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19話
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城の中をジェレマイアに腕を掴まれながら、どんどん歩いていく。すれ違う人たちはジェレマイアだと気が付くとすぐに頭を下げるため、ビオラは彼らがどんな表情をしているか分からない。
少し歩くと目的の部屋についたようで、ジェレマイアが足を止めて扉を開けた。
「中に入れ」
部屋の中に恐る恐る入ると、そこには絵本に出てくるお茶会のような光景が広がっていた。
「わぁ」
思わずビオラは声を漏らす。色とりどりの花たちが部屋中に飾られ、テーブルの上にはキラキラと輝くデザートが置いてある。
「茶を入れてやる。座れ」
ジェレマイアに言われるままに座ると、彼はティーポットを手に取り、品の良いカップへと注ぎ入れる。ふわりと紅茶の良い香りがし、ビオラはうっとりとした。
「すごく高そうなカップですね」
繊細な花の絵が描いてあるカップを見て言うと、ジェレマイアが笑う。
「この部屋に置いてある全ての物が、この国で最も高いものだろうな」
(――割らないようにしないと!……あ、美味しい)
両手で慎重にカップを受け取り、そっと口をつけて飲む。普段はアルゼリアにふるまう立場だが、自身が入れた紅茶よりも美味しくて少し悔しいほどだった。
「ここにあるものは、好きなだけ食べて良い。アルゼリアの謁見が終わるまで、この部屋でゆっくりとしていろ」
「え?いいんですか?」
輝く苺のタルトに、ふわふわのホイップがのったカップケーキ。みずみずしくジューシーなカットフルーツ。それらを全て食べて良いと言われ、ビオラは嬉しそうにジェレマイアを見た。
「ライの言う通りだったな」
「え?」
「いや。なんでもない。体調もかなり改善されて過ごしやすくなったから。褒美だ」
「ありがとうございます。いただきます!」
目の前のごちそうを食べて良い理由が分かったビオラは、フォークを手に取ると一番近くに合った苺のタルトに手を伸ばした。
もぐもぐと美味しそうに食べるビオラを、ジェレマイアが愛おしそうに見つめる。
「殿下は食べないんですか?」
(――じっと見られていると気まずい!)
視線に気が付いたビオラがそう言うと、ジェレマイアが椅子から立ち上がった。
「俺も謁見室に行かないと行けないからな」
「え。それじゃあすぐに行かないといけないのでは?」
「そうだ。だから、一口だけもらおう」
そう言うとビオラの手を優しく掴み、フォークの先に刺さっている苺タルトをジェレマイアが食べた。
「うまいな」
手を掴んだまま言われたビオラの顔が真っ赤に染まり、ジェレマイアが声をあげて笑う。
「謁見と顔見せが終わったら、アルゼリアと共に屋敷に帰れ。それまでここから出るなよ」
からかうように長い人差し指でビオラの顎をくすぐると、ジェレマイアが扉の方へ歩いていく。
「私のことからかってませんか?」
真っ赤になりながらジェレマイアの背中に向けて言うと、くるりとジェレマイアが振り返る。
「楽しんでいるだけだ」
(――恥ずかしい!)
何と言って良いか分からずに睨むように見つめると、その視線にジェレマイアはさらに機嫌が良くなる。その表情を見て、ビオラは自身の心臓がきゅんと締め付けられたのを感じた。
(――私。本当に殿下のこと好きになっちゃったのかもしれない)
ドキドキしながら自身の気持ちを知ってしまったビオラ。好意を抱く人と話せる幸せで紅潮した頬は、次のジェレマイアの一言で一気に冷めた。
「今夜はクレアの屋敷に行く。すまないが、食事は別々にしよう」
「え?」
そう言い残してジェレマイアは部屋から出て行った。
(――そうだ。殿下はアルゼリア様以外に、クレア様っていう奥様がいる方だった)
浮かれていた自分の気持ちがさっと下がり、先ほどまでの幸せな気持ちが一転し、部屋中の花の色もあせたように感じた。
自覚したばかりの自分の気持ちと、嫉妬などの様々な感情で心がぐちゃぐちゃになった。貴族や王族は何人でも持てるため、倫理的には問題はない。しかし、改めて別に妻がいる男性を好きになってしまったことは、ビオラにとってはショックが大きかった。
「とりあえず、食べよう!食べて考える!私の一番はお嬢様だから、そこだけはぶれないようにしよう!」
ジェレマイアの前では一口サイズに切りながら食べていたタルトに、フォークを思いきりザクッと突き刺す。そして、そのまま持ち上げて、豪快にかじりついた。
(――くよくよするのは私らしくない!今はこのお部屋のケーキを楽しんで、謁見を終えたお嬢様を無事に屋敷に送り届けるのが目的!)
ぐいっとカップに残った紅茶を一気に流し込む。優しくまろやかだった温かい紅茶は、冷めて香りがきつくなり喉に渋みを残した。
少し歩くと目的の部屋についたようで、ジェレマイアが足を止めて扉を開けた。
「中に入れ」
部屋の中に恐る恐る入ると、そこには絵本に出てくるお茶会のような光景が広がっていた。
「わぁ」
思わずビオラは声を漏らす。色とりどりの花たちが部屋中に飾られ、テーブルの上にはキラキラと輝くデザートが置いてある。
「茶を入れてやる。座れ」
ジェレマイアに言われるままに座ると、彼はティーポットを手に取り、品の良いカップへと注ぎ入れる。ふわりと紅茶の良い香りがし、ビオラはうっとりとした。
「すごく高そうなカップですね」
繊細な花の絵が描いてあるカップを見て言うと、ジェレマイアが笑う。
「この部屋に置いてある全ての物が、この国で最も高いものだろうな」
(――割らないようにしないと!……あ、美味しい)
両手で慎重にカップを受け取り、そっと口をつけて飲む。普段はアルゼリアにふるまう立場だが、自身が入れた紅茶よりも美味しくて少し悔しいほどだった。
「ここにあるものは、好きなだけ食べて良い。アルゼリアの謁見が終わるまで、この部屋でゆっくりとしていろ」
「え?いいんですか?」
輝く苺のタルトに、ふわふわのホイップがのったカップケーキ。みずみずしくジューシーなカットフルーツ。それらを全て食べて良いと言われ、ビオラは嬉しそうにジェレマイアを見た。
「ライの言う通りだったな」
「え?」
「いや。なんでもない。体調もかなり改善されて過ごしやすくなったから。褒美だ」
「ありがとうございます。いただきます!」
目の前のごちそうを食べて良い理由が分かったビオラは、フォークを手に取ると一番近くに合った苺のタルトに手を伸ばした。
もぐもぐと美味しそうに食べるビオラを、ジェレマイアが愛おしそうに見つめる。
「殿下は食べないんですか?」
(――じっと見られていると気まずい!)
視線に気が付いたビオラがそう言うと、ジェレマイアが椅子から立ち上がった。
「俺も謁見室に行かないと行けないからな」
「え。それじゃあすぐに行かないといけないのでは?」
「そうだ。だから、一口だけもらおう」
そう言うとビオラの手を優しく掴み、フォークの先に刺さっている苺タルトをジェレマイアが食べた。
「うまいな」
手を掴んだまま言われたビオラの顔が真っ赤に染まり、ジェレマイアが声をあげて笑う。
「謁見と顔見せが終わったら、アルゼリアと共に屋敷に帰れ。それまでここから出るなよ」
からかうように長い人差し指でビオラの顎をくすぐると、ジェレマイアが扉の方へ歩いていく。
「私のことからかってませんか?」
真っ赤になりながらジェレマイアの背中に向けて言うと、くるりとジェレマイアが振り返る。
「楽しんでいるだけだ」
(――恥ずかしい!)
何と言って良いか分からずに睨むように見つめると、その視線にジェレマイアはさらに機嫌が良くなる。その表情を見て、ビオラは自身の心臓がきゅんと締め付けられたのを感じた。
(――私。本当に殿下のこと好きになっちゃったのかもしれない)
ドキドキしながら自身の気持ちを知ってしまったビオラ。好意を抱く人と話せる幸せで紅潮した頬は、次のジェレマイアの一言で一気に冷めた。
「今夜はクレアの屋敷に行く。すまないが、食事は別々にしよう」
「え?」
そう言い残してジェレマイアは部屋から出て行った。
(――そうだ。殿下はアルゼリア様以外に、クレア様っていう奥様がいる方だった)
浮かれていた自分の気持ちがさっと下がり、先ほどまでの幸せな気持ちが一転し、部屋中の花の色もあせたように感じた。
自覚したばかりの自分の気持ちと、嫉妬などの様々な感情で心がぐちゃぐちゃになった。貴族や王族は何人でも持てるため、倫理的には問題はない。しかし、改めて別に妻がいる男性を好きになってしまったことは、ビオラにとってはショックが大きかった。
「とりあえず、食べよう!食べて考える!私の一番はお嬢様だから、そこだけはぶれないようにしよう!」
ジェレマイアの前では一口サイズに切りながら食べていたタルトに、フォークを思いきりザクッと突き刺す。そして、そのまま持ち上げて、豪快にかじりついた。
(――くよくよするのは私らしくない!今はこのお部屋のケーキを楽しんで、謁見を終えたお嬢様を無事に屋敷に送り届けるのが目的!)
ぐいっとカップに残った紅茶を一気に流し込む。優しくまろやかだった温かい紅茶は、冷めて香りがきつくなり喉に渋みを残した。
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