【完結】推しの悪役にしか見えない妖精になって推しと世界を救う話

近藤アリス

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学園編

星降りの夜と妖精2

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 パーティは入学式などで使用される大ホールで行われる。

 学園内で1番のイベントのため、多くの業者が入り、とても学校の行事とは思えない華やかさだ。

 ほとんどの生徒が楽しみにしており、昨日からみんなどこか嬉しそうだった。

「できました!」

 そう言って私の後ろから鏡を持ち、完成した髪型を見せてくれるリン。

 リンは薄緑のふんわりしたドレスに、編み込んだ髪の毛を小花のピンでまとめている。この髪型は、私がさっきやってあげたものだ。

「わ。リンすごい!上手!」

 鏡越しに見る私の姿に、思わずリンに拍手する。黒髪はすっきりとまとめられて、首筋が見えるためドレス映えする髪型だ。

 私は銀色のマーメイドドレスを着ている。パートナーの瞳の色に合わせるのが流行りだと、ドレス屋の店長に教えてもらったからだ。

 わくわくした様子のリンと、一緒に女子寮を出て行く。妖精姿の私を見たことがある人は、私を見てぎょっとしているが気にしない。

 ベルるんとローレンには、噴水前で待ち合わせをしている。

 噴水前に行く際にパーシヴァルとタイロンを見かけたが、それぞれ可愛らしいパートナーと一緒だった。

「ローレン様」

 噴水前で待つローレンにリンが声をかけると、ローレンとベルるんが私たちの方を見た。

「リン。綺麗だよ」

 どうやらローレンはリンの姿しか目に入っていないようで、大きくなった私には目もくれずリンの元へ。

「アリサ…?」

 信じられない、と言った様子で私を見るベルるん。

「ね?びっくりしたでしょう?」

 どんな反応が返ってくるのか、心臓がバクバクと激しく脈打つ。私自身、どんな反応を期待しているのか、それも分からない。

「綺麗だよ。とっても」

 ベルるんはそう言って微笑むと、腕を差し出してくれた。どうすれば良いか分からず、リンの方を見るとローレンの腕に、手をそっとかけている。

 私も見よう見まねで、ベルるんの肘の内側に手を置く。これであってるかな?とベルるんを見ると、笑顔で頷いてくれた。

「それじゃあパーティに行こう」

 ベルるんにエスコートされる形で、大ホールの方へ向かう。ドレスを着ている私を気遣ってか、いつもよりも歩く速度がゆっくりだ。

「アリサ、いつから大きくなれたの?」

「夏の休暇のときくらいかな」

 あはは、と私は誤魔化すように笑う。

「そっか。早く言ってほしかったけど、まさかこんな形でアリサとパーティが楽しめるとは思ってなかったから、嬉しいよ」

 話をしているうちに、気がつけば大ホールに着いていた。

 すでにパーティは始まっており、学園中の生徒たちが集まっているため人が多い。

 私たちの方を見てくる生徒もいたが、みんなそれぞれ自分達がパーティを楽しむのに夢中だ。

 立食式になっており、ホールの端にはテーブル状に美味しそうな料理が並んでいる。

 奥には演奏家の人たちがいて、大ホール中に素敵な音楽を奏でてくれている。

 ヘレナも、チェルシーもいない?

 きょろきょろ、と周りを見渡す。いつも私やリンに絡んでくる二人の姿が見えない。

 広いホール内だから、見つからないだけかな?それぞれ誰かとパーティ楽しんでるなら、良かった。

 ほっと一息つき、テーブルからシュワシュワと炭酸の泡が美しいグラスを手に取る。

 スパークリングワインのような見た目だけど、りんごの炭酸ジュースだ。これ美味しいな。

 ドリンクの美味しさに感動していると、ホール内の音楽が1度止まる。そして、ゆったりとした曲が演奏され始めた。

「アリサ。ここからはダンス用の曲になるから、一緒に踊ろう」

「ええ?私ダンス分からないよ!」

「大丈夫。僕の動きに合わせてくれたらいいからね」

 そう悪戯っぽく笑って言うと、ベルるんが私の腕を引っ張ってみんなが踊っている場所へ連れて行く。

「はい。アリサ。僕の肩に手を乗せて」

 言われるがままに手を肩に乗せると、ぐっとベルるんが私の腰を抱いて引き寄せた。

「踊ろう。アリサ」

 少し見上げる形で、ベルるんの顔がすぐ目の前にある。

「頑張るよ」

 踊れるか分からないけど、と私は付け加えて言う。ベルるんはくすくすと上機嫌で笑っている。







 楽しい時間はあっという間だ。大ホールのパーティは終わり、それぞれが移動をしていた。

 パートナーがいる人は、中庭に行く人が多い。そこから夜空に流れる星空を見るんだろう。

「アリサ。僕のお願い聞いてくれる?」

「もちろん!」

 お願い、と聞いて食い気味に返事をしてしまう。推しのお願いは叶えないと!という条件反射だ。我ながら恐ろしい。

 ベルるんのお願いは、男子寮の屋根の上にテレポートで行きたい。というものだった。

 希望通りテレポートで移動をする。

 屋根に移動すると、ベルるんは自分の上着を脱いで敷いてくれる。

「ここに座って」

 促さられるまま座ると、ベルるんも私の隣に腰を下ろした。

「わあ。綺麗!」

 空にはキラキラと輝く星たち。星降りの夜、と言う名前に相応しく、たくさんの流れ星も見える。その美しさに思わず興奮してしまう。

「ねえ、アリサ。星降りの夜に祈った願いが叶うって知ってる?」

「うん。ベルるんは何をお願いするの?」

「アリサとずっと一緒にいたい」

 その言葉にベルるんの方を見ると、真剣な表情でこちらを見ている。笑って誤魔化せる雰囲気じゃなかった。

「アリサは僕のことどう思ってる?」

「私は。ベルるんのこと幸せになってほしいって思って。だから、本当はリンとくっつくのが良いって思ってた」

「リン?」

 不思議そうにするベルるんに、言葉を続ける。

「うん。でも、ベルるんは私のこと好きだって言ってくれたよね。それなら、ベルるんのこと幸せにするのは、私でも良いんじゃないかって思ったんだよ」

 ゲームと同じならきっとリンと結ばれた方が上手くいくと思っていたけど、この世界はゲームじゃなくて現実だ。

 ベルるんが、リンが、ローレンが、みんなが生きている現実の世界なんだ。

「私もベルるんのことが、異性として好きだよ。ずっと一緒にいたいと思ってる」

 私がそう言うと、ベルるんは驚いたように固まり、そして片手を顔に当てて俯いた。

「ベルるん?」

「もう。アリサには敵わないよ」

 そう言うと、左腕を私の肩にまわしてぐっと抱き寄せる。

「アリサ。僕の可愛い妖精さん。愛してるよ」

 そう言うと、ベルるんがそっと顔を寄せて、ちゅっとキスを落とした。

 目を閉じて受け入れ、そのまま数回キスを重ねる。

 目を開けると、真っ赤な顔で私を見るベルるん。

「ベルるん。顔真っ赤」

 笑ってそう言うと、ベルるんは私の頬を突っつく。

「アリサだって、顔真っ赤だよ」

 やっぱり。さっきから頬が熱いと思った。咄嗟に両手を頬に当てる。

「…本当だ。熱い」

「でしょ?」

 見つめて笑い合うと、ベルるんががばっと勢いよく抱きつく。

「あー。もう。本当に嬉しい」

 抱きついたままベルるんがそう言って、ちゅっと私のうなじにキスをした。

 夜空から煌めく星がたくさん流れ落ちる。どうか、今日の願いが叶いますように。
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