【完結】推しの悪役にしか見えない妖精になって推しと世界を救う話

近藤アリス

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学園編

火龍討伐と妖精

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 風の国に行く際は馬車で移動をしたが、今回は火の国の王宮を目指してテレポートで移動をする。

 馬車で移動をすると3週間ほどかかってしまうため、現実的ではないからだ。火の国の王宮にあるアーサーの自室に、今回はテレポート予定だ。

 もちろん、アーサーの親である火の国の国王には、行くことは伝えている。

「それじゃあ準備はいいかな?」

「おう」

 腰元に下げてある大剣をひと撫でして、アーサーが頷く。

「大丈夫だよ」

 ベルるんが笑顔で頷いたのを見て、呪文を唱える。

「テレポート」









 目を開けると、広く豪華な部屋に着いたことが分かる。赤を基調とした家具が多く、さすが王族!という感じだ。

「よし。ついたな」

 アーサーは自室の床に荷物をどかっと下ろすと、そのまま扉の方へ向かう。

「それじゃあ早速、玉座の間に行くか。この時間なら親父もいるだろう」

 扉を開ける前に振り返り、私たちにそう言うアーサー。火龍がいる洞窟は、玉座の間にあるワープポイントから行くことができる。

 歴代の火の国王族は、そこから火龍に挑んでいる。

 私とベルるんが頷いたのを確認し、アーサーが先頭を歩いて案内してくれる。

 王宮内には使用人から、働く貴族まで多くの人がいる。それらとすれ違いながら挨拶するアーサーは、学園内で見る姿とは異なり堂々としている。

「ここだな」

 扉の前に控えている騎士にアーサーが手を挙げると、さっと動いて扉を開けてくれる。

「おお。アーサー!元気そうだな」

 扉の先には、椅子に深く腰を下ろし、豪快に笑う中年の男性がいる。アーサーを、ダンディにしたようなイケオジだ。

「親父」

 そう言うとアーサーが男性のそばに走り寄り、ベルンハルトは礼の形をとる。

「立ってくれていい。すぐに行くんだろう?」

 片膝をついて正式な挨拶の形をするベルるんに、国王が立つように言った。

「妖精殿は一緒に?」

 国王の言葉に姿を消していたことを思い出し、透明化を解く。目が合ったので、ぺこりと頭を下げた。

「初めまして。ありさと申します」

「おお。アリサ殿!愚息を頼みましたぞ」

 アーサーのことを心配してか、私の目を見てそう言った。安心させるように目を合わせたまま、しっかりと頷く。

「任せてください。今日中に必ずアーサー君も連れて戻りますから」

 国王が座っている椅子の後ろに扉があり、そこを開けるとワープがあるようだだった。

「親父。ちょっくら行ってくるわ」

「ベルるん、行こう」

 1番先にアーサーがワープに足を踏み入れ、瞬時に姿が消える。その後を追いかけて、私とベルるんもワープへと進んだ。










「あつ!」

 ワープした先の洞窟で感じたのは、まずは熱だ。壁に埋め込まれてる赤色の石から、発熱しているようだった。

「さあ。来るよ」

 私の言葉にアーサーとベルるんが剣を構える。私は素早く二人に補助魔法をかけて、攻撃や防御などを上げる。

 ごおおおおおおおお

 低い獣の唸り声のような音が聞こえ、目の前に火龍が降り立った。

 知性を感じさせる赤い瞳が、ぎらっと私たちを睨みつける。

「二人とも!作戦通りに行こう!」

 この戦いではあくまでも、アーサーがトドメを刺す必要がある。そのため、ベルるんはなるべくダメージを与えず、火龍を引きつける。

「こっちだよ」

 剣先で軽く傷つけるように攻撃するベルるん。顔の前で動かれて、火龍はうっとおしそうにベルるんに攻撃を仕掛けている。

「くらえ!」

 ベルるんが頭の方で攻撃をしている隙に、アーサーが足元を斬りつける。その瞬間、火龍がぐるんっと尻尾を動かし、アーサーに激しく当たる。

「ぐうっ」

「ヒール」

 少し飛ばされ、苦悶に顔を歪めるアーサーにすかさず回復の魔法をかける。

 ベルるんが引きつけ、隙をみてアーサーが攻撃。私は支援と回復を担当、という作戦通りに戦闘が進む。

 少しずつダメージが溜まり、火龍が苛立ったように頭を上げて叫び声をあげる。

 その隙をつき、足や尻尾を攻撃していたアーサーが、ぐっと上に伸びた火龍の首を大剣で切りつける。

 がああああああ。と最後に叫ぶと、火龍がその場でくったりと倒れ込んだ。

「倒した、のか?」

【国王の子よ。無事に試練を乗り越えたことを称賛しよう】

 火龍の声がし、倒れていた火龍が光の粒になって消えた。その場に残されているのは、討伐の証である輝く鱗だけ。

「やったね!」

「お疲れ様アリサ」

 ベルるんとハイタッチをして、二人でアーサーの元へ駆け寄る。

 アーサーは大剣の柄を握り、溢れ出た涙を拭っている。火の国の王家にとって、火龍討伐は思い入れのあるものなんだろう。

「…おおお」

 黙って涙を拭っていたアーサーが、突然変な声を出した。胸から光が現れ、火の珠がころん、と転がる。

 出てきた火の珠を手に取り、私の方へ見せてくれる。

「これが火の珠ってやつか?」

 じっと見つめると、ぽんっと画面が出てきた。

 火の珠。アーサーの熱い想いが集まったもの。パーティ全体の物理攻撃を30%上げる。

 と、書かれている。

「うん。間違いなく火の珠だよ。その火の珠なんだけど、できれば何か装飾品にしてずっと身につけていてもらえないかな?」

「なんでもいいのか?」

「うん。ちなみにパーシヴァルは、ネックレスにしたらしいよ」

 和服の下に常に身につけてくれている、らしい。こちらの世界では、身につけている物=装備品、という扱いだ。

「承知したぜ。邪神が復活したときに、身につけて戦闘に挑めばいいんだよな?」

「うん。かなりみんな強くなるはずだよ」

「そうか」

 にかっと笑い、アーサーが火の珠を閉まった。

 攻撃力を上げる火の珠。速度を上げる風の珠。守備力を上げる土の珠。そして、即死攻撃を防ぐ水の珠。この内の二つが揃ったわけだ。

 戦闘が辛くなるけど水の珠以外なら、1つか2つ無くても勝てるのに。

「アリサ?」

「あ、ごめん」

 討伐の証である鱗と、火の珠が手に入ればここに用事はない。アーサーと一緒にワープの方へ移動しようとするベルるんが、動かない私に声をかけてくれた。

 心配かけないように、笑顔を浮かべて二人のところへ急いだ。
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