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49話
しおりを挟むふかふかの布団が頬にあたり、その気持ちよさにビオラは目を開けた。後ろからお腹まで、ぎゅうっとジェレマイアが抱きついている。
(――そっか。私ジェレマイア様と家族になったんだ)
名前を呼んで欲しい、そう熱くささやく声を思い出し、ビオラは顔を真っ赤にして布団を顔まで上げた。
その動きで起きたのか、ジェレマイアがゆっくりと目を開ける。そして、ビオラの姿があることを確認すると、背中に頭をすり付けて笑った。
「おはようビオラ」
そのまましばらくじっとしていたジェレマイアは、ベッドから降りて扉の方へ向かう。
「身体がだるいだろう?今日はそのまま朝食を一緒にとろう」
ビオラに優しく声をかけると、廊下に待機していたアイリーンへと指示を出す。扉の間から見えるアイリーンが、ビオラに親指を立てたのでビオラも恥ずかしそうに同じポーズを返した。
二人でくつろいでいると、アイリーンとリヨッタが部屋に入ってきた。その後ろには、料理人のレグアンもいる。
リヨッタが手際よくベッドトレイを置き、その上にアイリーンが配膳して行く。野菜とハムの挟まったサンドイッチに、ふわふわ卵のオムライス、キャラメリゼされたナッツが今日のメニューだ。ベッドの上で食べるためか、スープは今日はなかった。
「それでは、失礼致します」
素早く用意をしたリヨッタとアイリーンが、頭を下げて部屋から出て行く。
「殿下。すみません。本日王と皇后の専属料理人が休みを取ってまして、俺が代わりに担当することになったんですが、よろしかったですか?」
「ああ。構わない」
ジェレマイアが機嫌良く答えると、ほっとした様子でレグアンが出て行く。
ジェレマイアはビオラの隣に座り直すと、スプーンを手に取った。そして、オムライスをすくうと、ビオラの口元に持っていく。
「自分で食べられますよ。殿下」
「俺がやりたいんだ。それに、殿下じゃなくてジェレマイアだろう?」
とろけるような笑みを浮かべるジェレマイアに、勝てないと感じたビオラが早々に口を開けた。まるで雛に餌をやる親鳥のように、せっせとジェレマイアがビオラの口元に食べ物を運ぶ。
全て食べ終わると、トレイをサイドテーブルに置いてジェレマイアがビオラを抱きしめる。
「今日はお仕事大丈夫なんですか?」
「あぁ。1日休むために昨日まで頑張ったからな。ずっと部屋で一緒に過ごそう」
そう言って口付けをするジェレマイアが、ビオラの身体をベッドに横たわらせる。
「朝ですし。もう無理ですよ」
泣き言を言うビオラの頬にキスをして、ジェレマイアが笑う。段々とキスが深くなっていったとき、トントントンと控えめなノック音で部屋に響く。
「ジェレマイア様。誰か来ましたよ」
「ほっとけ。今日は俺は休みなんだ」
そう言って再びキスをしようとすると、先ほどよりも強くドアがノックされた。ちっ、と舌打ちをしたジェレマイアが立ち上がり、扉の方に向かう。
「誰だ?なんだ、ライか」
「殿下。急ぎの用です。ラフル橋が崩壊をし、被害も出ているようです」
「何だと?それは、俺が行かないと仕方がないな」
今までビオラが聞いたことのないような、長いため息がジェレマイアの口から漏れる。ビオラがベッドから立ちあがろうとするが、自身がまだ肌着姿なことに気がついて出られない。
「ビオラ。すまない。ラフル橋建設は王から任命された仕事で、順調に進んでいたはずなんだが。すぐに様子を見たら帰ってくる」
ベッドに足早に近づいたジェレマイアはそう言うと、ビオラの頬にキスをした。
「妃としての勉強も明日からにして。今日はとにかくゆっくり、好きなように過ごしてくれ」
「はい。殿下。お気をつけてください」
(――何だか嫌な予感がする)
ぎゅっとジェレマイアの首に手を回し、不安を隠すように抱きついた。少しの間ジェレマイアの体温を感じ、手を離してにこりと微笑む。
「ああ。ありがとう。行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
もう一度キスをすると、ジェレマイアが部屋から出て行った。誰もいなくなった部屋で、ビオラは水を飲むためにベッドから立ち上がる。
「あっ」
がしゃん!とサイドテーブルに置いてあったグラスが落ち、床に落ちて割れる。
「大丈夫ですか?」
音を聞いてすぐに外に控えていたアイリーンが入ってきて、ガラスが割れたことを確認するとビオラにベットの上にいるように言い、ホウキを取りに部屋を出た。
「ジェレマイア様。大丈夫だよね」
何だか胸騒ぎがして、ビオラはぎゅっと両手を組んで目を閉じた。
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