【完結】推しの悪役にしか見えない妖精になって推しと世界を救う話

近藤アリス

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学園編

不穏な気配と妖精

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 真剣な表情の女神様につられて、私も自然と姿勢を正す。

「今まではローレンやリンが卒業して、約1年後に写真が復活していました。げぇむでもそうでしたよね?」

「はい。学園が終わって、それぞれの国編が始まってちょうど1年後でした」

「それが、今の世界では、邪神教の動きが活発化していて、もっと早く復活しそうなのです」

 女神様の言葉にぎょっとする。女神様はそんな私を気の毒そうに見つめ、さらに言葉を続ける。

「今まで平民や貧しい商人を中心に広まっていた邪神教ですが、なぜか貴族たちにも広まっているようです。その資金を持って、さらに邪神教が拡大しています」

 なぜかは分からないけれど、私がこの世界で過ごすことで悪い方へ未来が変わってしまったようだ。

「邪神復活がいつになるか、ハッキリとしたことは分かりません。ですが。おそらく、ありさ達が学生のうちに復活するでしょう」

「そうですか」

 下を向いて、ぐっと唇を噛み締める。風の珠は集まったけれど、まだ火も土も。そして、最も必要な水の珠も、手に入っていない。

 ベルるんから水の球を手に入れる方法を探さないと、せっかく幸せになった推しが死んでしまう。そんなのは、絶対に嫌だ。

 私はしばらく考え込み、そして顔を上げる。

「教えてくださってありがとうございます。とにかく、入手方法がわかっている火の珠の入手を急ぎます」

「そうですね。それがいいでしょう」

「女神様に1つお願いがあるのですが」

「何でも言ってください」

 微笑む女神様。邪神復活について焦るけれど、私はできることをやっていかないと!

「学園の方へ、ベルるん、リン、ローレン、パーシヴァル、アーサー、タイロンが自由に動けるように伝えることはできますか?これから、授業を休むことが増えると思うので」

 私の言葉に、胸に目を当てて女神様が頷く。これからレベル上げをしてもらったり、土や火の珠を取りに行ったりする必要がある。休暇のたびにいくのでは、間に合わないだろう。

「そんなことでよければ。直接学園長の夢に出て、お願いをしておきましょう。

「ありがとうございます」

 にっこりと笑顔でお礼を言うと、女神様が首を横に振る。

「お礼を言うのはこちらの方ですよ。ありさ。私たちの世界のために、本当にありがとうございます」

「私は推しを見守れることが1番の幸せなので、大丈夫です」

 女神様がこの世界に呼んでくれたおかげで、ベルるんを幸せにできた。それは私にとって、すごく幸せなことだ。

「ふふ。ありさは本当にベルンハルトを愛してくださっているのですね」

「愛ですね」

 恥ずかしげもなく言うと、女神様がくすくすと笑う。

「そういえば、ありさ。あなたの身体は魔法エネルギーそのもの、という話はしましたよね?」

「この世界に来てすぐの時に、教えてもらいましたね」

 私が頷くと、女神様がとっても嬉しそうに笑った。

「エネルギー体だから、普通の人間くらいの大きさになれるのは、気がついていないですよね?」

 ぱちん、と女神様が指を鳴らすと、ばちんと音がして、急に視界が高くなる。

「うわわ、伸びた?わ?服がー!」

 妖精の大きさから、普通の人間サイズに大きくなる。自分の身体を見ると、裸だったため叫んでしゃがみ込む。

 よく見ると足元に着ていたワンピースが落ちている。さっきのばちんって音は、服がちぎれた音か!

「夢の中なので服も大きくできますが、現実世界だと服が破れる、というお知らせのためにも、そのまま大きくしてみました」

「あ、ありがとうございます!!」

 ベルるんの前で素っ裸で立ち尽くす自分のイメージが浮かび、女神様に勢いよくお礼を言う。

「それでは、私はこのまま神殿関係者や学園長のところへ行ってきますね。ありさ。よろしく頼みましたよ」

 女神様がそう言うと、目の前が真っ白になる。そして、目を開けると、ベルるんの顔がドアップであった。

 んんん!なにこのご褒美!

 キラキラとカーテンから漏れる光で、ベルるんの金色の髪が煌めく。すうすうと穏やかな寝息をたてる推しは、まさに美の化身だ。

 うっとりと推しの顔を堪能していると、先ほどの女神様との会話を思い出す。

 水の珠は、どうやったら手に入るんだろう?ゲーム通り、死ぬ時に流す涙じゃないと出ないのかな。

 じわり、と私の目に涙が浮かぶ。この世界に来て、初めての涙だった。

 ううん。この世界は似てるけど、ゲームじゃない。だから、きっと。何か方法があるはず。

 涙が目からあふれる前に、ごしごしと手でこする。

「とにかくやれることをやろう」

 まず最優先は火の珠の入手。そして並行して、レベル上げだ。次に土の珠だけど、これは2年の夏まで手に入らないから、できればその前に水の珠を手に入れたい。

「うん。まずは火の珠だ。頑張ろう」

 ぐっと拳を握り、上に突き上げる。

「んん」

 私の声に反応してか、ベルるんが小さく声を出して身じろぎをする。

 せっかくベルるんよりも早く起きたし、もう少し堪能しようかな。

 そう思い、起きないように頬を指で突っついた。

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