54 / 57
番外編
タイロンと人間になった妖精2
しおりを挟む
そして迎えた週末。
アイテムボックスに必要なものを入れているので、私は身一つで身軽だ。ベルるんの物も入れているので、彼も何も持ってない。
タイロンはリュックを背負い、その中に水袋などを入れているようだ。
「それじゃあ行こうか!」
私はテレポートを唱えて、土の国とある村へと飛んだ。
土の国の首都から離れた場所にあるその村は、タイロンも初めて来るようだった。
村には付き合いのある商人以外の人が来ることは少ないため、食堂と宿屋が一緒になった店舗と、雑貨店の2つしか店はない。
「この村に用事があるのか?」
「そうだよ。まずは食堂に向かおう」
不思議そうに村の様子を見るタイロンと、私しか見てないベルるんを連れて食堂へ向かう。
二階建ての食堂兼宿屋のドアを開けると、村人らしき人が数人座って喋っている。
見知らぬ若者が3人も入ってきたことに、店内の人は驚きが隠せない様子だ。
「あんたたち。こんな何もない村に何のようだい?」
食堂の女将らしき人がそう言って、カウンターから出てきてくれる。
「はじめまして。私はアリサといいます。実は、父がこの村の麦酒の大ファンで、どちらで買えるかご存知ですか?」
にこにこ、と警戒されないように笑顔で言うと、女将は納得したように「ああ!」と言った。
「うちの村の麦酒が好きなんて。アンタの父さんは中々の酒好きだね!待ってな。雑貨屋のヤンを連れてきてやるよ!」
そう言って豪快に笑うと、女将が店から出て行った。
「え。店番はいいの?」
「はは。この村の人は俺含め、みんな知り合いだからな。別に女将が少しくらいいなくなっても、問題ねぇよ」
私の疑問に近くに座っていたおじさんが答える。
「ところで。いい兄ちゃん2人連れてるけど、どっちがお嬢ちゃんのこれだい?」
そう酔っ払った様子のおじさんが、指を立てながら聞いてくる。
「もちろん。僕だよ」
にこっとベルるんが笑って、私とおじさんの間に入る。
「大切な人だから、あんまり見ないでほしいな。減ってしまったら困るから」
「ははは!中々面白い兄ちゃんだ!」
ベルるんの言葉を、冗談だと受け取ったおじさんが笑う。
ちなみにタイロンは酔っ払いの相手は苦手なようで、じっと黙っている。
少しすると女将さんが、細身で眼鏡をかけているおじさんを連れてきた。
「ほら!ヤン!このお嬢ちゃんがうちの村の麦酒の大ファンだってさ!」
「あの、私の父です」
「変わらないさ!」
ガハハと笑う女将に背中を押されたヤンが、麦酒の入った瓶を2つ私に差し出す。
私はヤンにお金を渡し、麦酒を受け取る。
「ありがとうございます。父も喜びます」
そう言って食堂から出ると、村のはずれの人気の少ないところまで移動する。
「はい。タイロン。まずは、これが必要なものなの」
私が麦酒を手渡すと、タイロンは不思議そうにしながら受け取る。
「お酒飲むと土の珠が出るのかな?」
ベルるんが。からかうように言う。そこで、ふと気がつく。
「あれ?私って土の珠が出る条件2人に話してない?」
頷く2人に、あちゃーと顔をおおう。道理で2人とも不思議そうにしているわけだ。
「ええっと。タイロンがいる土の国って、今ドワーフと仲が悪いよね?」
「ああ。その話は土の国の者にはしない方がいい」
元々土の国で過ごしていたドワーフの一族は、ある時期から国を出て放浪している。仲が悪いと言うよりは、ドワーフが一方的に嫌っている形だ。
土の国の人からすると、ドワーフに嫌われているという事実が、許せないものらしい。
「そのドワーフの長と土の国の高位貴族であるタイロンが和解することで、土の珠は出てくるんだよ」
「和解…できるのだろうか?」
「うん!そのために必要なのがこの麦酒だよ」
私がそう言うと、タイロンが持っている麦酒をまじまじと見つめる。
「あと1つ重要なアイテムがあって。そのアイテムは、この村の裏にある洞窟で手に入るよ」
「モンスターが出るなら僕の出番だね」
張り切ったようにベルるんが言ってくれる。
「残念。今回は戦わなくていいんだ。タイロンの地鳴りを壁にぶつけると、出てくる小部屋にアイテムがあるから」
「せっかくアリサに良いところ見せようと思ったのに」
「いつでも尊いから大丈夫!」
がっかりして言うベルるんに、親指を立てて言うと、タイロンの方へ向き直す。
「それじゃあ、さくっと行こうか!」
洞窟は入ってすぐに行き止まりがある。
「それじゃあ、この位置で地鳴りをよろしく」
私の言葉にタイロンは頷き、その場でどん!と1回足踏みをした。
地面が揺れ、洞窟の壁面が崩れ落ちる。その奥には大人が1人だけ入れるくらいの、小さなスペースがあった。
「これでいいか?」
「うん!ええっと、確か地面に…あった!」
地面に転がるのは、小さな石像だ。男神の像だけれど、ぼろぼろで原型をとどめていない。
石像を持ち上げて鑑定をする。
忘れられし神の像。と名称が現れる。うん。これで間違いない。
「それじゃあ村に戻ろうか!」
石像をアイテムボックスにしまうと、私は2人を見てにっこり笑った。
アイテムボックスに必要なものを入れているので、私は身一つで身軽だ。ベルるんの物も入れているので、彼も何も持ってない。
タイロンはリュックを背負い、その中に水袋などを入れているようだ。
「それじゃあ行こうか!」
私はテレポートを唱えて、土の国とある村へと飛んだ。
土の国の首都から離れた場所にあるその村は、タイロンも初めて来るようだった。
村には付き合いのある商人以外の人が来ることは少ないため、食堂と宿屋が一緒になった店舗と、雑貨店の2つしか店はない。
「この村に用事があるのか?」
「そうだよ。まずは食堂に向かおう」
不思議そうに村の様子を見るタイロンと、私しか見てないベルるんを連れて食堂へ向かう。
二階建ての食堂兼宿屋のドアを開けると、村人らしき人が数人座って喋っている。
見知らぬ若者が3人も入ってきたことに、店内の人は驚きが隠せない様子だ。
「あんたたち。こんな何もない村に何のようだい?」
食堂の女将らしき人がそう言って、カウンターから出てきてくれる。
「はじめまして。私はアリサといいます。実は、父がこの村の麦酒の大ファンで、どちらで買えるかご存知ですか?」
にこにこ、と警戒されないように笑顔で言うと、女将は納得したように「ああ!」と言った。
「うちの村の麦酒が好きなんて。アンタの父さんは中々の酒好きだね!待ってな。雑貨屋のヤンを連れてきてやるよ!」
そう言って豪快に笑うと、女将が店から出て行った。
「え。店番はいいの?」
「はは。この村の人は俺含め、みんな知り合いだからな。別に女将が少しくらいいなくなっても、問題ねぇよ」
私の疑問に近くに座っていたおじさんが答える。
「ところで。いい兄ちゃん2人連れてるけど、どっちがお嬢ちゃんのこれだい?」
そう酔っ払った様子のおじさんが、指を立てながら聞いてくる。
「もちろん。僕だよ」
にこっとベルるんが笑って、私とおじさんの間に入る。
「大切な人だから、あんまり見ないでほしいな。減ってしまったら困るから」
「ははは!中々面白い兄ちゃんだ!」
ベルるんの言葉を、冗談だと受け取ったおじさんが笑う。
ちなみにタイロンは酔っ払いの相手は苦手なようで、じっと黙っている。
少しすると女将さんが、細身で眼鏡をかけているおじさんを連れてきた。
「ほら!ヤン!このお嬢ちゃんがうちの村の麦酒の大ファンだってさ!」
「あの、私の父です」
「変わらないさ!」
ガハハと笑う女将に背中を押されたヤンが、麦酒の入った瓶を2つ私に差し出す。
私はヤンにお金を渡し、麦酒を受け取る。
「ありがとうございます。父も喜びます」
そう言って食堂から出ると、村のはずれの人気の少ないところまで移動する。
「はい。タイロン。まずは、これが必要なものなの」
私が麦酒を手渡すと、タイロンは不思議そうにしながら受け取る。
「お酒飲むと土の珠が出るのかな?」
ベルるんが。からかうように言う。そこで、ふと気がつく。
「あれ?私って土の珠が出る条件2人に話してない?」
頷く2人に、あちゃーと顔をおおう。道理で2人とも不思議そうにしているわけだ。
「ええっと。タイロンがいる土の国って、今ドワーフと仲が悪いよね?」
「ああ。その話は土の国の者にはしない方がいい」
元々土の国で過ごしていたドワーフの一族は、ある時期から国を出て放浪している。仲が悪いと言うよりは、ドワーフが一方的に嫌っている形だ。
土の国の人からすると、ドワーフに嫌われているという事実が、許せないものらしい。
「そのドワーフの長と土の国の高位貴族であるタイロンが和解することで、土の珠は出てくるんだよ」
「和解…できるのだろうか?」
「うん!そのために必要なのがこの麦酒だよ」
私がそう言うと、タイロンが持っている麦酒をまじまじと見つめる。
「あと1つ重要なアイテムがあって。そのアイテムは、この村の裏にある洞窟で手に入るよ」
「モンスターが出るなら僕の出番だね」
張り切ったようにベルるんが言ってくれる。
「残念。今回は戦わなくていいんだ。タイロンの地鳴りを壁にぶつけると、出てくる小部屋にアイテムがあるから」
「せっかくアリサに良いところ見せようと思ったのに」
「いつでも尊いから大丈夫!」
がっかりして言うベルるんに、親指を立てて言うと、タイロンの方へ向き直す。
「それじゃあ、さくっと行こうか!」
洞窟は入ってすぐに行き止まりがある。
「それじゃあ、この位置で地鳴りをよろしく」
私の言葉にタイロンは頷き、その場でどん!と1回足踏みをした。
地面が揺れ、洞窟の壁面が崩れ落ちる。その奥には大人が1人だけ入れるくらいの、小さなスペースがあった。
「これでいいか?」
「うん!ええっと、確か地面に…あった!」
地面に転がるのは、小さな石像だ。男神の像だけれど、ぼろぼろで原型をとどめていない。
石像を持ち上げて鑑定をする。
忘れられし神の像。と名称が現れる。うん。これで間違いない。
「それじゃあ村に戻ろうか!」
石像をアイテムボックスにしまうと、私は2人を見てにっこり笑った。
5
お気に入りに追加
264
あなたにおすすめの小説

聖女を巡る乙女ゲームに、いないキャラクターの神子(私)がいる。
木村 巴
恋愛
ヒロイン、ライバル令嬢、政略対象の王子様達、騎士、魔術師、神官といった面々が、震えている私を見つめている。その人達をみて、その絵が完成している事に衝撃を受けた。
私のポジションのキャラクターなんて居なかったよね?
聖女を決める試験を通して攻略するのよね?…聖女候補でもないし、居ないキャラクターの神子が私ってどういう事―?
大好きだったキャラクターも、三次元イケメンとなった彼らを、そのキャラクターだと認識出来なかった残念な私だけど…やっぱり推しに恋して推しと結ばれたい!そんなお話し。
※本編10話で完結済みです。
※番外編の聖女7話完結
☆ヘンリー、侍女、神子とリオンの番外編を落ち着いたら更新予定です。
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
俺と蛙さんの異世界放浪記~八百万ってたくさんって意味らしい~
くずもち
ファンタジー
変な爺さんに妙なものを押し付けられた。
なんでも魔法が使えるようになったらしい。
その上異世界に誘拐されるという珍事に巻き込まれてしまったのだからたまらない。
ばかばかしいとは思いつつ紅野 太郎は実際に魔法を使ってみることにした。
この魔法、自分の魔力の量がわかるらしいんだけど……ちょっとばっかり多すぎじゃないか?
異世界トリップものです。
主人公最強ものなのでご注意ください。
*絵本風ダイジェスト始めました。(現在十巻分まで差し替え中です)
モブだけど推しの幸せを全力サポートしたい!
のあはむら
恋愛
大好きな乙女ゲーム「プリンスオブハート」に転生した私。でも転生したのはヒロインじゃなくて、ヒロインの友達ポジション!推しキャラであるツンデレ王子・ディラン様を攻略できるはずだったのに、私はただの脇役…。ヒロインに転生できなかったショックで一度は落ち込むけど、ここでめげてどうする!せめて推しが幸せになるよう、ヒロインを全力でサポートしようと決意。
しかし、肝心のヒロインが天然すぎてシナリオが崩壊寸前!?仕方なく私が攻略対象たちと接触して修正を試みるけど、なぜか推しキャラのディラン様が「お前、面白いな」と興味津々で近寄ってくる。いやいや、ヒロインに集中してくれないと困るんですが!?
ドタバタ転生ラブコメ、開幕!
※他のサイトでも掲載しています。

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~
浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。
「これってゲームの強制力?!」
周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。
※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

公爵令嬢は薬師を目指す~悪役令嬢ってなんですの?~【短編版】
ゆうの
ファンタジー
公爵令嬢、ミネルヴァ・メディシスは時折夢に見る。「治癒の神力を授かることができなかった落ちこぼれのミネルヴァ・メディシス」が、婚約者である第一王子殿下と恋に落ちた男爵令嬢に毒を盛り、断罪される夢を。
――しかし、夢から覚めたミネルヴァは、そのたびに、思うのだ。「医者の家系《メディシス》に生まれた自分がよりによって誰かに毒を盛るなんて真似をするはずがないのに」と。
これは、「治癒の神力」を授かれなかったミネルヴァが、それでもメディシスの人間たろうと努力した、その先の話。
※ 様子見で(一応)短編として投稿します。反響次第では長編化しようかと(「その後」を含めて書きたいエピソードは山ほどある)。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる