上 下
43 / 57
学園編

一休みをする妖精

しおりを挟む
 女神様から夢で邪神復活を知らされて、2週間が経っていた。ベルるんは火の国に行くため、教授から授業の範囲を教えてもらい、予習を進めている。

 学園生活自体は穏やかで、あれ以来ヘレナと会っても、あちらからベルるんに構ってくることがなくなった。

 やっと興味がなくなったんじゃない?なんて、ベルるんは言っていたけど不安だ。

「アリサ様、大丈夫ですか?」

「あ。うん!ごめんね」

 ぼうっとしていると、目の前に心配そうなリンの顔。今日はリンと目線の高さが同じだ。

 今日は授業がない日のため、リンと二人で首都のカフェにお出かけをしている。一人で話している、と思われるのは申し訳ないので、初めて人型になっている。

 ベルるんには人間の大きさになれることは言っていないので、リンとお茶に行くとしか伝えていない。

 ちなみに青色のワンピースは、リンに借りたものだ。

「お待たせいたしました」

 そう言って、ウェイターさんが私とリンの前にケーキがのったお皿置いてくれる。

「わあ」

 思わず私たちが歓声をあげると、ウェイターさんはにっこりと笑顔を浮かべてくれる。

 私はチョコレート、リンはベリーのケーキにした。私のケーキは繊細なチョコレート細工でできた蝶がのっていて、とても美味しそうだ。

 いただきます。と二人とも手を合わせて、フォークを持ち食べてみる。

「おいしい!」

 ふわっと優しいチョコレートの甘さが、疲れた脳を癒してくれる。リンの方を見ると、幸せそうな顔をしている。

 しばらく二人とも無言で食べ進める。ふぅ、と温かい紅茶で喉を潤すと、リンが嬉しそうに話し出した。

「ここのケーキ、評判通りにすごく美味しいですね!」

「ね!来てよかったよ」

 にこにこと話をしていると、じっとリンが私の顔を見る。

「アリサ様。青色がよくお似合いですよ」

「ありがとう。突然言ったのに、服貸してくれてありがとうね」

 二人でカフェに行こう、と決めた昨日、服を貸して欲しいと言った私に、笑顔で青いワンピースを貸してくれた。

「それに。大きくなった私見ても、驚かなかったね」

 待ち合わせ場所で会ったリンは、初めて見る人型の私の姿にそれほど驚いていないようだった。

「どちらかと言いますと、初めて妖精様を見た時の方が驚きました」

 そう言って笑うリンに、そんなものかと納得する。

「今日、服買ったらちゃんと綺麗にして返すから」

 プラス、何かリンが欲しがっているものが買い物中にあれば、お礼にプレゼントするつもりだった。

 そう。カフェでのんびりした後は、二人でショッピングの予定だ。この世界に来てベルるん以外の人と、買い物をするのは初めてだった。

 のんびり紅茶を飲んでいると、周りのお客さんが騒がしくなる。

「あの人かっこいいね」

「あー。でも、女の子連れてる。彼女かな?」

 ざわざわ、とする方を見てみると、そこには可愛らしい女の子を連れたパーシヴァルがいた。

 深い緑色の和服を着こなしたパーシヴァルは、こちらを見て驚いたように目を丸くする。

「アリサ殿?びっくりでござるよ」

 そう言ってこちらに歩いてくるパーシヴァル。後ろの女の子は、私とリンにぺこりと挨拶をしてくれる。

「ベルるんには、まだ大きくなれること言ってないから、内緒にしといてね」

「了解でござる」

 うんうん、と頷くパーシヴァルに、ひとまずホッとする。

「妹さんは元気にしてる?」

「おかげさまで。もう外で同じ歳の子と走って遊べるまで元気になったでござるよ」

 にこにことパーシヴァルが嬉しそうな顔で言い、私も嬉しくなる。

「それじゃあ、拙者はこれで」

 そう言って、パーシヴァルは私たちと離れた席に座った。

「彼女ですかね?」

 若い少女らしく恋の話が好きなのか、リンが嬉しそうに言ってくる。

「パーシヴァルと関わりってあんまりないの?」

「そうですね…。同じクラスなので話したことはありますが、学園外で話したのは初めてですね」

「そっかあ」

 乙女ゲームのはずなのに、ローレン以外の人が積極的にリンに近づく様子はなかった。

 ベルるんだけではなく、アーサーやパーシヴァル、タイロンもリンと親しくする様子はない。

「どうかされましたか?」

「ううん。リンはやっぱりローレンが好きなの?」

「えええ。急に何を!」

 私の問いに顔を真っ赤にして慌てるリン。その姿から、ローレンが好きなことが分かる。

「私はただの巫女です。第一王子であるローレン様と、不釣り合いですから」

 真っ赤な顔をしていたリンは、そう言うと今度は悲しそうな表情を浮かべた。

「大丈夫。リンはローレンと世界を救うから。誰も文句は言えないはずだよ」

「え?」

「邪神復活の時には、リンとローレンにも力を貸してもらうことになるから」

 周りの客に聞こえないように声をひそめて話す。リンとローレンは邪神復活に向けて、レベル上げも頑張ってくれている。

 そっとリンの両手を握る。

「世界を救って、幸せにもなろう。ね?」

 そう言うと、リンはパチパチと瞬きをしてから、ふわっと笑顔を浮かべてくれた。

「頑張ります!」

「よし。そろそろお買い物行こうか」

 そう言って二人でお店を出た。邪神復活の時な迫ってきているけれど、今日は束の間の休息だ。

 イーライに素材を渡して貰ったお金で、思う存分買い物を楽しんだ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

悪役令嬢は婚約破棄したいのに王子から溺愛されています。

白雪みなと
恋愛
この世界は乙女ゲームであると気づいた悪役令嬢ポジションのクリスタル・フェアリィ。 筋書き通りにやらないとどうなるか分かったもんじゃない。それに、貴族社会で生きていける気もしない。 ということで、悪役令嬢として候補に嫌われ、国外追放されるよう頑張るのだったが……。 王子さま、なぜ私を溺愛してらっしゃるのですか?

醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 とある侯爵家で出会った令嬢は、まるで前世のとあるホラー映画に出てくる貞◯のような風貌だった。 髪で顔を全て隠し、ゆらりと立つ姿は… 悲鳴を上げないと、逆に失礼では?というほどのホラーっぷり。 そしてこの髪の奥のお顔は…。。。 さぁ、お嬢様。 私のゴットハンドで世界を変えますよ? ********************** 『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』の続編です。 続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。 前作も読んでいただけるともっと嬉しいです! 転生侍女シリーズ第二弾です。 短編全4話で、投稿予約済みです。 よろしくお願いします。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】転生したら悪役令嬢だった腐女子、推し課金金策してたら無双でざまぁで愛されキャラ?いえいえ私は見守りたいだけですわ

鏑木 うりこ
恋愛
 毒親から逃げ出してブラック企業で働いていた私の箱推し乙女ゲーム「トランプる!」超重課金兵だった私はどうやらその世界に転生してしまったらしい。  圧倒的ご褒美かつ感謝なのだが、如何せん推しに課金するお金がない!推しがいるのに課金が出来ないなんてトラ畜(トランプる重課金者の総称)として失格も良い所だわ!  なりふり構わず、我が道を邁進していると……おや?キング達の様子が?……おや?クイーン達も??  「クラブ・クイーン」マリエル・クラブの廃オタク課金生活が始まったのですわ。 *ハイパーご都合主義&ネット用語、オタ用語が飛び交う大変に頭の悪い作品となっております。 *ご照覧いただけたら幸いです。 *深く考えないでいただけるともっと幸いです。 *作者阿呆やな~楽しいだけで書いとるやろ、しょーがねーなーと思っていただけるともっと幸いです。 *あと、なんだろう……怒らないでね……(*‘ω‘ *)えへへ……。  マリエルが腐女子ですが、腐女子っぽい発言はあまりしないようにしています。BLは起こりません(笑)  2022年1月2日から公開して3月16日で本編が終了致しました。長い間たくさん見ていただいて本当にありがとうございました(*‘ω‘ *)  恋愛大賞は35位と健闘させて頂きました!応援、感想、お気に入りなどたくさんありがとうございました!

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました! でもそこはすでに断罪後の世界でした

ひなクラゲ
恋愛
 突然ですが私は転生者…  ここは乙女ゲームの世界  そして私は悪役令嬢でした…  出来ればこんな時に思い出したくなかった  だってここは全てが終わった世界…  悪役令嬢が断罪された後の世界なんですもの……

処理中です...