【完結】推しの悪役にしか見えない妖精になって推しと世界を救う話

近藤アリス

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番外編

タイロンと人間になった妖精2

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 そして迎えた週末。

 アイテムボックスに必要なものを入れているので、私は身一つで身軽だ。ベルるんの物も入れているので、彼も何も持ってない。

 タイロンはリュックを背負い、その中に水袋などを入れているようだ。

「それじゃあ行こうか!」

 私はテレポートを唱えて、土の国とある村へと飛んだ。

 土の国の首都から離れた場所にあるその村は、タイロンも初めて来るようだった。

 村には付き合いのある商人以外の人が来ることは少ないため、食堂と宿屋が一緒になった店舗と、雑貨店の2つしか店はない。

「この村に用事があるのか?」

「そうだよ。まずは食堂に向かおう」

 不思議そうに村の様子を見るタイロンと、私しか見てないベルるんを連れて食堂へ向かう。

 二階建ての食堂兼宿屋のドアを開けると、村人らしき人が数人座って喋っている。

 見知らぬ若者が3人も入ってきたことに、店内の人は驚きが隠せない様子だ。

「あんたたち。こんな何もない村に何のようだい?」

 食堂の女将らしき人がそう言って、カウンターから出てきてくれる。

「はじめまして。私はアリサといいます。実は、父がこの村の麦酒の大ファンで、どちらで買えるかご存知ですか?」

 にこにこ、と警戒されないように笑顔で言うと、女将は納得したように「ああ!」と言った。

「うちの村の麦酒が好きなんて。アンタの父さんは中々の酒好きだね!待ってな。雑貨屋のヤンを連れてきてやるよ!」

 そう言って豪快に笑うと、女将が店から出て行った。

「え。店番はいいの?」

「はは。この村の人は俺含め、みんな知り合いだからな。別に女将が少しくらいいなくなっても、問題ねぇよ」

 私の疑問に近くに座っていたおじさんが答える。

「ところで。いい兄ちゃん2人連れてるけど、どっちがお嬢ちゃんのこれだい?」

 そう酔っ払った様子のおじさんが、指を立てながら聞いてくる。

「もちろん。僕だよ」

 にこっとベルるんが笑って、私とおじさんの間に入る。

「大切な人だから、あんまり見ないでほしいな。減ってしまったら困るから」

「ははは!中々面白い兄ちゃんだ!」

 ベルるんの言葉を、冗談だと受け取ったおじさんが笑う。

 ちなみにタイロンは酔っ払いの相手は苦手なようで、じっと黙っている。
 
 少しすると女将さんが、細身で眼鏡をかけているおじさんを連れてきた。

「ほら!ヤン!このお嬢ちゃんがうちの村の麦酒の大ファンだってさ!」

「あの、私の父です」

「変わらないさ!」

 ガハハと笑う女将に背中を押されたヤンが、麦酒の入った瓶を2つ私に差し出す。

 私はヤンにお金を渡し、麦酒を受け取る。

「ありがとうございます。父も喜びます」

 そう言って食堂から出ると、村のはずれの人気の少ないところまで移動する。

「はい。タイロン。まずは、これが必要なものなの」

 私が麦酒を手渡すと、タイロンは不思議そうにしながら受け取る。

「お酒飲むと土の珠が出るのかな?」

 ベルるんが。からかうように言う。そこで、ふと気がつく。

「あれ?私って土の珠が出る条件2人に話してない?」

 頷く2人に、あちゃーと顔をおおう。道理で2人とも不思議そうにしているわけだ。

「ええっと。タイロンがいる土の国って、今ドワーフと仲が悪いよね?」

「ああ。その話は土の国の者にはしない方がいい」

 元々土の国で過ごしていたドワーフの一族は、ある時期から国を出て放浪している。仲が悪いと言うよりは、ドワーフが一方的に嫌っている形だ。

 土の国の人からすると、ドワーフに嫌われているという事実が、許せないものらしい。

「そのドワーフの長と土の国の高位貴族であるタイロンが和解することで、土の珠は出てくるんだよ」

「和解…できるのだろうか?」

「うん!そのために必要なのがこの麦酒だよ」

 私がそう言うと、タイロンが持っている麦酒をまじまじと見つめる。

「あと1つ重要なアイテムがあって。そのアイテムは、この村の裏にある洞窟で手に入るよ」

「モンスターが出るなら僕の出番だね」

 張り切ったようにベルるんが言ってくれる。

「残念。今回は戦わなくていいんだ。タイロンの地鳴りを壁にぶつけると、出てくる小部屋にアイテムがあるから」

「せっかくアリサに良いところ見せようと思ったのに」

「いつでも尊いから大丈夫!」

 がっかりして言うベルるんに、親指を立てて言うと、タイロンの方へ向き直す。

「それじゃあ、さくっと行こうか!」











 洞窟は入ってすぐに行き止まりがある。

「それじゃあ、この位置で地鳴りをよろしく」

 私の言葉にタイロンは頷き、その場でどん!と1回足踏みをした。

 地面が揺れ、洞窟の壁面が崩れ落ちる。その奥には大人が1人だけ入れるくらいの、小さなスペースがあった。

「これでいいか?」

「うん!ええっと、確か地面に…あった!」

 地面に転がるのは、小さな石像だ。男神の像だけれど、ぼろぼろで原型をとどめていない。

 石像を持ち上げて鑑定をする。

 忘れられし神の像。と名称が現れる。うん。これで間違いない。

「それじゃあ村に戻ろうか!」

 石像をアイテムボックスにしまうと、私は2人を見てにっこり笑った。

 
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