【完結】推しの悪役にしか見えない妖精になって推しと世界を救う話

近藤アリス

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学園編

オークションと妖精2

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「さあさあ。今日の目玉商品ですぞ」

 わー!わー!と活気あふれるオークション会場。舞台袖に置かれた私の目には、興奮する客と売られて悲しむ人たちの姿がいた。

 オークションには怪しげなアイテム以外に、動物や人間が売られていた。

「さあ、持ってこい」

 老人がそう言うと、私の籠を女性が持ち上げて、舞台上へ上がった。

 客たちの視線が私に集まり、みんなが驚いたように見ている。

「なんて素晴らしいんだ!」

 一人の男が立ち上がって叫び、拍手をする。すると周りの客たちも、素晴らしいと拍手をし始めた。

 舞台上のライトの強さと、客の熱気に冬なのに熱さでくらくらする。私はその場にうずくまり、あえて顔は上げない。

 拍手が収まり、立っていた客が座り出した頃。舞台上の老人が、杖で私の入った鳥籠を叩く。

「妖精は強い魔法を使う存在ですが、このように。邪神様のアイテムで魔法は封じられています」

 カンカンカン、と杖が叩く音が、耳元で響いてうるさい。それでもなるべく反応しないようにして、薄目で客席を確認する。

 あそこの人たち見覚えがある。あそこが貴族席か!

 オークション会場の一部では、給仕付きの客席がある。そこに、フードを下ろしたヘレナが座っている。

 隣には、父親であるハリス子爵も座っている。他にチェルシーの他に、数名の貴族が確認できた。

 他に何か得られそうな情報がないか、と私は少しだけ首を動かし、きょろきょろと確認する。

 貴族の社交の場には、ベルるんと一緒についていたため、見知った貴族の名前は分かる。

 ヘレナがいる席の周辺にしか、貴族はいなさそうだった。頭の中で誰がいるか、を覚えるため何回も名前を反復する。

「怯えて周りを見ておりますな!さあさあ。この機会を逃しますと、もう二度と妖精なんて出品されませんぞ」

 老人が周りの様子を確認する私を見てそう言うと、オークションの始まりだ。

 客たちは手元の札を上げ、どんどん値段を釣り上げていく。

 そろそろ、この場から逃げようかな

 私がそう思い、鳥籠に手をかけて力を込めようとした、その時。

「動くな!王国騎士だ!」

 男性の声が響き、辺りは騒がしくなる。舞台の通路から多数の騎士が現れる。鎧を見る限り、水の国の騎士たちのようだ。

「アリサ!」

 切羽詰まったようなベルるんの声が聞こえ、驚きそちらを見てみる。

 騎士たちの間からベルるんが飛び出す。その後ろにはローレンがおり、騎士たちの指揮をとっているようだ。

 ベルるんは真っ先に私のそばにくると、横になったままの私を見て、その場に膝をついて座り込む。

「アリサ…?」

 私が入った鳥籠をそっと持ち上げ、震える手で小さな扉を開ける。

「ベルるん。大丈夫だよ」

 そう言って開けてもらった扉からベルるんの手のひらに降りると、そっと両手で包まれる。

「アリサ!アリサ!もう会えなくなるかと」

 ベルるんがボロボロと涙を流しながら、私を頬に押し当てる。

「ごめんね。怪我もないし、本当に大丈夫だから」

「なんで逃げてくれなかったの?アリサなら、こんな捕まったりしなかったでしょう?」

 そう言ってベルるんは、私に押し当てていた頬を離すと、私の首に付けられた首輪に気がついた。

「これは?」

「魔封じの首輪みたいで、魔法が全く使えないの。多分、オークションの人が鍵を持ってると思うけど」

「本当に怪我はない?」

 そう言って、私の身体を見て確認するベルるん。全身を見ると、ぎゅっと優しく抱きしめてくれる。

「本当に、よかった」

 そう言って、ベルるんの目から涙があふれる。キラキラと輝く涙が頬を伝い、ころんと水色の輝く珠になって転がった。

 ん?珠?

「ベルるん!!珠!水の珠!」

 そう言ってベルるんの手から無理やり抜け出すと、コロコロと転がる水色の球を拾い上げる。

 水の珠。全ての即死攻撃を無効にする。

「アリサ?」

 ずっと探していた水の珠が手に入り、私はその場に座り込んだ。条件は分からないけど、ベルるんから水の珠が出た。

「ベルるん。やったよ…っとと。何?」

 会場内は入ってきた騎士たちにほとんどの客が制圧され、静まり返っていた。しかし、突然男性の大きな声が聞こえた。

「捧げろ!捧げろ!」

 叫んでいるのは舞台上にいた老人だ。そう叫ぶと、小瓶を取り出して何かを飲んだ。

「捧げろ!捧げろ!」

 再びそう言うと、吐血し、その場に倒れる。すると、老人の体から黒いモヤのようなものが発生し、天井の方へふわりふわりと上がった。

 騎士達によりその場に座り込んでいた客たちも、素早く胸元から瓶を取り出して毒を飲む。

「しまった!みんな、抑えろ!」

 客たちは捧げろ!と叫びながら、毒を飲んでいく。すると、老人と同様に、黒いモヤが天井へ上がる。

 あっという間に、天井の黒いモヤが濃くなっていく。

「おい。こいつら、歯に毒を仕込んでるぞ!両手を抑えるだけじゃダメだ。口に何か噛ませろ!」

 どんどん倒れていく客たちに、騎士が対応をしていく。

 私はヘレナがいる方を見る。どうやら、貴族たちは誰も自害はしていないようだ。

 ヘレナを見ていると、向こうも私に気がついたようだ。騎士たちに連行されながら、叫んだ。

「もうすぐだわ!邪神様が復活して、正しい世界に戻るのよ!」

 そうヘレナが入った瞬間、激しく床が揺れる。

「地震?」

「アリサ!」

 オークションが行われていた劇場が激しく揺れる。その衝撃で窓が割れ、その隙間から黒いモヤが外へ漏れていく。

 激しい揺れが収まると、ヘレナがケラケラと笑い声を上げた。

「きっと復活なさったんだわ!」

 そのまま笑いながら騎士に連れていかれるヘレナを呆然と見ていると、ローレンとリン、そしてイーライが私たちの方へ来た。

「今回は俺に感謝しな。依頼通りヘレナを見張ってたおかげで、すぐに対応できたからな」

 イーライがそう言って指をさす方を見ると、そこには老人のそばにいた女性が立っていた。

 女性は私に近づくと、鍵を取り出し首輪を外してくれた。

 どうやら、イーライが仕込んでいた情報ギルドの人のおかげで、騎士達を呼ぶことができたようだ。

「アリサ様。大丈夫ですか?」

 走り寄ってきたリンに、笑顔で頷く。

「うん。私は大丈夫。心配かけてごめんね。それよりも、さっきの地震が気になるよね」

 ローレンもリンも緊張した面持ちだ。先ほどのモヤや地震が気になる。

 私たちは急いで劇場から外に出る。

「なに、これ?」

 お昼だというのに、空は真っ赤に染まっている。そして、街のあちこちから、黒いモヤが空の方にのぼっているのが見えた。
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