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25話

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 (――あ、キスされる)

 ビオラはぽかぽかとした気持ちのまま目を閉じたが、その瞬間クレアの顔が浮かんだ。

 (――私のことが好きなのに、クレア様のところに行ったの?)

 そう思った瞬間、ビオラは自分の顔を手で覆って、横を向いていた。

「ビオラ?」

「クレア様のことは、どうなんですか?」

 真剣な表情のビオラに、ジェレマイアは不思議そうな表情を浮かべる。

「なぜクレアのことを?特に何も思っていないが」

「でも。昨夜はお屋敷に行かれたって。もしも、夫としての義務だとしても、平民として育った私に夫を共有する器はありません」

 そう言ってジェレマイアの下から抜け出し、ベッドの上に座り直す。

「俺を共有?クレアが?」

「ええ。奥様ですから」

 苦虫を噛み潰したような表情のジェレマイアに、ビオラの方が戸惑ってしまう。

「お前は俺のことが好きなんだな?」

「はい。殿下のことをお慕いしております。だからこそ、他の方の夫だと思うと辛いのです」

 ビオラの言葉を聞いて、ジェレマイアは自身の膝の上にビオラを座らせて抱きしめる。

「俺は人生で、こんなにも誰かを可愛いと思ったことはない。そして、ビオラ。お前を尊重したいとすら思っている」

「そんな殿下ほどの身分の方が」

「驚きだろう。だからお前が嫌なら今はやめておこう。クレアの件はあと少しで終わる。それまで待て」

「終わるって、どうされるんですか?」

 ぎゅうとジェレマイアの胸元に顔を押し付けて、ビオラが尋ねる。

「アルゼリアと同様に、自身の領土に帰ることになるだろうな」

 (――結婚を破棄されるってこと?)

「飯にしよう。頬が痛いだろうから、俺が食べさせてやろう」

 ひょい、とビオラを抱き上げて、ジェレマイアが料理の皿が置いてある机の方に歩いて行った。






 料理を食べ、自身の部屋に戻ったビオラはベッドの上で座りながらぼうっとしていた。

 あまりにもたくさんの情報に、脳が処理できていないことを感じていた。

「一番重要なことは、お嬢様が帰られるってことよね」

 ぽつり、とつぶやく。元々エドガーはラスウェル子爵公認で、あのまま領地で結婚する予定だった。アルゼリアはラスウェル子爵の一人娘であり、妻を亡くしたあと子爵は後妻を娶らなかったため、アルゼリアが後継者だった。

 アルゼリアがジェレマイアに嫁いでしまったことで、ラスウェル子爵は親戚の中から後継を探している。が、いまだに誰になるかは決まっていない。

 子爵領にとっても、アルゼリアが戻ってきてエドガーと結婚するのは助かることだった。

 (――お嬢様が帰るなら、私はどうなるんだろう?)

 ジェレマイアは自身を妻として娶るつもりだ、とビオラは感じていた。しかし、そうなればビオラは子爵領には帰れなくなるだろう。

 (――お嬢様と離れたくない!それに、平民の私が妻になるなんて、普通の貴族相手でも無理な話なのに)

 ぐるぐるぐる、と頭の中で色々な問題が出てきて、悩んでいたビオラはベッドに倒れ込んだ。

「あああああ、もう無理」

 そう言うとうつ伏せになっていたビオラは、天井の方をくるりと向く。

「お嬢様は領地に帰れる。殿下も私のことを好きでいてくれてる!多分!」

 重要な事実を二つ口に出して、自分に言い聞かせる。

 (――明日は公爵家で公爵令嬢の病気を診る日だ。早く寝ないと)

 明日はブルクハルト公爵との約束の日だった。ジェレマイアとの口約束を信じたいが、どうなるかは分からない。アルゼリアとのためにも、公爵家との繋がりを持つことは重要だ。

 ビオラは寝れないだろうな、と思いながらベッドに潜り込んだ。しかし、悩み事でショートした頭は疲れていたようで、すぐに寝息を立てて眠り出した。

 
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