座らせると、そっと布をお湯に浸し、優しく撫でるようにコルネリアの顔を拭く。

(ーー法国では考えられない待遇だわ)

 花の精油が入ったお湯は、ほんのりと良い香りもする。いつもは水で顔を洗うコルネリアは、気持ちよさにうっとりと目を細める。

「お湯加減はどうですか?」

 カリンに向かって口パクで、ありがとう。とコルネリアが伝えると、カリンがにこっと笑顔を浮かべた。

「お着替えをしましたら、朝食にいたしましょう。ヴァルター様もご一緒されるそうですよ」

 カリンはそう言うと、コルネリアの顔を再び優しく拭った。










 ヴァルターの屋敷にある食堂は、国王の屋敷とは思えないほどこじんまりしている。

 テーブルも大きさはそれほどないが、生花が飾られており雰囲気が良い。

 コルネリアがカリンに連れられて、食堂に行くと既にヴァルターが座っている。

「よく寝れたか?」

 コルネリアは頷いて、ヴァルターの向かいの席に腰を下ろした。

 コルネリアの前には、オレンジジュースやパンなどが次々と置かれていく。

 美味しそうなご飯にぱっと表情を明るくしたコルネリアは、どんどんと口に運んでいった。

 聖女のマナーとして、テーブルマナーは完璧なので、側から見ると優雅な食事に見える。

 嬉しそうにご飯を食べるコルネリアを、ヴァルターや使用人たちが嬉しそうに見守る。

「コルネリア。早速で悪いんだが、今日は一緒に病院の方へ行ってくれないだろうか。時間は、そうだな。昼過ぎくらいだろうか。帝国との戦争による負傷で苦しむ国民が、まだたくさんいるんだ」

【もちろんです】

 紙に書いて答えると、ヴァルターはほっとしたようだ。

「癒しの力を使うのに、何か必要なものはあるか?」

 首を横に振るコルネリアに、そうか。とヴァルターが頷く。

「何かあればマルコでも、カリンでも誰でもいいから伝えるように」

 そう言うとヴァルターが立ち上がる。

「すまない。やることが多くて、これで失礼する。昼までには帰るようにするからな」

 コルネリアが微笑んで見つめると、カッと頬を赤く染めてヴァルターが食堂から出て行った。

(ーーこれだけ歓迎してもらっているということは、この国は癒しの力を必要としているのね。しっかり働かないと!…んん。このムース美味しいわ!)

 コルネリアが果物のムースに感動し、美味しいと口パクで言うと、カリンが嬉しそうにキッチンへ向かった。どうやら、料理長へ伝えに行ったようだ。

 その後部屋で癒しの力が発動するのを確認したコルネリアは、時間までのんびりと自室で過ごした。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

実家を追放された名家の三女は、薬師を目指します。~草を食べて生き残り、聖女になって実家を潰す~

juice
ファンタジー
過去に名家を誇った辺境貴族の生まれで貴族の三女として生まれたミラ。 しかし、才能に嫉妬した兄や姉に虐げられて、ついに家を追い出されてしまった。 彼女は森で草を食べて生き抜き、その時に食べた草がただの草ではなく、ポーションの原料だった。そうとは知らず高級な薬草を食べまくった結果、体にも異変が……。 知らないうちに高価な材料を集めていたことから、冒険者兼薬師見習いを始めるミラ。 新しい街で新しい生活を始めることになるのだが――。 新生活の中で、兄姉たちの嘘が次々と暴かれることに。 そして、聖女にまつわる、実家の兄姉が隠したとんでもない事実を知ることになる。

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます

今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。 しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。 王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。 そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。 一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。 ※「小説家になろう」「カクヨム」から転載 ※3/8~ 改稿中

【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!

蜜柑
ファンタジー
レイラは生まれた時から強力な魔力を持っていたため、キアーラ王国の大神殿で大司教に聖女として育てられ、毎日祈りを捧げてきた。大司教は国政を乗っ取ろうと王太子とレイラの婚約を決めたが、王子は身元不明のレイラとは結婚できないと婚約破棄し、彼女を国外追放してしまう。 ――え、もうお肉も食べていいの? 白じゃない服着てもいいの? 追放される道中、偶然出会った冒険者――剣士ステファンと狼男のライガに同行することになったレイラは、冒険者ギルドに登録し、冒険者になる。もともと神殿での不自由な生活に飽き飽きしていたレイラは美味しいものを食べたり、可愛い服を着たり、冒険者として仕事をしたりと、外での自由な生活を楽しむ。 その一方、魔物が出るようになったキアーラでは大司教がレイラの回収を画策し、レイラの出自をめぐる真実がだんだんと明らかになる。 ※序盤1話が短めです(1000字弱) ※複数視点多めです。 ※小説家になろうにも掲載しています。 ※表紙イラストはレイラを月塚彩様に描いてもらいました。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい

珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。 本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。 …………私も消えることができるかな。 私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。 私は、邪魔な子だから。 私は、いらない子だから。 だからきっと、誰も悲しまない。 どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。 そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。 異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。 ☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。 彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。

処理中です...